93年6月19日、私は雨にもかかわらず西武球場に出向いた。試合は11:00の開始予定だ。9:00過ぎに西武球場に電話したら、「1時間後にもう1度かけてくれ」とおっしゃる。悠長に10:00に出ても試合開始には間に合わない。
「そんなことを言うなら、辺鄙なところに球場をつくるな!」と言いたかったけれども、別に彼女のせいではない。静かに受話器を置いて窓を開けると、プロ野球なら間違いなく中止という雨だ。文京区と所沢では距離もあるし、プロと違ってアマは無理やり「雨天決行」することがあるから読みにくい。
その日の西武球場では、都市対抗東京2次予選の2試合が予定されていた。最悪の場合は、M対H戦が予定されている千葉マリンに折り返す覚悟で家を出た。「見切り発車」だ。
私が西武球場に着いたのは、11:00より少し前だった。第1試合はJR東日本とプリンスホテルの対戦だ。ゲームはもう始まっていた。さすがに社会人野球だ。当時の私はウブだった。なにしろ社会人野球を見るのはまだ21試合目だったのだ。だが、定刻前に始めるのは悪い習慣なのだ(→「長くひもじい1日だった」)。
私がスタンドを歩いているとき、アウトカウントは2つでランナーはいなかった。JR東日本の3番打者が二塁打を打った。そして、右打席の4番打者のヒットで先制点が入った。4番が深瀬だった。
レフトなのかセンターなのかライトなのか、私のスコアブックにはヒットの印しかついていない。どこに飛んだ打球なのかわからない。内野安打ではなかったはずだ。
雨だから座るまで時間がかかる。濡れた椅子にそのまま座ることはできないし、鞄も放り出してはおけない。だからボールカウントも記入していない。今にして思えば、かえすがえすも残念だ。そのときはまだ、その1本のシングルヒットがのちに大きな意味を持つことになるとは思っていなかったのだ。
〔深瀬の第1打席〕 1表2死2塁でタイムリーヒット(相手投手=市島R)
| JR東日本 | 10 | =6 | |
| プリンスホテル | 02 | =2 |
2回裏にプリンスホテルが逆転した。まだ、どこにでも転がっているようなありふれた試合だった。深瀬の第2打席は3回表に回ってきた。フルカウントからの7球目、ライトポール際にエンタイトルの二塁打を放った。エンタイトルは(金網が低かった)当時の西武球場名物だ。
〔深瀬の第2打席〕 3表2死1塁 BSSBBFH:ライトオーバーの二塁打(市島)
▲▼「S」は見逃しストライク、「K」は空振り、「F」はファウル、「B」はボール、「H」はインプレイの打球です。
| JR東日本 | 1003 | =4 | |
| プリンスホテル | 0272 | =11 |
3回裏、プリンスは打者11人の攻撃で7点を奪った。4回表にはJRも3点返したが、プリンスもその裏に2点追加して突き離す。深瀬の第3打席は5回表の先頭打者だった。0−2からの3球目、あわやフェンスオーバーかという2打席連続の二塁打を放った。
〔深瀬の第3打席〕 5回表無死無走者 BBH:センター左に二塁打(斎藤貢R)
▲プリンスホテルの「斎藤貢」はホークス→ファイターズの「斉藤貢」です。社会人時代は「斎藤」と「斉藤」が混在していました(「斎藤」のほうが多数、ただし微差)。プロ入り後は「ミツグ」時代を除き「斉藤」で登録されています。ドラフト時点では「斎藤」でした。参考→「斎藤と斉藤について」
| JR東日本 | 1003001 | =5 |
| プリンスホテル | 027202 | =13 |
プリンスは6回裏に奥村剛のホームランで2点を加えた。これで、スコアは13対4。9点差だ。コールド規定は7回10点差だから、コールドまで「あと1点」ということになる。奥村の次打者は、ストレートのフォアボールで一塁に歩いた。
まだノーアウトだった。プリンスは10点差目の一塁走者を得点圏に送ろうとした。だが、バントのファウルが2つ続いた。スリーバントは最悪のゲッツーになった。プリンスにとっての悪夢の始まりだった。もちろん、まだ誰も気づかなかっただろう。
7回表、JRの3番打者がソロアーチを放った。8点差だ。深瀬の第4打席はその直後だった。深瀬は初球を打った。レフト前のシングルヒットだ。
〔深瀬の第4打席〕 7回表無死無走者 H:レフト前ヒット(斎藤貢)
| JR東日本 | 1003006 | =10 | |
| プリンスホテル | 0272024 | =17 |
JRは7回に計6点を返して3点差まで詰め寄った。その裏のプリンスも4点取った。スコアは17対10、そろそろ電卓がほしくなる。深瀬の第5打席は8回表の先頭打者だった。ピッチャーは左の白井に代わっていた。深瀬はまたしても初球を打った。今度はライト前のヒットだ。
〔深瀬の第5打席〕 8回表無死無走者 H:ライト前ヒット(白井L)
| JR東日本 | 10030065 | =15 | |
| プリンスホテル | 02720240 | =17 |
JRは8回、深瀬のヒットを足がかりに5点を返した。17対15の2点差だ。さっきまでコールド寸前だったのに、にわかに風雲急を告げる展開になってきた。とても野球の試合とは思えないスコアでもある。
8回表のJRはちょうど打者一巡だったから、深瀬の第6打席は9回表の先頭打者だった。2−1からの5球目を叩いた。打球は左中間を破り、この日3本目の二塁打となった。そのあと、四球と本塁打で3点が入り、JR東日本はとうとう最大9点差をはね返した。
〔深瀬の第6打席〕 9回表無死無走者 BSKFH:左中間二塁打(小川L)
9回裏のプリンスは、先頭打者がバントヒットで出た。この日、ヒット4本と犠牲フライ1本の奥村が打席に入る。ホームランなら逆転サヨナラになる。ここまでくれば、もう「なんでもあり」だ。何が起きても不思議ではない。
フルカウントになって、一塁走者が走った。奥村の打球はライトに飛んだ。ただし、ゴロではなかった。エンドランは裏目に出てツーアウト走者なし。最後の打者は、一塁を守る深瀬へのファウルフライに倒れた。
| 93/06/19(西武) 都市対抗東京2次予選1回戦 試合時間:4時間20分 | ||
| JR東日本 | 100 300 653 =18 | 手塚−浜崎−黒鳥−宇井−山村−○岡本 |
| プリンスホテル | 027 202 400 =17 | 市島−斎藤貢−白井−●小川 |
冒頭で述べたようにこの日は雨だった。試合中1度も傘は手放せなかった。スコアブックが濡れないように、私はタオルでくるんでいた。書き込むのに必要な部分だけ「窓」を開けていた。だから、深瀬の6打数6安打に気づいたのは試合が終わったあとだった。1試合6安打は今でも深瀬1人だ。
◆この試合は、金属バット時代のものです。社会人野球は02年から木製バットに戻っています。
さすがに6安打は深瀬1人だが、5安打なら20人いる(02年末現在)。標準的なゲームの場合、第4打席は回ってくるので、1試合4安打なら自力でも可能だ。チーム全体が打ってくれなければ5打席目はなかなか回らない。
したがって、1試合5安打は大量得点の試合に限定されることになる。[01]は5点しか入っていないが、これはチーム19残塁という歴史的な試合だった(→「2度と行きたくない球場」)。
| NO. | 年月日 球場 |
打者(打順) 所属 |
打撃結果 | スコア 対戦相手 |
種別・大会 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| [01] | 91/05/14 立川 |
鈴木(1番) ジャイアンツ |
1表 四球 |
2表 右安 |
4表 中安 |
5表 中安 |
7表 右安 |
9表 左2 |
5○2 スワローズ |
プロ イースタンリーグ |
|
| [02] | 92/07/05 東京ド |
大野(2番) ホークス |
1表 中安 |
3表 右2 |
5表 左2 |
6表 左2 |
9表 左2 |
10○4 ファイターズ |
プロ パシフィックリーグ |
||
| [03] | 93/05/04 神宮 |
清原(4番) 青山学院大 |
1表 右安 |
2表 右邪 |
4表 左安 |
6表 右本 |
8表 中安 |
9表 右安 |
15○3 亜細亜大 |
東都大学リーグ1部 | |
| [04] | 93/06/19 西武 |
松村(8番) JR東日本 |
1表 遊ゴ |
4表 左2 |
6表 中安 |
7表 左安 |
8表 右本 |
9表 左2 |
18○17 プリンスホテル |
社会人 都市対抗東京予選 |
|
| [05] | 93/08/28 西武 |
鈴木健(6番) ライオンズ |
1ウ 中安 |
3ウ 左2 |
5ウ 中安 |
6ウ 左安 |
8ウ 右2 |
10○8 マリーンズ |
プロ パシフィックリーグ |
||
| [06] | 93/10/02 駒沢 |
工藤(8番) 東海大 |
2表 左2 |
4表 右安 |
5表 中2 |
6表 左2 |
7表 左安 |
19○0 明治学院大 |
首都大学リーグ1部 | ||
| [07] | 93/11/21 神宮 |
松本(3番) 住友金属 |
1ウ 左安 |
3ウ 中安 |
5ウ 中2 |
5ウ 中安 |
7ウ 右本 |
15○13 青山学院大 |
アマ王座決定戦 | ||
| [08] | 94/06/11 神宮 |
江藤(6番) カープ |
2表 中安 |
4表 左安 |
6表 二安 |
7表 左安 |
9表 中安 |
7●12 スワローズ |
プロ セントラルリーグ |
||
| [09] | 95/06/21 神宮 |
柴(1番) 朝日生命 |
1表 左本 |
3表 左本 |
4表 左安 |
6表 中安 |
8表 右2 |
9○1 JR東日本 |
社会人 都市対抗東京予選 |
||
| [10] | 95/07/19 川崎 |
唐*(2番) 県川崎高 |
1表 中安 |
3表 左安 |
5表 遊安 |
6表 中安 |
6表 左安 |
16○1(6回) 神奈川大付高 |
高校 選手権神奈川予選 |
||
| [11] | 95/07/30 東京ド |
松中(3番) ※川鉄千葉 |
1表 二安 |
2表 二ゴ |
5表 左2 |
7表 右安 |
8表 右安 |
9表 左安 |
13○8 JR東日本東北 |
社会人 都市対抗 |
|
| [12] | 95/08/01 東京ド |
高林(1番) 日本石油 |
1ウ 中安 |
3ウ 中安 |
5ウ 中3 |
6ウ 二安 |
8ウ 中本 |
10ウ 敬遠 |
8○7 NKK |
社会人 都市対抗 |
|
| [13] | 96/05/10 北九州 |
田村(2番) 田村コピー |
1ウ 遊失 |
2ウ 中安 |
3ウ 左安 |
5ウ 中安 |
7ウ 右安 |
8ウ 遊安 |
11●14 三菱重工長崎 |
社会人 九州大会 |
|
| [14] | 97/03/12 横浜 |
高根沢(4番) 三菱自動車川崎 |
1表 中2 |
2表 中本 |
3表 左安 |
5表 四球 |
7表 右2 |
8表 三振 |
9表 右3 |
23○17 日本石油 |
社会人 スポニチ大会 |
| [15] | 97/04/12 草薙 |
大高(1番) ヤオハンジャパン |
1ウ 一安 |
2ウ 中安 |
3ウ 右安 |
6ウ 左安 |
7ウ 投安 |
8ウ 三振 |
10●12 ヨークベニマル |
社会人 静岡大会 |
|
| [16] | 97/04/29 横浜 |
ローズ(4番) ベイスターズ |
1ウ 右本 |
3ウ 中2 |
4ウ 中安 |
6ウ 中安 |
8ウ 中3 |
11○2 スワローズ |
プロ セントラルリーグ |
||
| [17] | 97/07/23 東京ド |
酒井(4番) ※NTT北海道 |
2表 右飛 |
3表 中安 |
4表 左安 |
5表 左本 |
8表 中3 |
9表 中2 |
16○11 川鉄水島 |
社会人 都市対抗 |
|
| [18] | 97/08/02 浦和市営 |
津川(6番) スワローズ |
1表 左安 |
3表 右安 |
5表 中安 |
6表 中2 |
8表 右安 |
10○5 マリーンズ |
プロ イースタンリーグ |
||
| [19] | 97/08/13 甲子園 |
喜多(3番) 智弁和歌山高 |
1ウ 右安 |
2ウ 中安 |
3ウ 右安 |
4ウ 中3 |
6ウ 中飛 |
7ウ 右安 |
19○6 日本文理高 |
高校 選手権 |
|
| [20] | 00/11/17 神宮 |
千**(3番) 九州学院高 |
1ウ 左2 |
2ウ 中安 |
4ウ 中安 |
6ウ 右2 |
7ウ 左安 |
9ウ 三振 |
10●12 日大三高 |
高校 神宮大会 |
|
▲※印の松中は新日鉄君津、酒井はヴィガしらおいからの補強選手です。1人ぐらい漏れがあるかもしれません。もっとも、漏れていたところで何の影響もありません。まあ、気づいたら補足しますが…。
20人のうち5打席5安打が9人いる。27アウト+10得点+9残塁のとき、1番打者には6打席目が回るわけだから、「先攻で2桁得点」が6打席目を迎える目安になるだろう。[10]は得点差によるコールド規定にひっかかって6打席目が回らなかった。
大差がつけば主力選手は退いてしまうことがある。[06]の工藤は17対0とリードした7回裏の守備から退いた。惜しかったのは[07]の松本(のちにマリーンズ)だろう。8回裏は2番打者で終わっている。もう1人だけ走者が出ていたら、6打席目が回ってきたのだ。住金が先攻か、あるいは同点もしくは負けていたら、と思わなくもない。
5の5で6打席目が回ったのは3人いる。あいにく[12]の高林は同点の延長10回裏一死二塁で迎えた6打席目だったので、予定調和的に敬遠された。[15]と[20]は、ともに見逃し三振に倒れて、深瀬に並ぶ6安打目は出なかった。
▼S…見逃しストライク、K…空振り、F…ファウル、B…ボール、H…インプレイの打球
94/03/13(神宮)スポニチ大会2回戦 対日本石油 4番ファースト 投手 回 アウト走者 投球 結果 春田R 1表1死1・2塁 BKKS 三振 春田R 4表無死(なし) BSBSFH 左飛 春田R 6表2死(なし) H 投ゴ 94/06/22(神宮)都市対抗東京2次予選敗者復活2回戦 対東京ガス 4番ファースト 富岡L 2ウ無死(なし) SH 二ゴ 富岡L 4ウ無死(なし) SFBK 三振 富岡L 5ウ2死1・2塁 BKSBBK 三振(5球目暴投で各走者進塁) 富岡L 8ウ無死(なし) H 中安 富岡L 10ウ2死(なし) BH 中本(サヨナラ、打点1) 95/06/03(府中)都市対抗東京1次予選2回戦 対リクルート 4番ファースト 植田R 1表2死1塁 BSH 投ゴ 植田R 3表1死(なし) BBBSH 左飛 植田R 5表2死1塁 FBBH 中飛 山口L 7表1死1・2塁 FBKH 投ゴ(各走者進塁) 上森R 9表1死(なし) BBSBB 四球 95/06/21(神宮)都市対抗東京2次予選敗者復活2回戦 対朝日生命 4番ファースト 古谷L 1表1死1・2塁 BFBSBK 三振(3球目二走が三盗失敗、一走は二進) 古谷L 4表無死(なし) H 右飛 古谷L 6表1死(なし) SKFBFH 左飛 古谷L 9表1死(なし) BH 左安 97/03/09(神宮)スポニチ大会1回戦 対三菱自動車京都 6番ファースト 木原R 2表無死(なし) SBH 遊ゴ 木原R 3表2死1塁 H 右2(打点1) 木原R 4表2死2塁 H 左飛 田渕R 6表2死2塁 KBH 左本(打点2) 田渕R 7表1死1・2塁 SH 中2(打点2)
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