◆同じ大会をある程度長く見ていると、「この顔合わせは前にも見たことがある」という試合にぶつかります。
96年9月11日のことだった。私は神宮第二球場で東都大学リーグ2部の試合を見ていた。第1試合は中央大が東京農業大に順当勝ちした。勝利投手は1年生の花田真人(のちにスワローズ)であり、中大の4番は堀田一郎(のちにジャイアンツ)だった。ちなみに、阿部慎之助(のちにジャイアンツ)はまだ入学前だ。
第2試合が始まる。スタンドの雰囲気が何か違う。たしかに何かが違うのだが、その理由が思いつかない。それが気になって、なかなか落ち着かない。試合に集中できない。4回表の攻撃が始まったとき、マネージャーと思われる1人の女子学生が通路を横切った。
「あっ、そうか!」――声は出さずに、思わず私は膝を叩いた。要するに、スタンドにまるで女っ気がないのだ。それもそのはず、その試合は国士舘大と拓殖大の対戦だった。改めて周囲を見渡してみた。その女子学生がスタンドの唯一の女性だった(その後、数人に増えた)。
アマチュア野球の場合、スタンドの男女比は9:1か、せいぜい8:2だろう。一般的には観客の多いメジャーな大会ほど女性比は高くなる傾向にある。だが、マイナー大会だからといって、女性客がゼロになることは珍しい。選手の身内が見に来るものだからだ。
マイナー大会のスタンドでは、選手の身内を含めた観衆より次の試合の選手や試合を終えた選手のほうが多かったりする。あまり知られていないけれども(知られている必要はないと思われるが…)、『公認野球規則』には次のような規定がある。
3・09 ユニフォーム着用者は、次のことが禁じられる。
(1)プレーヤーが、試合前、試合中、試合後を問わず、観衆に話しかけたり、席を同じくしたり、スタンドに座ること。
(2)監督、コーチまたはプレーヤーが、試合前、試合中を問わず、いかなるときでも観衆に話しかけたりまたは相手チームのプレーヤーと親睦的態度をとること。
【注】アマチュア野球では、次の試合に出場するプレーヤーがスタンドで観戦することを特に許す場合もある。
本文1項と2項が原則規定であり、【注】はその例外規定であると私は理解する。標準的日本人の国語力でも、たぶんそうだろう。【注】によってスタンド観戦が認められているのは、「次の試合に出場するプレーヤー」のみだ。監督やコーチは含まれないし、「前の試合」の選手も含まれない。
【注】には「特に許す場合もある」と記述されているのだから、連盟内規なり大会規定なりで認めない限り、スタンド観戦は不可であるはずだ。悪趣味な私は各種大会の大会規定等をチェックしてみるのだが、スタンド観戦を認める規定は存在しないようだ。
そうすると、高校野球で見られるようにベンチ入りしない選手がユニフォームを着用して応援することも、「法律論」としてはNGなのではないかと思われる。まあ、禁止されるべきだとは思わないけれども…。
▲都市対抗ではユニフォームのままでのスタンド観戦を禁止するお達しが出ているようです。なお、3.09にはペナルティがありません。したがって、禁止されていると言っても、実効性には欠けるわけです。また、欽ちゃん球団の萩本監督によるいわゆる「マイク・パフォーマンス」は、同条に抵触することになるはずです。まあ、練習試合なら対戦当事者間で容認すれば済む話です…。
男子の野球で、スタンドの男女比が極端に男に傾くのは、選手もOBも男だからだ。女子軟式野球の場合、選手もOGも女であり、私のような一般の観客はごく少数だ。だから、スタンドの男女比が派手に逆転することになる。
昔話をもう1つ。95年に郡山の開成山球場に行ったときのことだった。3番乗り場からバスに乗ればいいと聞いていた。3番乗り場に向かおうとしたら、そこには白いブラウスの女生徒が40〜50人並んでいた。ほかに乗客(予定者)はいないようだ。どうせ10分か15分ぐらいの道のりだろうが、とてもご一緒する気にはなれなかった。
その日は社会人野球の4試合日なのだ。まだ朝の8時前だ。前後左右からピーチクパーチクやられたら、試合前からゲンナリだ。私はバスの出発時刻を確かめることさえせずに、後ずさりしながらタクシー乗り場に方向転換した。たじろいで逃げ出した私には、あのバスに1人で乗り込む勇気がなかった。
女子軟式野球でも女子のソフトボールでも、スタンドは9割方女性で占められる。試合が始まってしまえば、そんなことなど関係ないし、慣れてしまえば、試合前であってもどうということもない。ただ、そこに最初に飛び込んで行くには、誰かに背中を押してもらう必要があるかもしれない。「助走をつけて飛び蹴り」なら、なおいい。
私が初めて女子軟式を見に行ったのは97年だった。2日目の第1試合は接戦だった。
| 97/08/10 女子軟式選手権 2回戦 (江戸川) | ||
| 札幌シェールズ | 210 01 =4 | ○#21 |
| 東京ウイングス | 002 10 =3 | ●#21 |
1点を追う東京ウイングスの最終回の攻撃は、5番打者から始まった。フルカウントから四球を選んだ。同点のランナーだ。6番の左打者は3球目を右中間に運んだ。同点の走者は三塁に進み、逆転の走者が二塁に出た。ノーアウトで一打逆転サヨナラ、という場面だ。ただし、打順が下位打線だ。動きがあるだろう。
7番打者の初球はボール、2球目のスクイズがファウルになった。3球目はショートゴロ。三塁走者が挟まれた。三塁走者はアウトになったが、ランダウンプレイの間に二塁走者は三塁に、打者走者も二塁に進んだ。一死二・三塁だ。
8番打者の初球前、もう1つあるかもしれないと思っているとき、三塁走者が牽制で刺された。痛恨のタッチアウト。8番打者はファウルで粘って四球を得たが、9番打者がサードゴロに倒れて、試合は切なく終わった。
04年の準決勝では、第1試合で札幌シェールズが大阪ワイルドキャッツを退け、第2試合で東京ウイングスがコンプレックスを降した。調べてみると、両者の顔合わせは02年の2回戦でもあるようだ。04年決勝戦のカードは全国大会3度目の対決になるわけだ。
| 札幌シェールズ | 東京ウイングス | |
|---|---|---|
| 97年 | 11○0キープハート 4○3東京ウイングス 4○3大阪ディアズ 0●7オール兵庫(ベスト4) |
?○?ホワイトエンジェルス 3●4札幌シェールズ(2回戦敗退) |
| 98年 | 7●11大阪ディアズ(1回戦敗退) | 4●7オール兵庫(1回戦敗退) |
| 99年 | 10○0バンディッツ 2○1コンプレックス 3●7アドバンス(ベスト8) |
35○3ボルケイノス 1●4オール兵庫(2回戦敗退) |
| 00年 | 14○2神戸レディース 8○1ライズ 13○0パラドックス 2●3愛知アドバンス(ベスト4) |
0●7ブレインズ(1回戦敗退) |
| 01年 | 10○0エイムワン 2○0ブレインズ 2○1バットマン 5○1ヴィッキーズ 4●6愛知アドバンス(準優勝) |
9○6札幌ブレイク 7○1パラドックス 0●5ヴィッキーズ(ベスト8) |
| 02年 | 6○0パラドックス 5○4東京ウイングス 6●9愛知アドバンス(ベスト8) |
19○0久留米商 4●5札幌シェールズ(2回戦敗退) |
| 03年 | 11○0ストレイシープ 5○0ブレインズ 0●3町田スパークラーズ(ベスト8) |
1●2ヴィッキーズ(1回戦敗退) |
| 04年 | 2○0ブレインズ 7○1オールフラワーズ 5○1パラドックス 3○1大阪ワイルドキャッツ(決勝進出) |
20○0札幌ドリームズ 4○0オール兵庫 9○4千葉マリンスターズ 6○4コンプレックス(決勝進出) |
初の決勝進出を果たした東京ウイングスが、今度こそ最後の扉をこじ開けたい札幌シェールズに挑むという構図だった。
せっかくだから、7年前とスタメンを比較してみよう。
| 札幌シェールズ | 東京ウイングス | ||
|---|---|---|---|
| 04/08/16 のスタメン |
97/08/10の出場の有無 | 04/08/16 のスタメン |
97/08/10の出場の有無 |
| 投(#18) 左(#7) 中(#21) 遊(#19) 捕(#23) 三(#17) 右(#20) 二(#10) 一(#0) |
登録なし 登録なし 5番ピッチャーで完投(5安打8四球) 登録なし 登録なし 登録なし 登録なし 登録なし 登録なし |
遊(#11) 中(#1) 一(#10) 投(#21) 三(#13) 捕(#16) 左(#3) 右(#6) 二(#17) |
7番サードで3の0 1番ライトで1の0、2四球1盗塁 登録なし 登録なし 登録なし 8番キャッチャーで1の0、2四球 3番レフトで2の2、1四球3盗塁 途中出場で2の2 登録なし |
シェールズのスタメンでは、3番センターの選手だけが7年前を経験している。7年前は投手として苦しみながらも完投した。午前中の準決勝では4安打2四死球で1失点完投だ。別に投手をやめたわけではない。
一方のウイングスは、スタメン9人のうち5人が7年前の経験者だ。おそらくこの5人は2年前にも試合に出ていただろう。すくなくともベンチには入っていたはずだ。
決勝戦は15:05に始まった。初回のシェールズは3者凡退、その裏のウイングスは2本の長打であっさりと先制した。2回表は二死後に連打が出たものの無得点。2回裏のウイングスは振り逃げと内野安打で無死一・二塁という追加点のチャンスをつかんだ。
打席に入る8番打者は7年前の牽制タッチアウトの選手だ。あのときの投手はセンターを守っている。やはり初球前だった。役者は代わっていたし、局面も異なるけれど、二塁走者が牽制に刺された。8番打者は2球目を打たされて、6−4−3のゲッツー。無死一・二塁が1分後にはチェンジになった。
3回表、ここで得点が入るなら、流れはシェールズだと私は踏んでいたが、わずか8球で3者凡退だった。その裏、ウイングスは四球をきっかけに犠打野選でチャンスを広げて、犠牲フライと内野ゴロで2点を追加した。
| 04/08/16(江戸川) 女子軟式選手権決勝 15:05〜16:48 | ||
| 札幌シェールズ | 000 201 3 =6 | ●#18−#21 |
| 東京ウイングス | 102 211 X =7 | ○#21 |
その後は、両チームともエラーが失点に結びつく荒れた展開になった。最終回の3失点も自責は0だ。上位進出の実績がないウイングスが、上位常連・シェールズの反撃をしのいで、初Vを果たした。
3度目の対決で初めてシェールズを破ったウイングスは、7年前の経験者5人が全員ヒットを放ち計13打数7安打4打点5得点、未経験者は13打数4安打2打点2得点だった。まあ、意地は見せてもらったわけだ。
だが、私は3回表の3者凡退が試合の帰趨を決したと思っている。先頭の9番打者は1−0からの2球目をショートゴロ、1番打者はバントの構えで見送った1−0からの2球目をキャッチャーファウルフライ、2番打者は2ストライク後にファウルを1本挟んで空振り三振。つまり、3回表は「ボール」が1球も記録されていない。
この日の3試合の全打者について、初球の投球を調べてみた。
▼「T」は全打者数(第3アウトが盗塁死の場合の打席未了を含む)、「S」は見逃しのストライク、「F」はファウル、「K」は空振り、「H」はインプレイの打球、「B」はボール、「D」は死球です。
▼「(B+D)/T」は初球ボールの割合、「(F+K+H)/T」は初球スイングの割合です。
| チーム(打線) | T | S | F | K | H | B | D | (B+D)/T | (F+K+H)/T | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 04年 決勝 |
札幌シェールズ | 34 | 12 | 7 | 1 | 9 | 4 | 1 | 14.7% | 50.0% |
| 東京ウイングス | 31 | 7 | 3 | 0 | 4 | 17 | 0 | 54.8% | 22.6% | |
| 04年 準決勝 |
札幌シェールズ | 32 | 9 | 6 | 2 | 3 | 12 | 0 | 37.5% | 34.4% |
| 大阪ワイルドキャッツ | 28 | 8 | 4 | 1 | 4 | 11 | 0 | 39.3% | 32.1% | |
| 04年 準決勝 |
東京ウイングス | 35 | 11 | 8 | 0 | 4 | 11 | 1 | 34.3% | 34.3% |
| コンプレックス | 32 | 13 | 6 | 1 | 5 | 7 | 0 | 21.9% | 37.5% |
決勝戦のシェールズは打者34人で、初球がボールだったのは5人しかいない。初球からストライクを投げ込んでくるのだから、必然的に早打ちになる。初球をスイングした打者は17人だから、ちょうど50%だ。これはきわめて高い数値だ。同じ傾向は準決勝のコンプレックスにもうかがえる。
さて、女子軟式選手権のパンフには、チーム名と集合写真の間のスペースに、そのチームの抱負らしきもの?が掲載されている。私の好みは次のようなものだ。
●97年/スピリッツ
ささやかな願いは大会中に
ユニフォームを洗うこと。
今年こそは待ってろよ! 洗濯機君。
●98年/オールフラワーズ
1998年8月。
気温は上昇。気分は上々。
バナナを食べてプレイボール。
●99年/オール兵庫
チーム1人1人が自分の役割を果たす…
それが一致分裂。
●00年/大阪ディアズ
勝つためにゃ、女もすてよう
ほととぎす
●01年/ストレイシープ
また一回戦負けは、
♪やだねったら、やだね〜♪
●02年/福岡ハリーズ
1勝して凱旋しないと
中洲で屋台で飲めません!!
●03年/町田スパークラーズ(脚注参照)
翠の羽と宮の令、春秋良季の梨の華、
寿豊かに納めて結ぶ。
尚則ち悠久に知己と慶勝!
●04年/ホワイトエンジェルス
月曜日もグラウンドで。
もちろん、チーム事情もあるだろうが、優勝を公言するチームはやはり少数派だ。シェールズは毎年、優勝を意識したものを載せている。
●97年
今回で3回目の出場です。
3度目の正直という事で狙うは
“優勝”
●98年
95年初戦敗退
96年ベスト8 97年ベスト4
4年目の今年は本気で優勝狙います
●99年
昨秋からチーム体制と練習方法を一新。
新生シェールズの狙いは“ひとつ”です。
●00年
十代の加入で平均年齢は大幅低下、
勢いは大幅UPしました。
一致団結して今年こそV!
●01年
12歳から41歳まで選手31人の力を結集して
今年こそ悲願の日本一!
●02年
一昨年はベスト4、昨年は準優勝
今年はやります!! 「日本一」!!
●03年
今年こそChampion Flagを
いただきます!!
●04年
一戦一戦を決勝戦のつもりで戦いぬき、
必ず日本一になります!!
愚直に正統派を貫くのも尊いことだ。
05年の札幌シェールズは1回戦で敗退した。主力3選手がホーネッツレディースという硬式チームに移ったようだ。明らかな戦力ダウンかかわらず、志は高かった。
●05年
「気持ちがひとつになったシェールズは
小粒でもぴりりと辛い!!
日本一、いただきます!!」
決勝戦は、3年ぶりの決勝進出となるアドバンスと、3回目の出場でファイナルまで勝ち上がった千葉マリンスターズの対戦になった。
| 05/08/08(江戸川) 女子軟式選手権決勝 13:52〜15:18 | ||
| 愛知アドバンス | 201 000 0 =3 | ○#25 |
| 千葉マリンスターズ | 001 001 0 =2 | ●#5 |
発表されたスタメンは、両チームともに先発投手が1番打者だった。話としてはわかりやすい。初回先頭打者で8割方読めるだろうと思っていた。表は死球で得点に結びついた。裏はショートフライだった(3者凡退)。結果的には1点差だったので、初回表先頭打者が得たフルカウントからの死球の持つ意味は大きかった。
●05年/浦和デンジャラス
上には空、下には大地、
横には仲間、後ろには練習、前には勝利!
◆【注】03年町田スパークラーズの抱負?は、登録全選手の姓名から1文字ずつとってあります。手間がかかっているのです。意味不明であることには変わりありませんけど…。
◆かつて当サイトには「キャッチフレーズ大賞」というページがありました。01/09/04付で削除したものですが、その後何度かお問い合わせをいただいていましたので、形を変えて復活させました。なお、社会人野球の「スローガン大賞」は今も残してあります。
◆「三菱重工長崎の先攻と早打ち」のページでは、同チームがファーストストライクをスイングした割合を集計しています。今回は初球ボールの割合と初球スイングの割合ですので、若干異なりますが…。また、『公認野球規則』のページでは、ある投手のセットポジションとワインドアップのときのボール比率を算出しています。スコアをつけていると、こういうことに気づいたりするときもあります。
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