◆申し訳ありませんが、集計値は02年末現在です。パーフェクト・スチールにはなりませんが、タイガースの赤星は大学時代に四球で出たあと、次打者の初球に二盗、2球目に三盗を決め、3球目のスクイズで生還したことがあります。
97年秋、今しかチャンスはないと思って、平和台球場に行ってきた。九州共立大の先発投手は、当時まだ1年生だった山村路直(のちにホークス)だった。そのとき買った福岡六大学の連盟パンフに「連盟記録一覧」というページがある。
それ自体は別に珍しくないが、「パーフェクト・スチール」という耳慣れない項目が載っていた。何を意味するのか、だいたいのところは想像できるのだが、やはりこれは和製英語だろうと思われる。「記録のことは神様に聞け」というわけで、『プロ野球データブック』をひもといてみた。
宇佐美徹也『プロ野球データブック』(講談社文庫、593ページ)1イニングに1人で二塁、三塁、本塁を続けて盗む芸当は、そう簡単にできるものではない。あちらではベーススチール・スウィーピングなどという、しゃれた名前で呼ばれている。
たぶん福岡六大学の連盟パンフが言う「パーフェクト・スチール」とは、宇佐美氏が紹介している「ベーススチール・スウィーピング」と同義だろうと思われるが、次のような疑問も生じる。
【1】初回に二塁打を打って三盗、3回に四球を得て二盗、8回に三塁打を打って本盗を決めた場合は「パーフェクト・スチール」になるのだろうか?
【2】同一イニングに2度打席が回り、最初の打席で出塁して二盗と三盗、打者一巡後の2度目の打席にも出塁して本盗を決めた場合、「パーフェクト・スチール」となるのだろうか?
【3】逆に厳しい見方をすると、真の「パーフェクト」とは、一塁に出たあと、初球に二盗、2球目に三盗、3球目に本盗を決めることではないだろうか?
まあ、常識的には「パーフェクト・スチール」=「ベーススチール・スウィーピング」と理解していいだろう。つまり、【1】は該当しないが、【3】である必要はないということだろう。【2】は、はたしてどうなるのか、宇佐美氏の記述ではよくわからない。表意だけではOKのように解釈できるが、真意としては不可とも思える。
この「ベーススチール・スウィーピング」は、「サイクル・スチール」と呼ぶこともあるようだ。【2】を含むのかどうか、絶対的な定義はないらしい。まあ、野球用語ではありがちなことだ。
私は、この「ベーススチール・スウィーピング」もしくは「パーフェクト・スチール」あるいは「サイクル・スチール」を1度だけ見たことがある。幸いなことに【2】のケースではなかった。
| 97/05/11(川崎) 首都大学リーグ2部 第7節 2回戦 | ||
| 玉川大 | 144 402 600 =21 | ○#14−#22−#15−#18−#11 |
| 成城大 | 000 000 310 =4 | ●#24−#17−#20−#41 |
川崎球場が健在だった頃の首都大学リーグでは、12:00からの1部リーグ2試合の前座として、9:00から2部リーグ1試合のカードが組み込まれるという魅力的な日があった。
4回表だった。玉川大の6番・鳥居孝弘はセンター前ヒットで出塁した。7番打者の初球に二盗、3球目に三盗を決めて、8番打者の初球に四球で歩いた一塁走者との重盗に成功した。私が見たのはこの1度きりだから、たまには早起きもしてみるものだ。
7番 1死1塁 初球 ボール(バントの構えでバットを引く)鳥居が二盗成功 1死2塁 2球目 ボール(バントの構えでバットを引く) 1死2塁 3球目 ボール 鳥居が三盗成功 1死3塁 4球目 ボール=四球 8番 1死1・3塁 初球 ボール 鳥居が本盗成功(一塁走者との重盗)
鳥居を含めて、同一イニングでの二盗と三盗の連続盗塁を、私は02年までに125回見ている(9イニング制硬式の試合限定。シニアや女子軟式は含まない)。1人で2度記録している選手が、次のように4人いるので、実数では121人になる。
| 選手 | 所属 | 年月日 | 球場 | 回 | 点差 | 二盗 | 三盗 | 得点の有無 | 相手 |
| 長辺敏彦 | 岳南クラブ | 94/06/03 | 浜松 | 1ウ | 0 | A3 | B2 | ○Cの二塁打 | エースコンクラブ |
| 5ウ | −1 | A2 | A4 | ○Bの犠飛 | |||||
| 笠尾幸広 | 法政大 | 92/10/18 | 神宮 | 5ウ | −2 | A1 | C3 | × | 慶応大 |
| 王子製紙米子 | 97/05/04 | 徳山 | 1表 | 0 | A2 | B2 | × | 防府クラブ | |
| 小田英哉 | 新日鉄君津 | 96/05/10 | 北九州 | 4ウ | +6 | A4 | B1 | ○Cの二塁打 | JR九州 |
| 96/08/05 | 札幌 | 5ウ | +5 | A2 | A3 | × | NTT北海道 | ||
| 赤星憲広 | 亜細亜大 | 96/11/16 | 神宮 | 2ウ | 0 | A4* | A4 | × | 東亜大 |
| 97/04/24 | 神宮 | 7ウ | +6 | A1 | A2 | ○Aのスクイズ | 専修大 |
▲「二盗」「三盗」の項の「A」は次打者、「B」はその次の打者…、「1」は初球、「2」は2球目…です。赤星の1回目「A4*」は、4球目前の二盗の意味です。
長辺は1試合で二度やった。笠尾は大学と社会人で見た。小田は九州と北海道で見ている。赤星(JR東日本を経てタイガース)の2回目は、イヤミったらしいことこのうえないものだった。次打者の初球に二盗を決め、2球目には三盗に成功し、3球目のスクイズで生還したのだ。次打者の2球目までに二盗と三盗を決めたのは、赤星のほかに4人いる。
02年には、珍しい連続盗塁を見た。高校生なので実名は控えるが(それに警戒されては本人の不利益になる)、2点リードの7回表に先頭打者として四球で出塁。次打者の2球目にキャッチャーからの一塁牽制をもらって二盗、4球目にはやはりキャッチャーから二塁牽制(カバーはショート)をもらって三盗を決めた。
125例の連続盗塁を分野別、得点差別に集計したのが次の表だ。
| 点差 | リード | 同点 | ビハインド | 合計 (T) |
試合数 (G) |
頻度 (T/G) |
||||||||
| +5〜 | +4 | +3 | +2 | +1 | 0 | −1 | −2 | −3 | −4 | −5〜 | ||||
| プロ | 1 | 0 | 0 | 2 | 1 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 7 | 384 | 54.9 |
| 社会人 | 9 | 2 | 3 | 2 | 2 | 6 | 3 | 1 | 0 | 0 | 1 | 29 | 376 | 13.0 |
| 大学 | 12 | 2 | 2 | 7 | 4 | 11 | 5 | 1 | 3 | 1 | 3 | 51 | 479 | 9.4 |
| 高校 | 5 | 1 | 1 | 2 | 8 | 8 | 1 | 0 | 1 | 2 | 8 | 38 | 337 | 8.9 |
| 合計 | 27 | 5 | 6 | 13 | 15 | 26 | 9 | 3 | 5 | 3 | 12 | 125 | 1573 | 12.6 |
▲「頻度」は、連続盗塁が何試合に1回あるかを示します。サンプルの観戦試合については、「レコード対象ゲーム」をご参照ください。
分野別では、プロで少なく大学や高校で多い。盗塁を許すのは、ある意味では守備側のミスとも言えるわけで、戦力差が激しいほど連続盗塁の可能性は高いだろうから、まあ当然のことだ。同じ高校でも、全国大会レベルと地方予選の1、2回戦レベルでは異なる数値が出てくるものと思われる。
得点差別に見ると、1点差または同点のケースが125例のうち50例、5点以上の大差がついているときが39例だ。8回以降の1点差以内というシビアな状況で、連続盗塁を決めたケースは次のように4例ある。
| 年月日 | 球場 | 選手 | 所属 | 回 | 点差 | 二盗 | 三盗 | 得点の有無 | 相手チーム |
| 92/08/11 | 甲子園 | 西*** | 神港学園高 | 8表 | +1 | A5 | B3 | × | 北海高 |
| 95/03/11 | 西武 | 吉田昭二 | 東芝府中 | 9表 | −1 | B2 | B3 | × | 三菱自動車京都 |
| 95/07/23 | 東京ド | 山田正浩 | 住友金属(NTT関西から補強) | 8ウ | 0 | B2 | B4 | ○Bの内野ゴロ | JR東日本東北 |
| 00/11/05 | 西京極 | 樫原宏佳 | 大阪体育大 | 8ウ | +1 | A1 | B2 | × | 近畿大 |
山田は四球で歩いたあと、盗塁2つで三塁に進み、ショートゴロで勝ち越しのホームを踏んだ。JR東日本東北のショートは小坂誠(のちにマリーンズ)が守っていた。バックホームを諦めて一塁でアウトをとった小坂は、続く9回表に同点アーチを放って、試合は延長にもつれた。
というわけで、終盤の僅差で連続盗塁を決めて、決定的な1点をもぎとったというケースはまだ見ていない。なお、初回の連続盗塁は長辺の1回目と笠尾の2回目を含めて12例ある。
111回の連続盗塁を打順別に見ると、やはり1番打者が多い。
打順 事例
1番 32
2番 20
3番 17
4番 10
5番 8
6番 11
7番 9
8番 2
9番 7
代打 6
代走 2
守備 1
合計125
また、得点の有無を出塁時のアウトカウント別に見ると、次のようになる。ツーアウト後に出塁して、二盗・三盗を決めた走者でも、4割以上が得点している。
アウト 得点 残塁 得点率
無死 33 14 70.2%
1死 26 23 53.1%
2死 13 16 44.8%
合計 72 53 57.6%
▲「得点率」は、二盗・三盗を連続して成功させた走者が「得点」した割合です。
トータルでは、125例のうち6割近い72例が得点につながっている。さらに興味深いのは得点の直接原因だ。安打は72例のうち半分に満たない33例に過ぎず、三盗のときにキャッチャーの悪送球を誘って一気に生還したケースが10例もあるのだ。ほかに、犠飛11例、暴投6例、内野の失策4例、内野ゴロ4例、スクイズ2例、本盗1例、死球押し出し1例となっている。
なるほど、三塁に走者がいると、いろんなことが起こるものだ。相手のバッテリー次第とはいえ、すくなくともアマチュアの場合、二盗と三盗の連続盗塁は試みる価値が十分にあるように思われる(…と、部外者は気楽にそそのかす)。
◆リンク先を探していたら、「振り逃げ→二盗→三盗→本盗」こそが「パーフェクト・スチール」ではないかという投稿が複数見つかりました。どうやら、真犯人はあだち充の『ナイン』のようです。ちなみに、振り逃げに際して打者に盗塁が記録されることは絶対に!ありません。
◆なお、1936年夏の甲子園で台湾代表・嘉義農林の呉波(ご・は)が初球に二盗、2球目に三盗、3球目に本盗を成功させているようです。2回戦の対育英商(→育英)戦で4回二死だったそうです。呉はのちにジャイアンツなどプロ3球団に在籍し、1943年に帰化して「昌征」の登録名を名乗った選手です。
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