◆このページは序盤が紀行?文、中盤がトリックプレイの話、終盤が盗塁阻止率やディレード・スチールの込み入った話です。お好みに応じて、途中で切り上げるなり、途中から読まれることをおすすめします。
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それは、1995年のシーズンが始まる前だった。「全国球場88ヶ所巡りってゆーのを志してますので。何のご利益もなさそうですけどね」というR師の御言葉に触れた私は、「これだ!」とばかりに、88カ所球場めぐりを先取りしようと考えた。50とか100とかというキリのいい数字ではないところが心憎いではないか。
その時点では36球場にすぎなかったが、97年秋、私は師に先んじて88カ所球場めぐりを完結させた。師の予言どおり、何のご利益もなかった。目標にたどりついて迷える子羊となった私は、師に次なる目標をあおいだ。それが、「縫い目の数だけ煩悩はある」の108球場だったのだ。
01年7月18日に八王子市民球場でリーチをかけた。その直後から浮かんでは消えた108球場目の「候補」は数多い。多摩一本杉、小田原、越谷、土浦、裾野、島田、焼津、諏訪湖、長野オリンピック、鳥屋野、上尾、農大グラウンド、市原、南港、八王子上柚木…。
結局、108球場目は宇都宮清原球場だった。01年10月30日、高校野球の秋季関東大会を見に行った。秋の関東大会は7県の持ち回りで開催されている。「センバツ出場決定戦」となる準々決勝(=2回戦)までは、2球場を併用するのが例年のパターンだ。
7年前の栃木開催のとき、私は県営球場に行った。わざわざ栃木まで行く以上、1度行ったことのある球場よりも、まだ行ったことのない球場に行きたい。それに、県営の試合には、県大会で見た市船橋と浦和学院が出る。清原のカードは、北関東3県プラス山梨という、いわば「遠隔地」同士の対戦だ。
「1度見たチームを何度も見る必要はない」主義者である私が、県営に行くはずがない。清原球場は、これまで何度か行こうと思いながら、なかなか機会に恵まれなかった。最近では、01年の都市対抗関東代表決定戦に行くつもりだったけれども、そのときは天気予報にくじけた。
▲その試合はロースコアの好ゲームだったはずです。思い切って行くべきだったと少し後悔しました。ただ、降水確率60%前後では、東京から宇都宮までなかなか「思い切れる」ものではありません。なお、『グランドスラム』17号の117ページに掲載されている同試合のイニングスコアは、南関東第2代表決定戦のイニングスコアと同一ですので、誤りだと思われます。
7年前、県営に行ったとき、私は雀宮の駅から歩いた。30分近くかかったはずだ。その後、東武線を使ったほうが近いことを知った。そのうえ、圧倒的に安上がりだということも知った。清原は、何度も断念した球場だけに、私にも蓄積がある。今回、私は起きた時間に応じて、数段階のルートを設定していた。
【A】(徒歩)→根津5:24→5:35北千住5:46→6:32南栗橋6:38→7:57東武宇都宮→(バス)
【Z】(タクシー)→上野7:50(新幹線)→8:39宇都宮→(タクシー)
【A】ルートなら、片道2000円程度で済む。その代わり、5:00前には起きなければならない。【Z】ルートなら、片道で軽く8000円、ひょっとすると1万円近くになるかもしれない。ただ、7:30に出ても間に合う。
むろん、【A】と【Z】の中間には、さまざまなパターンがある。宇都宮まで無理に新幹線を使う必要はないのだし、最後をバスにするかタクシーでなければならないかによっても、違いは出てくる。
早起きした。ちょうど、【A】に間に合う時間に起きた。目覚ましより早かった。すでに準備は万端だ。私は夜明け前の暗がりの坂道を根津まで急いだ。
長い道中になるが、電車の中でやることはある。スコアの整理だ。選手ごとに何打数何安打とか、チームとして残塁がいくつだとか、そういう集計作業は、主に帰りの電車ですることにしている。もっとも、都市対抗のときなど電車には乗らない。ほったらかしになっているものがある。
おかげで、たまっていた分はあらかた整理できた。電車が東武宇都宮線に入って、通勤・通学の時間帯に差しかかり、少しずつ車内が混み合ってきた。ちょっと離れたところで、4〜5人ほどの女子高校生が電車の床に座りこんでいる。
その後、ほとんどラッシュ状態になり、「床に座らないで」という車内放送もあったけれども、終点まで座ったままだった。まあ、○房線のようにタバコを吸わないだけマシなのかもしれない。私は「無関心な大人」で通した(気が弱いし、正義感も強くないので…)。
さて、【A】ルートは安上がりだが、時間がかかる。あらかじめ、根津駅前の吉野家で腹ごしらえしておいたが、これからまだ2試合ある。どうせ、球場の売店にあるのはろくでもないものばかりだと相場は決まっている。おまけに、このデフレ時代に逆行するような値段だろう。それなら、コンビニで調達したほうがいい。
サンドイッチか弁当を売っている売店を探しながら駅を出たら、目の前がタクシー乗り場だった。少し様子をうかがった。目的地が同じなら、相乗りするのがお互いにとって都合がいい。どう考えても3000円で足りる距離ではないのだ。それらしい人影もなかったので、早々にバス乗り場に向かった。
どうやら、臨時の直通バスは出ていないようだ(土日に関しては、すくなくともJR宇都宮駅から出ていたらしい)。路線バスの時刻表では、清原球場行きのバスは9:30発だ。試合が9:30から始まるのに、そんなバスに乗っても役には立たない。何のために5:00前に起きたのかわからなくなる。
8:10発の益子行きに乗った。「西中台」というバス停で降りた。もう1人、同じバス停で降りたおじさんがいた。脇にスポーツ新聞を挟んでいる。時間帯から考えても、朝帰りという雰囲気ではない。かといって、服装からしてセールスマンでもないだろう。ましてこれから農作業に行くとはとても思えない。
私は地図を頼りに、そのおじさんとは別ルートを歩き始めた。最終的には合流した。やはり目的地は同じらしい。いつもは車で来ているそうだが、試合のあとで飲みに行くことになっているからバスを利用したということだった。おかげで、とくに退屈もせず、しかも迷うこともなく、球場まで連れていってもらった。
8:19 「宮の橋」バス停通過
8:26 「宇大前」バス停通過
8:36 「石井局前」バス停通過
8:46 「西中台」バス停着(東武宇都宮から610円)
チケットとパンフを買って、そのおじさんとは別れて、球場の席に着いたのは9:10頃だった。だから、20分近く歩いたことになる。アマチュア野球ファンとは、早起きを厭わないこと、多少の距離なら歩くこと、球場前直行バスにこだわらない柔軟さを持つこと、などが求められるもののようだ。
◆当日、帰りの臨時バスは出ていました。また、宇都宮駅と清原球場の間を歩いたという「伝説」の持主は、埼玉のH氏です。2時間がかりだったそうですが…(しかも7月!に)。この「伝説」達成者はもう1人いるようで、彼は高松駅からオリーブスタジアムまで歩いたこともあるようです。1時間55分だったそうです。まあ、42.195キロには若干?欠けますので、世界記録にはならないと思われます。
◆また、風の便りによれば、このページを読んだと思われる某氏も、清原球場から歩いて帰ったようです。「伝説」達成者が3人もいると、もはや「黄金伝説」とは言えなくなります。
第1試合では、やっかいなプレイがあった。前橋が1点リードの6回、二死三塁で打者が四球を得た。打者走者は一塁を回って二塁をうかがおうとした。捕手からショートへの送球を見て、三塁走者が本塁を突く。送球を受けたショートは、たたらを踏むように足がもつれて体勢を崩し、ホームに返球することはできなかった。
| 01/10/30(清原) 高校秋季関東大会 準々決勝 4日目第1試合 | ||
| 前橋高 | 101 001 111 =6 | ○#1 |
| 甲府工高 | 001 000 101 =3 | ●#5−#1 |
結局、打者走者は一・二塁間に挟まれてアウトになったが、三塁走者はその前に生還した。この場合、第3アウトはタッチプレイであり、打者走者のアウトより先に三塁走者が生還しているので、得点は有効に認められる。それは、競り合った試合の中盤にもぎとった貴重な追加点だった。
このプレイは、すでに「殿堂」の「内*」のページで取り上げている。四球はインプレイだから、打者も走者も安全進塁権によって与えられる塁以上の進塁を試みることができる。その点では何の問題もない。
また、この「殿堂」のプレイが「盗塁」に当たるのかどうか、私のなかでは今でも疑問を感じないわけではないが、多数説は「盗塁」のようだ(→「盗塁3」)。
今回の場合は、打者走者がアウトになっているから、ホームに生還して得点を記録した三塁走者に「盗塁」を記録することはできない。『公認野球規則』には次のような規定があるからだ。
07年版『公認野球規則』
10・08
(d) 重盗、三重盗に際して、ある走者が奪おうとした塁に達する前か、あるいは、塁に触れた後オーバースライドして、野手の送球によってアウトにされたときは、どの走者にも盗塁は記録されない。
▲06年版まで「重盗、三重盗にさいして」でしたが、07年版から「…際して」に改められています。
三塁走者は打者走者の一・二塁間アウトの間に進塁しただけだ。「殿堂」のプレイが「盗塁」なのだとすれば、今回の打者走者のアウトは「盗塁死」(規則上は「盗塁刺」)ということになる。
逆に、「殿堂」のプレイを「野選」と記録するなら、今回のプレイは単なる走塁死ということになるだろう。「野選」説をとるなら、この場合に「盗塁死(刺)」を記録することは大きな矛盾になる。私が「殿堂」のプレイに対して、当初「野選」を記録したのは、もしアウトになっていたら、「盗塁死(刺)」ではなく通常の走塁死として処理するだろうと考えたからだ。
どっちにしようか迷ったあげく、多数説に屈して「盗塁死」にした。「88カ所球場めぐり」でもご利益がなかったように、108球場を踏破しても、なかなか煩悩ははらえないもののようだ。なお、師のご友人であられる武則天様より、新たな「お告げ」を頂戴した。次の数字は「188」だそうだ。
師いわく「88札所プラス100観音で、これだけ回ればまずは一人前<略>お励みなされ」。一人前まで、まだ先は遠い。
◆二死三塁で四球というケースは、このプレイを試みる価値があると思われます。まして、今回のケースでは四球を得た選手は7番打者でした。下位打線にヒットを期待するより、得点できる可能性は高いという判断があったのかもしれません。いずれにせよ、その場での思いつきのプレイではなく、「恐るべし、亜細亜」同様、普段からそういう意識で練習しているはずです。
◆おそらく地元紙などは記事にしていたに違いありませんが、私はこのページの作成当初、チーム名を伏せておきました。センバツ終了後の02年4月17日付で、イニングスコアを付記し、校名明記に切り替えたことをお断りします。その性質上、警戒されれば使えなくなるプレイだからです。
◆『報知高校野球』02年1月号で、生還した三塁走者が次のように語っています。「監督からのサイン。細かくは言えないけど、よく練習するプレーです」(56ページ)。実は、私はあることに気づいたのですが、やはりWeb上で「細かく」言えることではありません。どのみち推測の域を出ませんし…。
◆四球目の投球がワンバウンドになったときなど、キャッチャーがミットを外して、両手でボールをこねてからピッチャーに返すことがあります。「チャンス!」だと私は思っていますが…。なお、「殿堂」の「飯田」のページに、この系統のプレイをまとめました。
◆『アリスの亜細亜』創刊号によれば、「板東三十三ヶ所(関東全域)+西国三十三ヶ所(関西全域)+秩父(埼玉県秩父近辺)三十四ヶ所の観音霊場を合わせて百観音と呼びます。そこに弘法大師霊場の四国八十八ヶ所を足して、百八十八霊場めぐり」とのことです。
◆このあとは、話が難しくなります。完全なマニア対象です。普通の野球ファンの方は飛ばしてください。→頁末
いわゆる「盗塁阻止率」は、『公認野球規則』においては定義されていない。規則10・22は、勝率、打率、長打率、守備率、防御率、出塁率を定めているだけだ。日本のプロ野球では、次のような処理がされているようだ。
〔1〕 「盗塁企図数」を分母、「盗塁刺」を分子として、小数点4位を四捨五入する。
〔2〕 「盗塁企図数」とは、「許盗塁」プラス「盗塁刺」で求める。
〔3〕 重盗の場合の「盗塁企図数」は「1」でカウントする。成功なら「許盗塁」、1人が失敗すれば「盗塁刺」。
〔4〕 投手からの牽制による「盗塁刺」は、「盗塁企図数」に含まない。
〔5〕 「ディレード・スチール」は「盗塁企図数」に含まない。
▲各年版『オフィシャル・ベースボール・ガイド』等から推測したものです。当然のことですが、ホームスチールも除外されるようです。
▲01年版『ベースボール・レコード・ブック』によれば、00年パの盗塁は477、盗塁死は215です(276ページ)。阻止率のページ(290ページ)で、許盗塁を合計すると460になり、盗塁刺の合計は189になります。したがって、阻止率の算出にあたり、なんらかの処理がなされていることは疑いの余地がありません。
▲つまり、打撃記録上の「盗塁刺」の裏返しが阻止率算出の際の分子になるわけではありませんし、打撃記録上の「盗塁」プラス「盗塁刺」がそのまま阻止率計算における分母になるわけでもないのです。阻止率計算をしたいなら、別途「許盗塁」「盗塁刺」をカウントする必要があります。
新聞などで取り上げられるプロ野球の「盗塁阻止率」とは、このような前提で処理された数値であろうと思われる(たぶん)。「盗塁阻止率」の計算式を掲げているサイトを何件か見かけたが、これまで私が見た範囲では、〔3〕〔4〕〔5〕の条件を付しているサイトはない。
なにしろ、「盗塁企図数 ディレードスチール」で検索すると、「一致するページはありませんでした」になってしまう(01/10/31現在、「YAHOO!JAPAN」における検索結果)。ということは、このページは前記検索条件で得られる最初のページであり、同時に私はすくなくともWeb上では初の論点に挑むことになるわけだ。
▲02/12/06に再度、「盗塁企図数 ディレードスチール」で検索してみたところ、やはりこのページ以外はヒットしませんでした(「Google」による検索結果)。
〔3〕〔4〕〔5〕を欠いていたとしても、間違っているとは言えない。一般的には〔1〕と〔2〕、せいぜい〔3〕までの理解で十分だと思われる。〔4〕は、妥当な処理だと考える。妥当と言うより、そうでなければ困る。
ただ、〔3〕の処理には、少々問題があるように私には思われるのだ。上に掲げたケースは、いわば一・三塁からの重盗に等しい。先にも述べたように、一・三塁からの重盗で一塁走者がアウトになれば、三塁走者が得点しても、三塁走者に対して「盗塁」が記録されることはない。
だが、今回のような一・三塁からの重盗の場合、一塁走者の役割は「おとり」にすぎない。一塁走者は(最終的に)アウトになってもいいのだ。むしろ、三塁走者を生還させるために、積極的に「おとり」になってもらう必要さえある。
守備側としても、三塁走者の得点を防ぐことが最優先課題であり、一塁走者の二盗を許すことは別にかまわないはずだ。二死一・三塁の場面で重盗が企図されたとき、おおむね次の6通りの結末が待ち受けている。
〔A〕 一塁走者か三塁走者のどちらかでアウトをとり、得点は許さない=得点0、チェンジ
〔B〕 アウトはとれないが、一塁走者の進塁のみを許す=得点0、二死二・三塁
〔C〕 アウトはとれなくても、両走者ともに進塁を許さない=得点0、二死一・三塁
〔D〕 一塁走者でアウトをとるが、三塁走者の得点は許す=得点1、チェンジ
〔E〕 一塁走者、三塁走者ともに進塁(得点)を許す=得点1、二死二塁
〔F〕 悪送球の結果、三塁走者の得点はおろか一塁走者の三進をも許す=得点1、二死三塁
守備側の理想は〔A〕であり、〔B〕なら御の字、〔C〕はイーブン、〔D〕以下は「失敗」のプレイになる。攻撃側は〔D〕を狙っているのだ。〔E〕とか〔F〕とか、そんな虫のいい結果は望んでいない。今回の場合、体勢を崩したショートはバックホームできなかった。だから、無理にホームに投げて〔E〕や〔F〕になるより、確実な〔D〕を選んだ。
本来「失敗」のプレイのはずなのに、記録上は「盗塁死(刺)」が記録されるわけだから、捕手の「盗塁阻止率」は上がることになる。納得できない、と私は思っている。まあ、「阻止率」というのは、その程度の指標だと思っていれば、ケガも少ないのかもしれない。
上に掲げたプレイは、記録上は「盗塁死」(あるいは走塁死)だが、その「盗塁死」なり「走塁死」なりは、実質的には甲子園出場をたぐりよせる意義のあるアウトだった。記録の危うさということを考えると、煩悩は深まるばかりである。
さて、〔5〕については一段と話がややこしくなる。どうやら『オフィシャル…』が言うところの「ディレード・スチール」とは、一般的に使われる「ディレード・スチール」とは、その意味するところが派手に違うようなのだ。
アル・カンパニス『ドジャースの戦法』(ベースボール・マガジン社、内村祐之訳)では、「ディレード・スチール」について、次のような記述がある。(232〜233ページ)
一塁走者は、投手の投球と同時に走り出すことをせず、球が打者にとどくのを待ってスタートを切るのである。走者が投球と同時に走り出さないので、二塁をカバーするはずの二塁手または遊撃手はまさかこのあとで盗塁がおこなわれようとは思わず、精神的にも肉体的にも油断している。その虚をついて走者は二塁目がけて一目散に走る。あわてた捕手が腕をあげて投球しようにも、二塁をカバーする野手はいないというわけだ。
また、ジョン・W・クームス『個人プレーとティーム・プレー』(ベースボール・マガジン社、内村祐之訳)には、次の記載がある。(142ページ、144ページ)
相手の捕手が投球を受けたのち、投手に、そのボールをトスして返すとか、ゆるい球を返すとかいう習慣を持っている者だったら、走者は、一塁ベースから普通のリードをとって二塁盗塁を試みても、成功することが多い。この場合、二塁へのスタートは、捕手がいつもの調子で投手にトスするために、手からボールを離した瞬間におこなう。
ディレード・スチールのもう1つのやり方は、次のようなものだ。投手が打者に向かってボールを投げたら、走者はすぐにベースから大きなリードをとる。捕手は、走者のこの大きなリードを見て、その走者の占めているベースに送球するというあやまちを犯しやすい。捕手のこの送球モーションを見るやいなや、走者は次のベースに向かってダッシュするのだ。
このように、「投手の投球後」にスタートするのを、一般的に「ディレード・スチール」と呼んでいるはずだが、『オフィシャル…』では、これらは通常の盗塁として処理されているようだ。つまり、「盗塁企図数」に含まれる。
『オフィシャル…』が言うところの「ディレード・スチール」とは、たとえば投手の一塁牽制を利して一塁走者が二塁を奪った場合のことのようだ。この場合にはキャッチャーは関係ないので、阻止率の計算から除外するということらしい。
なお、フレッド・スタンレー『ベースボールテクニック』(日刊スポーツ出版社、大島一慶訳)には次のような記述がある。(95ページ)
●ディレードスチール
遊撃手、二塁手、捕手がいずれも機敏でないと見てとったら、こんな方法を取ってみよう。まずふつうのリードをとる。次に3歩、サイドステップをし、3歩目で猛然と二塁にむかってダッシュする。こうした技術を使う走者は普段はあまり盗塁をせず、相手にもその恐れがないと思われている者がいい。
『ドジャースの戦法』や『個人プレーとティーム・プレー』で言う「ディレード・スチール」とは、捕手の返球の間にスタートを切るというものだが、『ベースボールテクニック』で言う「ディレード・スチール」は、通常の盗塁よりスタートをワンテンポ遅らせる形の盗塁を意味していると思われる。
また、石井藤吉郎ほか『実戦ベースボール』(大修館書店)には、次の記述がある。(149ページ。ただし、原文はカッコではなく丸囲み数字による記載)
ディレード・スチールとは、たとえば走者一・三塁のときに、(1)投手がセット・ポジションをしている間に、あるいは(2)捕手が投球を受けて投手に返球する間に、一塁走者がややスピードを落として二塁にスタートを切る。そして、一・二塁間にはさまれている間に、三塁走者が生還するものである。
この定義では、一・三塁限定になってしまう。「スピードを落と」すのと、「猛然と…ダッシュ」とは、まったく別のものだ。
多少の誤解があるかもしれないが、これらを総合すると、次のようになる。
【ア】 投手の投球後、捕手の捕球前にスタート…『ベースボールテクニック』
【イ】 投手の投球を捕手が捕球したあとにスタート…『ドジャースの戦法』
【ウ】 捕手の投手への返球時にスタート…『個人プレーとティーム・プレー』
【エ】 捕手の牽制球をもらって、次塁へスタート…『個人プレーとティーム・プレー』
【オ】 たとえば、投手の一塁牽制時に二塁を陥れる…『オフィシャル・ベースボール・ガイド』
【カ】 たとえば、一塁牽制後の返球の際に二塁を陥れる…『オフィシャル・ベースボール・ガイド』
【キ】 一・三塁で一塁走者がおとりになる…『実戦ベースボール』
この際だから、国語辞典のお世話になろう。講談社『日本語大辞典』は、「ディレード・スチール」を次のように定義している。
野球で、走者のスタートのタイミングを遅らせたり、また、捕手が投手へ返球するときなどの、通常のプレーの隙をねらう盗塁
なるほど、国語辞典だけあって、ずいぶん話がわかりやすい。この定義は、【ア】と【ウ】を例示しているけれども、【イ】【エ】【オ】【カ】も、「通常のプレーの隙をねらう」ものであるから、【ア】〜【カ】はすべて「ディレード・スチール」と呼んでもいいことになる。
電子ブック版『広辞苑』(岩波書店)では、「ディレード・スチール」が次のように定義されている。例示されているのは、【ウ】と【カ】だが、「守備側の隙をつく」という点で、【ア】〜【カ】はすべて網羅されている。
投手が打者へ投球している間に行う普通の盗塁とは違って、捕手から投手への返球の隙や牽制球の返球の隙など守備側の隙をつく盗塁
参考までに、電子ブック版『英和中辞典』(研究社)で「delay」をひいてみると、次のようになっている。
<…を>遅らせる《★しばしば受身で用い、「遅れる」の意になる》
もともとは、【ア】が「delayed steal」なのだろう(狭義)。それが拡大解釈されて、【イ】〜【カ】も「ディレード・スチール」と呼んでいる、ということになりそうだ(すくなくとも日本では)。
『ベースボールテクニック』、『ドジャースの戦法』、『個人プレーとティーム・プレー』は、「ディレード・スチール」の一形態として、このようなプレイがあるということを述べている。だが、『オフィシャル・ベースボール・ガイド』では【ア】〜【エ】が含まれてないにもかかわらず、無理に「ディレード・スチール」という言葉を当てはめているように思われる(実際には何の定義もされていない)。
また、『実戦ベースボール』の場合、そのようなプレイがあるのは事実だとしても、それだけが「ディレード・スチール」なのだと言われると、私としてはいささか面食らってしまう。
私自身は、このサイトの中で、「ディレード・スチール」を2カ所で用いている。「コーチの制止を振り切って」では【イ】のパターンだった。「こんなとき」の「盗塁3」では【ア】の意味合いで用いているが、【ア】〜【カ】のどれを想定してもらっても不都合はない。
私が「ディレード・スチール」を用いるときは、広義にとらえて【ア】〜【カ】を包括するものとし、必要がある場合は、そのうちのどれなのか明示しようと考える。
ちなみに、宇佐美徹也『プロ野球データブック』(講談社文庫)には、次の記述がある。(610ページ)
捕手の阻止率を出す場合には投手の牽制による盗塁刺やディレードスチールを差し引いたり重盗を1個分に直したりする操作が必要なので、実際には専門家でないと難しい。
ここに言う「ディレードスチール」とは、文意からして『オフィシャル・ベースボール・ガイド』に準じているものと思われる。
▲『オフィシャル・ベースボール・ガイド』には重盗数や「ディレードスチール」数も掲載されますが、『ベースボール・レコード・ブック』には掲載されていません。
◆「盗塁阻止率」や「ディレードスチール」等でキーワード検索された方は、「送りバントの成功率」のページもどうぞ。
◆事実誤認、変換ミス、リンク切れ等にお気づきの際は、お手数ですが「メールのページ」からご一報いただけると幸いです。このページに対応するブログ「んだ」のエントリーは(今のところ)ありません。なお、当サイトにおいては「市立船橋」ではなく「市船橋」表記に一本化することにしました。
★07/05/10校正チェック済、ケなし、プなし、順OK
★06/12/27HTML文法チェック済(エラーなし)