セットポジション九番勝負
4人目のあと1人 | 異星人 | 日没コールド

異星人への自慢

00/09/02作成
13/12/15更新

◆たぶんこれ以上の試合はもう2度と見られないだろうと思っています。私にとってのベストゲームです。もしも、私が異星人とこの試合を見ていたら、私はきっと彼(または彼女、あるいは雌雄同体かもしれませんが…)にさりげなく自慢したことでしょう。地球にはこんなに面白いゲームがあるのだ、と。


開幕戦

打った本人は次のように語ったという。

『週刊ベースボール』94年4月25日号

自分でいうのも変だけど、これは劇的だよね、逆転満塁サヨナラなんて野球選手の夢だよ

それを打つのがプレイヤーにとっての夢なら、それを見るのはファンにとっての夢だ。それは、伊東勤にとってプロ入り通算1000本目のヒットでもあった。

94/04/09(西武) パリーグ L対Bu1回戦 13:07〜15:54
バファローズ 000 000 003  =3 野茂−●赤堀
ライオンズ 000 000 004x =4 ○郭

開幕戦だった。対照的な開幕投手だった。力と技、剛と柔。かたや速球とフォークで真正面から打者に立ち向かう野茂。こなた巧みなコーナーワークでバットの芯を外し、走者を出せば併殺で切り抜ける郭。

2人の前年の投手成績にもあらわれている。次の表は、93年のパリーグ投手成績15傑の「奪三振率」と「与四球率」を示したものだ。

▼『ベースボール・レコード・ブック』94年版をもとに算出しました。それぞれの率は、防御率と同様に計算した9イニング当たりの奪三振数と与四球数です。死球は算入していませんが、故意四球は含みます。

93年パ防御率15傑投手の奪三振率と与四球率
投手 所属 投球回 奪三振 奪三振率 与四球 与四球率
工藤 公康
西崎 幸広
野田 浩司
白井 康勝
長谷川滋利
伊良部秀輝
石井 丈裕
村田 勝喜
武田 一浩
星野 伸之
小宮山 悟
郭  泰源
佐藤 義則
柴田 保光
野茂 英雄


BW

BW




BW


BW

Bu
170
175
225
152
159
142
191
196
170
185
204
133
142
131
243
/
2/3
/
1/3
2/3
1/3
2/3
1/3
1/3
1/3
1/3
1/3
/
2/3
1/3
130
143
209
86
86
160
144
127
125
153
160
88
99
76
276
6.88
7.33
8.36
5.08
4.85
10.12
6.76
5.82
6.60
7.43
7.05
5.94
6.27
5.19
10.21
65
61
62
85
48
58
28
81
53
52
71
26
55
34
148
3.44
3.13
2.48
5.02
2.71
3.67
1.31
3.71
2.80
2.53
3.13
1.76
3.49
2.32
5.47

異なるタイプの投手だから、表と裏でメリハリのきいた試合になる。これが野茂と伊良部だと、ボールがバッテリー間を往復するだけだから、そのうちじれったくなる。郭と長谷川では、味わい深いけれども遠くで見ていると、ちょっと物足りない。

4回まで11奪三振

いずれにせよ、両者はそれぞれの持ち味を発揮して見応えのある投手戦を展開した。掛け値なしにトップレベルの2人の直接対決だから、当たり前のことではある。

▼「S」は見逃しストライク、「K」は空振り、「F」はファウル、「B」はボール、「H」はインプレイの打球です。

1表 内匠     SBH      一ゴ
   大石     BFFFH    左飛
   ブライアント BBKKBB   四球
   石井     KFK      三振
2表 スチーブンス BKBFK    三振
   鈴木     SKFBBBFB 四球
   村上     FH       遊併
3表 光山     FH       右安
   吉田剛    FH       投ギ(初球はバントファウル)
   内匠     BSBBB    四球
   大石     SBH      中飛(二走タッチアップで三塁アウト)
4表 ブライアント KBSFBBH  左2
   石井     BFSBH    二ゴ(二走が三塁アウト)
   スチーブンス H        一ゴ(一走が二塁で封殺)
   鈴木     FBFS     三振

1ウ 佐々木     BBSSBK   三振
   笘篠      SBBBSS   三振
   パグリアルーロ BFBSBB   四球
   清原      BFBFBK   三振
2ウ 鈴木      FBH      右飛
   石毛      SBSBFK   三振
   吉竹      BBBB     四球
   伊東      BBSBSB   四球
   田辺      SKK      三振
3ウ 佐々木     BBBSFFK  三振
   笘篠      SSFBFBK  三振
   パグリアルーロ SBKBK    三振
4ウ 清原      BBBSB    四球
   鈴木      SSS      三振
   石毛      SFFBS    三振
   吉竹      SKK      三振

郭は初めて開幕投手を務める緊張感があるのだろうか。珍しく微妙なコントロールに苦しんでいるように見えた。それでも、バファローズの走塁ミスにも助けられて、走者は許しながらも三塁は踏ませていない。

一方の野茂は、いつもどおりにフォアボールか三振かという立ち上がりだった。なんと1回から4回までの12アウトのうち11アウトを三振で奪っていた。ここまで徹底してくれると、スコアをつけていても楽しい。

当時、NPBの奪三振記録は1試合「17」だった。残りはまだ5イニングもあるのだ。あと6個でタイ記録、7個以上なら新記録だ。十分に期待が持てる。気がかりなのは投球数が多いことだが、まあ、(当時の)野茂にとってはいつものことだ。

ゼロ行進

5回から8回まで、両チームともヒットはなかった。試合は淡々と進んだ。いい傾向だと最初のうちは思っていた。なぜなら、私は東京ドームのナイターの前売りチケットも持っていたからだ。できれば試合時間は3時間そこそこにしてほしい。

しかし、両チーム無得点だ。延長になると、セリーグの開幕戦には間に合わないかもしれない。別にタレントの始球式を見たいわけではないけれども、遅くともプレイボールまでには球場に着きたい。

5表 村上     H     遊邪
   光山     SFBFH 投ゴ
   吉田剛    SSBS  三振
6表 内匠     SFBH  遊飛
   大石     KFFBH 右飛
   ブライアント BBH   左飛
7表 石井     BSH   中飛
   スチーブンス SKFH  投ゴ
   鈴木     BSBSK 三振
8表 村上     BSSH  一ゴ
   光山     H     投直
   吉田剛    SFBK  三振

5ウ 伊東      FBBFFBFB 四球
   田辺      FH       投ギ(初球バントファウル)
   佐々木     SH       一ゴ(二走が三進)
   笘篠      BSFBH    三ゴ
6ウ パグリアルーロ FKFBS    三振
   清原      BBFH     右飛
   鈴木      SH       一ゴ
7ウ 石毛      SSH      遊ゴ
   吉竹      BH       二ゴ
   伊東      SBKBBB   四球
   田辺      KKBFH    一ゴ(2球目に伊東が二盗)
8ウ 佐々木     SH       二飛
   笘篠      H        二ゴ
   パグリアルーロ BH       遊飛

4回までの異常な奪三振ペースは、5回以降めっきり失速した。奪三振記録は大きく遠ざかっていた。野茂の配球も変わったのだろうし、ライオンズもファーストストライクから打つようになった。

早打ちに転じたライオンズ

4回まで野茂が投じた球数は81球だった。このうち空振り、ファウル、打球の合計は23球だ。スイングの割合は28%にすぎない。5回から8回までの同じ4イニングでは、49球に対して半分以上の25球がスイングだ。

1回から4回までライオンズは打者16人を送った。ストレートの四球だった2回の吉竹を除く15人のうちファーストストライクに反応したのは3人しかいなかった。

5回から8回までは14人の打者を送った。そのうちの8人がファーストストライクをスイングしている。5回から8回までの12アウトのうち8つのアウトは内野ゴロによるものだった(送りバントを含む)。

ライオンズの早打ちは、奪三振記録を遠ざける結果をもたらしたが、同時にヒットも遠ざけていたのかもしれない。ある意味では野茂を救っていた。8回を終えて130球だから、まあ妥当な数字だ。とりたてて多くはない。奪三振記録への期待がしぼむにつれて、ノーヒットノーランへの期待がふくらむ。

野茂の奪三振やノーヒットノーランばかりに目を奪われてしまってはいけない。郭は中盤以降、すっかり自分のペースを取り戻していた。バファローズは、5回から8回まで三者凡退を重ねて、この間1人の走者さえ出すことができずにいた。

0対0で試合は9回に入る。上のライオンズのオーダーを見て、「おやっ」と感じていた人は鋭い。そうなのだ。辻発彦がいないのだ。辻は88年から前年までパリーグのゴールデングラブ賞二塁手部門を独占していた。守備だけでも見たいと思わせる数少ない選手だ。名手は故障で開幕戦を欠場していた。

9回表

このため、ライオンズのセカンドは、本来は三塁手である新外国人選手・パグリアルーロが任されていた。8回までに守備機会は3度(記録上は4度)あった。

まず、2回表一死一塁、村上のショートゴロで田辺の送球を受けて一塁に転送(併殺完成)。次に3回表無死一塁、吉田の送りバントを処理した郭の送球をカバーに入った一塁で受けた。そして、4回表無死二塁では石井のセカンドゴロをファンブルしている(二走の走塁死があるのでエラーはつかない)。

まあ、不慣れなポジションなのだから、危なっかしいのは無理もない。9回表、先頭打者の内匠がその弱点を突いた。初球からセーフティバントを試みたのだ。まんまと成功した。同点の9回で先頭打者が出たのだから、送るのは当然のことだ。大石が2球目で決めた。

これで一死二塁、ブライアントを迎える。ライオンズとしては無理にブライアントと勝負することもない。これも当然のことだ。定石どおりに塁を埋めて一死一・二塁。

バファローズの4番は石井浩郎だった。2球目までボールのあと、内角に甘く入った3球目を左中間スタンドに運んだ。ライオンズの敬遠策は裏目に出て、とうとう均衡が破れた。しかも3点だ。

9表 無死(なし) 内匠     H      二安
   無死1塁   大石     SH     一ギ(初球バントの構えで見送り)
   1死2塁   ブライアント BBBB   敬遠
   1死1・2塁 石井     BBH    左本
   1死(なし) スチーブンス BH     中安
   1死1塁   鈴木     FFBBFH 投併(5球目エンドラン)

実はこのときまで、私は0対0で延長に入る試合を見たことがなかった(この年の5月が最初)。ひそかに期待していた。奪三振記録が消えて、0対0の延長も消えた。まあ、いい。まだノーヒットノーランがあるさ。

ノーヒットノーランの確率

「百里を行く者は九十里を半ばとす」という名言がある(もとは『戦国策』であるらしい)。ものごとは最後の仕上げが肝心だし、最後こそ困難を伴うものだから、百里の道を行こうとする者は九十里に達したあたりでようやく半分まで来たとその程度に心得て気を引き締め直せ、というような意味だ。

ノーヒットノーランの確率とは、どの程度だろうか。打率を2割5分とすると、(1−0.25)の27乗で、27連続アウトの確率を求めることができる。もちろん、実際にはエラーや振り逃げによる走者が出たりするし、四死球もあるから計算どおりにはいかない。

盗塁死や牽制死や走塁死もある。だいたい、9人全員の打率が2割5分というチームがあるわけがない。しかしまあ、とりあえず計算する価値はある。

0.75の27乗は0.0423%だ。0.75の24乗は0.1003%だから、8回終了までノーヒットにおさえていたピッチャーが、ヒットを打たれずに残りの3アウトをとる確率は、半分に満たないことになる。

8回までノーヒットノーランで来て、初めて道半ばなのだ。そこで、野球界には次のような「格言」がある(今、私が作ったばかりだ)。

「ノーヒットノーランを目指す投手は8回終了を半ばとす」

◆上の計算式では、ノーヒットノーランは「1182試合に1回」見られる計算になります。実際には、チーム間の戦力差がありますから、これより高い頻度でノーヒットノーランに出会います。

◆ドラゴンズの近藤真一が初登板・初勝利・初完投・初完封をノーヒットノーランで飾った試合(87年8月9日対G戦)のラジオの実況中継で、解説の近藤貞夫氏は「8回が終わって五分五分」と語っていました。氏が私のように0.75の3乗(連続3アウト)を計算したかどうかは定かではありませんが、経験的に悟っていたのでしょう。ただ、ノーヒットノーランを期待しているアナウンサーに迎合せず、否定的なコメントを残したばかりに(しかも同姓でドラゴンズなのに)、あとでバツの悪そうな言い訳をしていましたが、慧眼であったことは事実です。

クレオパトラの鼻

さて、試合に戻ろう。3点をリードしたバファローズは守備を固めた。レフトの鈴木貴久に代えて中根仁、殊勲の石井に代えてサードには中村紀洋。この日は右から左に、あるいは右翼席から三塁側席に向かって、強い風が吹いていた。左方向の守備を強化したのはうなずける話だ。

9回表、先頭打者は清原和博だった。風からすれば、内角を避けて外角勝負という読みもあっただろうし、向こうの4番が打ったのだからという意地も持ち合わせていたはずだ。1−2からの4球目、外のボールを逆らわずにライト後方に運んだ。

バファローズのライトは内匠政博が守っていた。清原とは高校時代のチームメイトだ。内匠はプロ野球選手としては小柄だ。選手名鑑では170cmにすぎない。内匠が懸命に差し出したグラブをかすめるようにして、ボールは人工芝に弾んだ。とうとう野茂のノーヒットは途切れた。

別に私は落胆しなかった。先の格言どおりだ。ノーヒットノーランなど何度も見られるものではない。だからこそ価値があるのだ。この日の夜のスポーツニュースでは、江川卓氏がこの場面こそが交代時期だったと指摘していた。

一理ある。バファローズのベンチは動かなかった。マウンドにも行かなかった。続く鈴木健を歩かせたところで、鈴木監督がマウンドに向かった。野茂は石毛をレフトフライに打ちとった。一死一・二塁だ。

ここで森監督が動いた。吉竹の代打にもう1人の新外国人選手・ブリューワを起用した。フルカウントからの6球目、それは緩いセカンドゴロだった。併殺は難しいかもしれない。セカンドの大石をあせらせる打球だった。ボールはグラブからこぼれた。一死満塁だ。

9ウ 無死(なし) 清原    BBSH   右2
   無死2塁   鈴木    BBFBB  四球
   無死1・2塁 石毛    BH     左飛
   1死1・2塁 ブリューワ BBSBFH 二失

降板

次のバッターは伊東だ。前の3打席、野茂は伊東に対してすべて四球を与えている。野茂からすれば相性の悪い打者だ。この日のライオンズのスタメン打者で野茂が三振を奪えなかった唯一の打者でもあった。野茂はマウンドを降りた。いや、降ろされた。赤堀がブルペンを出た。論議を呼んだ継投でもあった。

翌日のスポーツ紙には、前年の野茂対伊東の対戦成績が載っていた。18打数7安打、得点圏打率は5割。一方、赤堀対伊東は7打数ノーヒット。バファローズのベンチには当然こうしたデータがあっただろう。

そこまで細かくは知らなかったが、ライオンズで野茂に相性がいいのは伊東と笘篠だということは私も知っていた。投手交代は難しいものだし、相性の悪さもわかっていたけれども、心情的な部分では野茂に続投してほしかった。

ピッチャーが赤堀に代わったのだから、もう伊東は必要ない。3点差で負けている9回裏の攻撃なのだ。正捕手だからといって、そのまま打たせる理由はない。私は代打が出てくることを予感して、ペンを持ったまま構えていた。左の代打が来るはずだ。状況からして安部だろう。

だが、一塁側のベンチは動かない。伊東が右打席に入る。ボール、見逃し、ボールのあと、伊東はファウルを4球続けた。ピッチャーの好投を打線が見殺しにしかけているときの伊東はよく打つ。表面的な打率や打点以上に勝負強いバッターだ。

この日の郭は野茂に勝るとも劣らない内容だった。赤堀の7球目、149キロの速球をファウルした伊東を見ながら、そんなことを考えていた。

逆転満塁サヨナラ

8球目、打球はレフト方向に上がった。ホームランが出れば逆転サヨナラだということは、そのときまで気づいていなかった。なにしろ、次から次へと記録への興味をつないできた試合だった。

ついさっきまでノーヒットノーランなるか、という緊張感が球場を支配していたのだ。ホームランが出たらとか、そんなことを考える余裕はなかった。打球はフェンスを越えて、ポールの内側のレフトスタンドで弾んだ。

9ウ 1死満塁  伊東 BSBFFFFH 左本

試合は終わった。9回表の途中まで間違いなく主役であったはずの野茂は、奪三振記録も作れず、ノーヒットノーランも途絶えた。完封もならず、完投もできず、白星にも見放された。サヨナラの4点目は赤堀の失点だから、負け投手にもなっていない。

ナイターの東京ドームで席に着いたとき、私の気分は重かった。何の因果でもう1試合見なければならないのだ。昼間以上の試合が見られるはずがないだろう。竜宮城は「絵にも描けない美しさ」らしいけれども、あんなにできすぎた試合は水島新司氏でも思いつかないだろう。

当たり前のことだが、翌日のスポーツ紙はジャイアンツが1面だった。まあ、松井の2発、落合も打ってアベック弾、おまけに斎藤は5安打完封、11対0の大勝、見出しには苦労しないだろうけれど、この国のスポーツ・ジャーナリズムの貧困さを象徴しているようで寂しかった。

もちろん、彼ら新聞記者に見る目がないのではなく、読者がそうさせているのだ。かつて「この程度の国民には、この程度の政治家」と言い放った大臣経験者がいた。それは真実の的を射た至言でもある。


◆逆転満塁サヨナラホームランの「伊東」は、この試合を欠場した「辻」、9回表に敬遠された「ブライアント」、この試合では存在感の薄かった「石毛」とともに、「殿堂」入りしています。L対Bu戦は、当時の私にとっての「ゴールデン・カード」でした。
◆3点ビハインドの9回裏ですから、私はてっきり代打だと思っていました。→「キャッチャーが退くとき」
◆ノーヒットノーランはこれまで4回見ています。→「浅き夢見し」

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