セットポジション殿堂
森中聖雄 | 西* | ブライアント

西****

00/08/18作成
13/12/15更新

◆当サイトのリンクは原則として同一ウインドウ表示です。このページでは参照すべき条文等が多くなりますので、必要に応じてご自分で別ウインドウを開いてください。右クリックで「新しいウインドウを開く」を選択すれば、別ウインドウが開きます。Internet Explorerの場合は、Shiftキーを押しながらクリックしてもOKです。MacではCommandキーでクリックでしょうか?

◆当サイトでは、引用文は青緑色を用いて地の文と区別しています。また、引用文中の赤字等は、当サイト管理人が施したものであり、原文の修飾を反映したものではありません。なお、太字は原文のとおりです。


◇同点の9回表

2対2の同点で迎えた9回表二死三塁だった。ピッチャーはNTT関東(以下「N関」)の立石尚行で、左打席に日本通運(以下「日通」)の4番打者・笠井知一が入っていた。

立石がカウント1−3から5球目のモーションに入ったとき、キャッチャーは左足をキャッチャースボックスの外に出したまま立ち上がった(曲げた右足はボックス内に置き、伸ばした左足は完全に外に出ていた状態から立ち上がった)。

97/06/14(千葉マリン) 都市対抗南関東2次予選 敗者復活3回戦
日本通運 100 100 00 =7 黒川−○茂木
NTT関東 001 000 100 =2 ●立石−遠藤−柳沢

球審の西*さんはボークを宣告して、三塁走者を本塁に呼び寄せた。これで、日通は貴重な勝ち越し点を拾った。西*さんは、ベンチから飛び出してきたN関の監督に対して、自分の左足を叩いていた。

動揺したのか落胆したのか、このあと立石は笠井には四球を与え(ボークの投球はノーカウント、5球目が空振り、6球目ボール)、さらにヒットと四球で満塁として、ピッチャーは遠藤竜志に交代した。

遠藤は四球2個で降板し、3番手の投手も連打を浴びた。ロースコアで競り合う緊迫したゲームは、この「ボーク」をきっかけにしてすっかり壊れてしまった。

ボークの宣告

敬遠のとき、キャッチャーがボックスの外に出るとボークになるというのは、ルールブックには確かに存在するのに普段は見逃されている。死文化したルールなのだろうと、ずっと思っていたら、どっこい生きていることがこれで確認できた。

この試合は敗者復活戦であり、負ければ都市対抗出場が絶たれる大切な試合だった。しかも同点の9回、普通の審判なら見過ごすはずだ。西*さんがボークをとらなかったとしても、日通側からボークだとアピールされることはなかっただろう。

古田にしても谷繁にしても、敬遠のときは足が出ている。「常に」出ているとは言わないが、すくなくとも出ていることが「多い」。自信をもってそう断言できる。おそらく異論も多いだろうが、私は西*さんの見識と勇気を評価する。いらない(守れない)ルールなら削除すべきなのだ

西*さんの名前はスコアボードに出ていたが、残念ながら南関東予選の大会パンフには審判名簿が記載されていないので、下の名前は確認できない。ただし、東京都高野連と首都大学リーグの審判に「西****」さんがいるので、同一人物ではないかと思われる。とくに珍しくもないけれど、かと言ってそう多い苗字でもない。

西*さんは、ピッチャーのボークにはかなり厳しい(とくにセットポジションの静止)。ボークをとらないときでも、イニングの合間に注意している光景をみかけることがよくある。私のスコアカードには、その旨のメモがたくさん残っている。

たとえ100人のうち99人にはアウトに見えても、権限を持つ審判1人がセーフだと言うなら、それはセーフなのだ。そういうルールのもとに成立しているのが野球という競技だ。

狙いどおりのコースに投げて、狙いどおりの内野ゴロを打たせても、打球がイレギュラーバウンドしてヒットになってしまうこともある。審判のミス・ジャッジがけしからんと言うのは、今のはイレギュラーだったからアウトにしろと言うのと大差はない。

ワンバウンドでピッチャーの頭上を越える人工芝安打かと思ったら、エンドランがかかっていて二塁のベースカバーに入ろうとしていたショートが捕球、その勢いのままベースタッチして一塁送球で併殺というプレイもある。アクシデントやハプニングがあるから野球は面白いのだ。そういう要素は排除すべきではない。

ルールブックの規定

敬遠のときにキャッチャーの足が出ているとボークになるというルールブックの規定は次のとおりだ。

07年版 『公認野球規則』

8・05 塁に走者がいるときは、次の場合ボークとなる。
 (l) 故意四球が企図されたときに、投手がキャッチャースボックスの外にいる捕手に投球した場合。
 【注】 “キャッチャースボックスの外のいる捕手”とは、捕手がキャッチャースボックス内に両足を入れていないことをいう。したがって、故意四球が企図されたときに限って、ボールが投手の手を離れないうちに捕手が片足でもボックスの外に出しておれば、本項が適用される。

「したがって」は06年版まで「従って」でした。

2・17 CATCHER'S BOX 「キャッチャースボックス」――投手が投球するまで、捕手が位置すべき場所である。

4・03 試合開始のとき、または試合中ボールインプレイとなるときは、捕手を除くすべての野手はフェア地域にいなければならない。
 (a) 捕手は、ホームプレートの直後に位置しなければならない。
 故意の四球が企図された場合は、ボールが投手の手を離れるまで、捕手はその両足をキャッチャースボックス内に置いていなければならないが、その他の場合は、捕球またはプレイのためならいつでもその位置を離れてもよい。
ペナルティ
 ボークとなる。(8・05 l参照)

これに関連する解説書には次のような記述がある。

鈴木美嶺・郷司裕編 『わかりやすい公認野球規則1994』 (ベースボール・マガジン社) 260ページ

「キャッチャースボックスの外のいる捕手」という意味は、捕手が両足ともボックス内に入れていないということである。したがって、捕手が片足でもボックスの外に出していたらボークになる。ただし、ボールが投手の手を離れてからなら、捕手はボックスから外に出ることはさしつかえない。
 ところで、「故意四球が企図された」と審判員が判断する基準について、アマチュア野球には次のような内規があるので、参考にしていただきたい。
 「審判員が“故意四球”が企図されたと判断する場合とは、捕手があらかじめ捕手席内に立ち上がって、投手の投球を待つ姿勢をとり、しかも誰がみても作戦上その打者を敬遠するという守備側の意図が明らかな場合にかぎられる。無死または一死で三塁に走者がある場合、スクイズプレーを防ぐためのウエストボールを投げるようなときに、捕手が腰をかがめて投球を待ち片足を捕手席の外に出しても投手にボークを課さないものとする」

▲この内規は07年までのものです。アマ内規が見直された08年に削除されました。

西大立目永 『必携 野球の審判法』 (大修館書店) 336〜337ページ

[問題98] 故意四球と捕手の位置
 9回裏、1点のビハインドを背負って後攻チームの最後の攻撃に移った。先頭打者死球、次打者はバント失敗後強振、これが左中間を破るツーベースとなり、無死二・三塁という願ってもないチャンスが到来した。守備側はこのピンチを切り抜けるべく次打者を歩かせる敬遠満塁策をとった。捕手はその第1球を最初から(投球が投手の手を離れないうちから)片足を捕手席の外に出して立ち上がって構え捕球した。攻撃側は「捕手の動作は規則違反で、投手にボークを課すべきだ」と抗議した。この主張は受け入れられるか?
[答] 受け入れられる。審判員はボークを宣告し、得点1、無死走者三塁で試合を再開させねばならない。

島秀之助 『プロ野球審判の眼』 (岩波新書) 165〜166ページ

問45 二死走者二・三塁。強打の4番打者が打席に入った。バッテリーは敬遠して歩かせようと思い、捕手が初めから片足をキャッチャースボックスの外へ出して構え、投球を受けとめた。「片足だけならよいのではないか」と守備側は言うが…
答 故意四球が企図された場合には、投手の手からボールが離れるまで、捕手は両足をキャッチャースボックス内に置いていなければならない。この場合、捕手が最初から片足をキャッチャースボックスの外に出していたから、投手のボークとなり、走者の進塁が認められる。

解釈上の疑問

これらの字句を検討する限り、「片足でも出ていたらボーク」という解釈以外は生じる余地がない。ただし、いくつか細かい疑問がある。

〔1〕「故意四球が企図されたとき」…いわゆる敬遠の場合の「四球目」に当たる投球だけなのか、初球や2球目なども含むのか?

〔2〕「投手が投球するまで」…投手が投球動作を起こしたときまでなのか、リリースする瞬間までなのか?

〔3〕「キャッチャースボックスの外」…かかとがラインに乗っていて、つま先が出ているときは「外」なのか「内」なのか?あるいは、完全に外にあるが、まだ地面を踏んでいない状態は「外」なのか「内」なのか?

〔1〕に関しては、上に掲げた西大立目氏の本の中に「第1球」とあるので、「四球目」の投球だけでなく、初球や2球目も含むことになる。〔2〕も【注】を読む限り、「リリースの瞬間まで」と理解してよさそうだ。〔3〕は、規則6・06(a)の類推解釈で「ラインにかかることなく完全にボックスの外に踏み出した状態」と解した。

▲これらの解釈については、確認済みです。

プロ野球の事例

「西*さん事件」以降、私はしばらくの間、敬遠の場面では双眼鏡を取り出して、キャッチャーの足がボックスの外に出ているかどうかをチェックし続けた。今はもうやめている。野球は何が起こるかわからない。敬遠のボールを打つ打者は新庄だけとは限らないし、小林のようにワイルドピッチという事例もある。

敬遠の途中で、投手が牽制球を入れて三塁走者がアウトになったのを見たこともある。視界を狭める双眼鏡は、できれば使いたくない。捕手席のラインは消えていることのほうが多いけれども、ラインを引くときの目印になる「植木」がある(なんと呼ぶのだろう?)。

基本的にはこれを基準にして判断していた。したがって、ラインの幅の分は考慮できない。キャッチャーがボックスの外に足を踏み出して、地面に触れたときに、双眼鏡を外すようにした。双眼鏡を外したとき、視界に入ってくる投手が投球したあとなら問題はない。ピッチャーがまだボールを保持していれば「ボーク」ということになる。

私のスコアカードには、たとえば次のようなメモが残っている。

《97/07/05YB対C13回戦》
 4ウ谷繁の敬遠、リリースの瞬間にはキャッチャーボックスの外(捕手=西山)

《97/07/20M対H18回戦》
 10ウ山下の敬遠、川越の足がキャッチャーボックスの外の地面を踏んだあとでリリース

《97/08/03S対D18回戦》
 8表パウエル敬遠のとき、古田がボックスの外に踏み出してからリリース

《97/08/19S対YB20回戦》
 4表谷繁敬遠のとき、リリース前に古田の右足がボックスから出る

高校野球で見た事例

プロ野球ほど多くはないけれども、アマでも敬遠はある。97年11月24日の高校野球秋季四国大会では、捕手が露骨にボックスの外に出ていたことがあった。

明徳義塾高と尽誠学園高の1回戦(松山市営球場)は、2対2の同点で最終回を迎えていた。9回表一死三塁、ピッチャーは右のサイドハンド、バッターは左打者だ。双眼鏡を取り出すまでもなかった。

▲「敬遠」したのは尽誠です。明徳の攻撃ですので、念のため。

キャッチャーは、両足ともボックスの外に立って構えていた(ひょっとすると右足だけはラインにかかっていたかもしれない)。ネット裏の前列から「ボックスの外に出てるんだからボークだろう。おい、審判。ボークとれよ」というヤジが、もちろんあちらの方言で、かなりしつこく繰り返された。

球審も捕手も攻撃側チームも何の反応も示さずに、4つの投球が投じられた。このおじさんのヤジは私にだけ聞こえて、グラウンドには届かなかったのかもしれない。

西*さんはきっぱりとボークを宣告したけれども、球審が捕手に対して注意を与えたケースも見たことがある(このような目撃情報は多い)。ところが、この注意がアクシデントを生むのだから始末が悪い。

99年7月18日、高校野球の東東京大会2回戦(江戸川球場)の5回裏だった。すでに9点差だった。あと1点でコールドだ。一死一・三塁、この日先制の3ランを打った3番打者への敬遠の場面で、キャッチャーがボックスの外で立ち上がって構えていた。

ピッチャーは投球したが、球審はタイムのゼスチャーをすることなく、持ち場を離れてキャッチャーの両肩をつかんでボックス内に引き戻した。問題は、この投球が正規の投球なのか、ノーカウントなのかということだ。この投球を「0球目」としよう。その後、キャッチャーはボックス内で立っていた。

「1球目」から「3球目」まで、もちろんボールだった。「2球目」が投じられた時点で、スコアボードにはボールを示す青いランプが3つ灯っていた。つまり、「0球目」をカウントしていたのだ。この「誤解」は、スコアボードの係員だけでなく、私もそうだった。それに、一塁走者も守備側も同じように「誤解」していた。

だから、「3球目」のあとで、一塁走者は二塁にのんびり走った。打者走者もバットを置いて一塁に行きかけて、球審に呼び戻された。要するに、一塁走者は四球だと思ってゆっくり二塁に向かったのだ。守備側も四球だと思っているから、一塁走者の「盗塁」に対して何の守備行為もしなかった。

▲02年の高校野球春季埼玉県大会で、同様の事例を目撃しました。同点の9回裏無死二・三塁、捕手がボックス外に立ち、投手は1球投じましたが、球審はこの「0球目」をカウントしませんでした。打者は「3球目」で一塁に歩きかけましたが、やはり呼び戻されました。

▲03年高校野球春季茨城県大会の県西地区予選では、8・05(l)が適用されました。同点で迎えた8回裏、後攻チームは打者一巡の攻撃でリードを6点差に広げました。二死一塁からサヨナラ・コールドのランナーになる一塁走者が盗塁に成功して、守備側は敬遠策を選びましたが、キャッチャーがボックスの外で立って構えていたため、球審はボークを宣告しました。まあ、点差が開いたあとでしたし、走者二塁でしたので、ボークを宣告しやすい環境ではありました。

明文化されていない取り決め?

実は、「8・05(l)は適用しない」という明文化されていない取り決めをしているところもあるらしいのだが、私が監督なら、敬遠のときに相手方捕手の足が出ていたら、規則8・05(l)を適用するように、規則9・02(b)に基づき正当なアピールをするだろう。

そのときの球審は、私の主張を「明文化されていない取り決め」によって退けることができるのだろうか。

07年版 『公認野球規則』

9・02 審判員の裁定
 (a) 打球がフェアかファウルか、投球がストライクかボールか、あるいは走者がアウトかセーフかという裁定に限らず、審判員の判断に基づく裁定は最終のものであるから、プレーヤー、監督、コーチ、または控えのプレーヤーが、その裁定に対して、異議を唱えることは許されない。
 【原注】 ボール、ストライクの判定について異議を唱えるためにプレーヤーが守備位置または塁を離れたり、監督またはコーチがベンチまたはコーチスボックスを離れることは許されない。もし、宣告に異議を唱えるために本塁に向かってスタートすれば、警告が発せられる。警告にもかかわらず本塁に近づけば、試合から除かれる。
 (b) 審判員の裁定が規則の適用を誤って下された疑いがあるときには、監督だけがその裁定を規則に基づく正しい裁定に訂正するように要請することができる。しかし、監督はこのような裁定を下した審判員に対してだけアピールする(規則適用の訂正を申し出る)ことが許される。
 【注1】 <略>
 【注2】 <略>

私は規則9・02(a)を尊重するけれども、この件に関してはそう簡単には引き下がらないだろう。私でなくても、あの松山のおじさんが監督でも同じ事態が起こるはずだ。私なら、ルールブックを携えてアピールして、相手方捕手に聞こえるところで、それを球審に読み上げさせるかもしれない。

西大立目氏の本の当該ページに付箋をつけて、マーカーしたものを読ませるという趣味の悪いことさえやりかねない。その際、球審にはどういう対処の方法があるのだろうか。ひとごとながら気の毒になる。

まあ、別に78年日本シリーズの上田監督のまねをするつもりはない。中断を長引かせるのもどうかと思うし、当該審判の立場も理解できるので、「ボークはとらない代わりに今の投球はノーカウントとする」という収拾案を提示することになるだろう。

攻撃側監督がボールと判定された投球をノーカウントにすれば試合再開に応じると言う以上、審判にも相手側監督にもこれを飲んでもらうしかない。なぜ「ノーカウント」を主張するかというと、ボークは基本的にはノーカウントだからだ(一定条件のもとで例外がある)。江戸川の審判の措置はその意味で正しいのだ。

ナンセンスなのか?

「ボークである以上、ボールデッドであり、投球はカウントされるべきではない」と主張したいのであって、ペナルティを要求したいわけではない。ルールどおりにボークであることを認めてほしいだけだ。その主張が受け入れられないのなら、「遅延行為」による退場を促すしかない。

たとえ「明文化されていない取り決め」であっても、それがあらかじめ各監督に通知されているのなら、別に問題はない。もっとも、その場合は口頭ではなく文書で通知されるだろうから、「明文化された取り決め」になる。

「明文化されていない取り決め」は、やはり明文化すべきではないだろうか。00年1月22日に開かれた全日本野球会議主催の審判員シンポジウムでも、この規則8・05(l)に関する質疑があったらしい。かつて規則委員も務めていた元プロ審判氏から、おおむね次のような回答があったそうだ。

▼これは伝聞情報であり、正確なものであるという保証はできません。

本来このルールは、敬遠の四球の場合に捕手が異常なほどボックスを離れないようにするために定められたものだ。そもそもベースボールは打者が投球を打つことによって成立しているのであり、捕手がキャッチャースボックスを10メートルも20メートルも離れていいということになれば、それはベースボールの本質から外れる。だから、捕手の片足が出ているくらいで目くじらを立てるのはナンセンスである。キャッチャースボックスを示す白線はプレイが進むうちに消えてしまうし、アメリカではこういう無駄な白線は引かないことになっている。

彼は規則委員を務めていたのだから、ナンセンスだと思うのなら、「片足でも出ていたらボークとする」という【注】を変えればよかったのだ。

【注】の改正を!

ルールブックの【注】は、日本の規則委員会が独自につけ加えたものだ。だから、これを削除することも訂正することも、日本の規則委員会の権限だけですることができる。すくなくともかつて、彼はそれを発議することができる立場にいた。それは権利ではなく、義務でさえあった。

自分がなすべきことをやらずにおいて「ナンセンス」よばわりはないだろう。それに、「ラインが消えてしまう」とは噴飯ものではないか。ラインが消えれば、ジャッジはできないとでも言いたいのだろうか。たしか、ストライクゾーンにはラインは引いてなかったと私は記憶している。

これでは、まるで「ファウルラインが消えたらフェアかファウルかのジャッジは放棄する」と言っているのと同じではないだろうか。8・05(l)の【注】を次のように変えればよい。

8・05(l)改正案その1

“キャッチャースボックスの外のいる捕手”とは、捕手の両足がキャッチャースボックスの外にあることをいう。従って、故意四球が企図されたときに限って、ボールが投手の手を離れないうちに捕手が両足ともボックスの外に出しておれば、本項が適用される。

こうすれば、松山の事例はともかく、ほとんどの場合は規則違反にはならない。ルールブックに書いてあることがルールブックどおりに適用されないなら審判不信を招く。私が西*さんをMVPに選んだのはその裏返しだ。「明文化されていない取り決め」など私や松山のおじさんには存在しないのと同じだからだ。

◆【注】の改正に際しては、「故意の四球が企図された場合は、ボールが投手の手を離れるまで、捕手はその両足をキャッチャースボックス内に置いていなければならない」と定めている4・03(a)に対しても対処が必要になります。

サヨナラ・ボークの適用例

この規則8・05(l)が適用されたケースを、私自身は2度しか見ていないけれども、インターネットの世界は広い。適用例がほかにもあることを多く知った。ある事例(少年野球)では、やはり最終回で、1点差を追う裏の攻撃だったそうだ。二・三塁からボークで同点になり、敬遠されるはずだった打者のヒットでサヨナラになったらしい。

敬遠はこういう勝負どころで用いられる作戦だ。序盤から敬遠などしない(ただし、セリーグなら初回に3点取られて二死二・三塁というケースで8番キャッチャーを歩かせることが実際によくある。DH制を採用しているパリーグや社会人ならあまりない)。

敬遠の場面というのは、プレイヤーにとっても大切な場面だし、観客にとっても面白い場面なのだ。そういうときに、ボークでゲームを壊されてはたまったのものではない。98年の高校野球選手権大会では、プレートを外し損ねてサヨナラ・ボークという試合があった(豊田大谷高対宇部商高)。

▲大学野球では、1970年の大学選手権準決勝(中京大対関東学院大)が、延長12回にサヨナラ・ボークで決着しています。「元気があれば、何でもできる?」のページにイニングスコアのみ掲載しました。

そういう終わり方では欲求不満が募るのは誰でも同じだろう(悲劇的に扱われたが、あの場面は無死満塁だったし、あれはやっぱりボークだ)。8・05(l)を適用したくない「事情」というか「本音」は、その辺りにあるのだろうと私は邪推している。

とくにプロの場合、興行としての性格上、規則8・05(l)に限らず、サヨナラの場面でのボークはとりにくいものではなかろうか。『ベースボール・レコード・ブック』1999年版(ベースボール・マガジン社)には、巻末の特別企画として、サヨナラ試合の一覧が載っている。サヨナラ・ボークの試合は、次のように4例ある。

・48/08/10(西宮) 中日5対4急映
・51/09/09(大阪) 西鉄4対3大映
・52/08/28(大阪) 近鉄2対1阪急(ダブルヘッダーの第2試合)
・53/07/15(大阪) 南海6対5毎日

「4例ある」と言うより、「4例しかない」と言うべきなのかもしれない。しかも、時期と地域が偏りすぎているので、すべてではないとしても、同一審判が関与している可能性がかなり高いと想像される。

NPBにおける8・05(l)の適用例

なお、宇佐美徹也氏の『プロ野球データブック』(講談社文庫)に、日本のプロ野球で8・05(l)が適用された事例が載っていた。ここに言う「30年」とは昭和30年、つまり1955年のことだ。

宇佐美徹也 『プロ野球データブック』 (講談社文庫、806ページ)

 投手は別に違反をしていないのに記録上“無じつのボーク”が課せられるケースが二つある。一つはボークとなるケースを列挙した規則8・05(l)の「故意四球が企図されたときに投手がキャッチャースボックスの外にいる捕手に投球した場合」。これが30年に作られた当初は故意四球の場合に限らず「捕手はボールが投手の手を離れるまで、本塁直後の捕手席の中に両足を入れていなければならない」というものだった。
 この年6月18日の巨人戦で大洋の権藤正利投手がその御難にあった。走者二、三塁で打者広田順とのスクイズを見破った捕手の目時富士雄が外角にウエストする球を要求、このときキャッチャースボックスから両足を出して投球を受けたため三塁走者の生還が認められ、権藤に記録上のボークが課せられた。

宇佐美氏は「記録の神様」であっても「ルールの神様」ではない。厳密には「キャッチャースボックスから両足を出して投球を受けたため」との記述は正確さに欠ける。「(投手が)キャッチャースボックスから両足を出している捕手に対して投球したため」にボークが適用されたのだ。

捕手が投球を受けた時点で、ボックスの外に出ていても問題はない。宇佐美氏自身が引用している部分を読んでも、そういう解釈しか成立しない。ボークを犯したのは、捕手席を出た捕手ではなく、捕手席外の捕手に投球した投手なのだ。

まあ、キャッチャーがボックスの外で立ち上がったのを見て、投球動作をやめれば、それはそれでボークになるわけで、ピッチャーとしては投球するしかないわけだから、「無実のボーク」には違いないけれども…。

いずれにせよ、50年近く前にプロ野球でも、8・05(l)が適用されたことがあるようだ。ただし、こういう古い事例しか載っていないということは、その後はないということなのだろう。

▲『週刊ベースボール』04年2月28日号の千葉功氏の連載コラム「実例で見るルール教室」には、「この規則を適用されたのは、日本では1度しかありません」と記載してあります(155ページ)。同コラムによれば、大リーグでは99年のツインズ対ホワイトソックス戦での適用例があるそうです。

座ったままの「敬遠」

もし、キャッチャーが立ち上がらずに打者を敬遠しようとしたら、どうなるのだろうか。「故意四球が企図されたとき」の解釈の問題になるだろうが、先のアマチュア内規には「捕手があらかじめ捕手席内に立ち上がって」とあった。

キャッチャーが座ったまま捕手席を出て、実質的な敬遠がおこなわれることは、とくに高校野球では珍しいことではない。あの松井の5打席連続「敬遠」もその形だった。その辺りがわかっているメディアは、5打席連続「四球」と表現している(いた)。すくなくとも記録上の「故意四球」ではなかった。

▲記録上の「故意四球」の定義は「こんなとき…」参照

同じように捕手席を出ていても、立ち上がっていたらボークで、座っていたらボークにはならない、というのは大きな矛盾だと思われる。アマチュア内規を厳格に解釈すると、そういうことになってしまう。

こうして考えてみると、規則そのもの(あるいは翻訳)に欠陥なり盲点なりが存在していて、単に規則8・05(l)【注】をいじっただけでは問題の解決にはならないようだ。また、8・05(l)は、おそらく規則6・06(a)と対になるものであろうと思われる。

07年版 『公認野球規則』

6・06 次の場合、打者は反則行為でアウトになる。
 (a) 打者が片足または両足を完全にバッタースボックスの外に置いて打った場合。
 【原注】 本項は、打者が打者席の外に出てバットにボールを当てた(フェアがファウルかを問わない)とき、アウトを宣告されることを述べている。球審は、故意四球が企てられているとき、投球を打とうとする打者の足の位置に特に注意を払わなければならない。打者は打者席から跳び出したり、踏み出して投球を打つことは許されない。

たとえば、新庄のように、敬遠のボールを打とうとした打者が、ボックスの外に足を踏み出して、ボールを打ったとしよう。この場合、打者は規則6・06(a)によってアウトになる。

だが、その前に、捕手席の外で立って構えているキャッチャーに対して投手が投球したら、どうなるだろうか。この場合、打者の6・06(a)違反より、投手の8・05(l)違反が先んじているわけだから、投手にボークが適用されねばならない(はずだ)。

攻撃側にバッターボックスを出たときのペナルティがあるなら、守備側にも同じようなペナルティがなければ、バランスに欠けるのだ。この場合、バッターボックスを出なければ打てないような投球をしたほうが「悪い」。

だから、8・05(l)は、投球時点で判断されるのであって、捕球時点でキャッチャーがボックスの外に出ていても何の問題もないことになる。そのように考えると、「6・06(a)に該当する行為があったときに限り、8・05(l)を適用する」というのも「逃げ道」の1つかもしれない。

要するに、「攻撃側が守備側のルール違反を見逃すのなら、守備側へのペナルティという形で攻撃側への利益を与える必要などない」という考え方だ。

わざとバッターボックスを出たら?

逆に、守備側の8・05(l)違反に対して、攻撃側がわざと6・06(a)違反で応じれば、審判はいやでもボークをとらざるを得ない状況に追いこまれることになるだろう。バッターボックスを無視して、バットに当てるだけでいいのだから(バントも可)、走者三塁で敬遠のときに、たやすく1点とれそうだ。

まあ、おすすめするわけではないけれども…。この問題が放置されるなら、そういう「事件」も起こりうるだろう。かりに、8・05(l)は適用しない旨の「明文化されない取り決め」が存在するのだとしても、攻撃側にペナルティが与えられるというふざけた話にはならないだろう。

繰り返しになるが、敬遠の投球であっても、打者には打つ権利がある。ボックスを出なければ打てないところに投げた守備側が「悪い」のだ。先に紹介した元プロ審判氏がいくら「ナンセンス」だと考えていても、守備側の違反が攻撃側の違反に先立つ以上、打者をアウトにすることはできないはずだ。

6・06(a)があるなら、8・05(l)も必要な規則だ。私はビデオ判定反対派だ。だが、キャッチャーの足は出ているという指摘を頑強に否定されるのなら、ビデオを撮ってでも証明したくなる(実際に否定されたことがある。現実問題としてボークをとりにくいのは理解できるけれども、前提となる事実は認めていただかないと、その先の発展的な議論が成立しない)。

このページで、「どうか外部に対しても率直に現状を認めたうえで、現実的な解決策を探ってほしい」と書いていたら、西大立目氏が次のように記述しているのを見つけた。

『ベースボール・クリニック』01年11月号(ベースボール・マガジン社) 西大立目永「ジュニアのためのまんがルール講座」

 この規則は現在の球界(洋の東西を問わず)で最も軽視されている規則の1つで、スポーツ成立の原則から考えると残念でなりません。敬遠のとき、ほとんどの捕手は投手の手からボールが離れないうちに捕手席から片足を出しています。

最終案

ほとんど適用されず、事実上死文化しているような規則があることは好ましいことではない。その解決策として、すでにいくつかのプランを提示してきた。

〔ア〕適用しないルールなら削除してしまう。実際には削除できないので「日本ではこのルールは適用しない」旨の【注】を加える

〔イ〕ボークはとらないが、ノーカウントとするように【注】を改正する

〔ウ〕片足が出ているだけならOKとし、故意四球を広く解釈するように【注】を改正する

〔エ〕6・06(a)に該当する行為があったときに限り、8・05(l)を適用すると【注】を改正する

どのみち【注】の改正を伴うなら、もっとクリアに解決する方法があることに気づいた。

8・05(l)【注】改正案その2

“キャッチャースボックスの外のいる捕手”とは、捕手がキャッチャースボックス内に両足を入れていないことをいう。故意四球が企図されたときに限って、投手が投球モーションを起こさないうちに捕手が片足でもボックスの外に出しておれば、本項が適用される。

▲「外に出しておれば」も「外に出していれば」に変えたほうがいいと思いますが…。

このように「ボールが投手の手を離れないうちに」を変えてしまえばいいのだ。「リリースの瞬間」を基準にすると、多くの場合8・05(l)違反になる。次の〔A〕から〔C〕はすべて違反になるのだ。

〔A〕捕手は最初から(ずっと)捕手席の外側
〔B〕捕手は投手が投手板に位置したときは捕手席の内側、投手がモーションを起こす前に外へ
 〜「改正案その2」ではここまで違反〜
〔C〕捕手は投手がモーションを起こすまで捕手席の内側、リリースの前に捕手席の外へ
 〜現行規則では(本来)ここまで違反〜
〔D〕捕手は投手の手からボールが離れるまで捕手席の内側、リリース直後に外へ
〔E〕捕手は最初から(ずっと)捕手席の内側

しかし、「改正案その2」なら、捕手がボックスを出た時期が、投手がモーションを起こしてからリリースするまでの間であれば「セーフ」となる。すくなくともプロ野球の場合、〔A〕はめったに見ない。したがって、実態に即してルールを改正するだけの話だ。まあ、松山の事例は紛れもなく〔A〕だったけれども…。

実は、この最終案には大きな魅力がある。宇佐美氏が「無実のボーク」と呼ぶように、キャッチャーの責任でピッチャーにボークが適用されて自責点対象になるのは、ルール上の不備だと思われるからだ。記録マニアとしては納得できないことなのだ。

だが、私の最終案なら、捕手席外に立っていた捕手に対して投球した投手にこそ責任のすべてがある。投手は、捕手が捕手席外にいるうちは、投げない自由があるからだ。いったんプレートを外して、捕手が捕手席内に戻るか座るように催促することができる。これなら、記録上の齟齬も是正できるし、実際のプレイにもほとんど影響はない。


◆差し障りがあるといけないので、西*さんのお名前は冒頭の1文字のみを表記しました(まあ、ファイル名を気にする人は少ないと思いますので…)。なお、誤解されている方がいらっしゃるようですので、申し添えておきます。故・西大立目氏は97年の時点で、すでに「現役」を退いておられたはずです。

◆当サイト内には、審判関係のページとして、前記「ビデオ判定…」のほかに、「レフェリーとアンパイア」「打順間違いミスい事件」「日本シリーズの審判」などがあります。

外部リンクです。
べ〜すぼ〜るパラダイスルールむむむ考「投球当時」とはいつの事か?
 このページをヒントにして、「最終案」がひらめきました。本来は「オン・ザ・ラバー」か「イン・モーション」かという話ですが…。(03/02/21通知済)

◆事実誤認、数値の誤り、変換ミス、リンク切れ等にお気づきの際は、お手数ですが「3代目んだ」(敬遠時の捕手)または「メールのページ」からご一報いただけると幸いです。なお、8・05(l)および4・03(a)が、故意四球のときにだけに限定されたルール改正の経緯をご存知の方はご教示をお願いします。私にとってはもう10年来の謎です。

★07/02/14校正チェック済、ケなし、順OK
★08/03/11HTML文法チェック済(エラーなし)



検索リンクポリシー殿堂|次へ:ブライアント|作成順:「思い出づくり」の結末