◆無死満塁が無得点で終わることは、さして珍しいことではありませんが、それが3者連続三振なら、かなり珍しいはずです。これに同点の9回裏という舞台装置が整うなら、ありふれた3者連続三振ではありません。
基本的には高校生は殿堂に入れたくない。これからももっと見る機会があるだろうし、そのときでいいと思っている。なによりも高校がピークであってほしくない。だが、この選手だけは「例外」にしないわけにはいかなかった。
97年夏の千葉県大会だった。成田と検見川(けみがわ)との対戦だった。成田は夏に6回、全国大会に出場している。最後の出場は90年だが、93年と94年は夏の千葉県大会で準優勝、95年春も県大会準優勝、95年夏はベスト4だ。対する検見川は、高校野球ではそう知られたチームではないはずだ。
| 97/07/21(八千代) 高校選手権千葉予選4回戦 | ||
| 検見川高 | 000 000 220 1 =5 | ○#18 |
| 成田高 | 000 022 000 0 =4 | #11−●#1 |
第1試合の9回裏、大須賀は成田の先頭打者にセンターオーバーの三塁打を打たれた。八千代球場は器の大きい球場ではない。ちょうど第2試合の応援の人たちも入ってきて、スタンドは混雑していた。私はネット裏最上段で見ていた。私の後ろの通路には赤ちゃんを抱えたカップルが立っていた。
検見川ベンチから伝令が出た。「プロ野球ならこういう場面では敬遠して満塁にするんだよな」という声が後ろから聞こえてきた。伝令が去り、検見川ベンチは満塁策を選んだ。「ほらな」、さっきと同じ声が聞こえた。
無死満塁となって成田の9番打者は初球にバントの構えを見せたものの見送ってストライク、2球目から4球目までボールが続いた。これでカウントは1−3、満塁だから四球も許されない。絶体絶命のピンチだ。5球目はストライクで、6球目は中途半端なバントの空振りだった。
打順は1番に戻る。初球がストライク、2球目は空振り、3球目も空振り。大須賀はこの試合14個目の三振を奪って、ツーアウトまでこぎつけた。2番打者にはボールが2つ先行した。3球目と4球目が見逃しのストライク、5球目がファウル、6球目は空振りだ。
できの悪い野球マンガではないけれど、大須賀は同点の9回裏無死満塁を3者連続三振で切り抜けたのだ。無死満塁での3者連続三振は、95年にも見たことがある。小林雅英(当時は日体大。東京ガスを経てマリーンズ)だ。
だが、小林のときは両チーム無得点の2回裏だった。9回裏無死満塁とはくらべものにならない。ちなみに、小林の3者連続三振の3人目は代田建紀(当時は城西大。朝日生命を経てバファローズなど)だった。結局、大須賀は10回完投で16奪三振だった。
10回完投 打者43 被安打5 奪三振16 与四球6 与死球1
勝ち越してもらった直後の10回裏にも大須賀はピンチを迎えた。四球と安打に盗塁も絡んで一死二・三塁。ベンチから伝令が走る。内野手がマウンドに集まる。しばらくすると、ベンチからもう1人出てきた。マウンドに向かう走り方がちょっとおかしい。どこかもどかしそうに走っている。
手に何か持っているようだ。あれはコップだ。コップの水をこぼさないように走っているのだ。大須賀は2人目の伝令から受け取ったコップの水を飲み干して、後続を一塁ゴロと三振に封じた。
タイムのときに水を飲んではいけないというルールは内規にもないだろう(たぶん)。だとすれば、なかなかいいアイデアだ(こういうことを書くと禁止されるかもしれない)。
実は私は大須賀を3回戦でも見ている。「同じチームを何度も見る必要はない」主義者の私にしては、珍しい「失敗」だったのだ。3回戦は7月19日、船橋市民球場の第2試合だった。第1試合は敬愛学園の試合だった。五十嵐亮太(のちにスワローズ)が投げていた。
つまり、第2試合は五十嵐の付録だった。第2試合のスタメン発表で、「9番ピッチャー大須賀くん、背番号18」というアナウンスを聞いたとき、私は第2試合を見ないで帰ろうかと真剣に考えた。もう五十嵐は見た。目的は果たしたのだ(今はそれが主たる目的ではないが、当時はそうだった)。
暑いうえに屋根はないし、スタンドには椅子もないコンクリートむき出しの球場だ(97年当時。その後改装されて椅子は設置されたようだ)。背番号18なら、3番手か4番手のピッチャーだろう。見ても仕方がないとさえ思った。だが、投球練習をしている背番号18は大柄なサウスポーだ。
左ということを考慮すれば、五十嵐にもそんなにひけはとらない。これで背番号18なら、エースはかなりのものだろう。検見川の背番号1の選手はライトに入っていた。あいにく、背番号1の肩を見る機会には恵まれなかった。なぜなら、大須賀は17三振を奪ったからだ。ライトから三塁あるいは本塁へ送球する場面はなかった。
4回戦の翌日のスポーツ新聞で背番号の謎が解けた。背番号18はプロや大学や社会人のエースナンバーだから、大須賀には高校を卒業してもエースナンバーをつけられるような投手になってほしいという、いわば監督の親心だったのだ。
伝令に持たせたコップの水といい、ここの監督の発想はユニークだ。もし甲子園に出ていたら、大須賀に8番か16番の背番号を与えて、あまり目立たないように少しだけ線を書き込んだかもしれない。なお、大須賀は明大でも背番号18をつけていたが、残念ながら社会人では14のようだ。
私が見た無死満塁無得点のケースは次のとおり46例ある(02年まで)。
▼無死満塁は、イニングの先頭打者から3人が塁上にいるケースのみをカウントしています。四球−本塁打−四球−本塁打のあと、四球−失策−四球で無死満塁というようなケース(実例)は、集計対象に含めていません。1つも漏らさずピックアップしたとは思いませんが、一定の精度は確保されているはずです。
▼「点差」は、攻撃チームから見たときの無死満塁無得点時の得点差です。「勝敗」は、無死満塁無得点に終わった攻撃側チームの最終的な勝敗です。「満塁後の結果」のうち、「*併」とあるのは併殺打(内野ゴロのホームゲッツー)、「*直」はライナーによる併殺、「牽制」は牽制死、「走塁」は走塁死、「盗刺」は「盗塁死」です。
[01] 91/05/12 横浜 C スワローズ 6表 +1 ○ 右飛 二併 佐々木 ホエールズ [02] 91/08/11 GS神戸P ブルーウェーブ 9ウ −1 ● 三振 三ゴ 三ゴ 鹿取 ライオンズ [03] 92/03/09 西武 N 松下電器 4表 0 ● 遊併 左飛 佐藤康 プリンスホテル [04] 92/06/07 東京ド C ドラゴンズ 1表 0 ● 投併 三振 ケアリー ジャイアンツ [05] 92/08/13 甲子園 H 鹿児島商工高 8表 +1 ● 遊ゴ 遊ゴ 二ゴ 高* 県岐阜商高 [06] 92/08/30 東京ド N 大阪ガス 5ウ +2 ○ 遊飛 三併 村井 NTT信越 [07] 92/09/23 神宮 U 日本大 8ウ +1 ○ 投併 遊飛 恩田 東洋大 [08] 93/05/16 横浜 H 東海大甲府高 6表 +1 ● 右飛 三併 石* 太田市商高 [09] 94/03/12 西武 N 川鉄水島 7ウ −2 ● 投併 三振 樋口 東芝府中 [10] 94/05/22 東京ド C ジャイアンツ 6ウ 0 ● 二併 左飛 石井 スワローズ [11] 94/08/07 藤井寺 P バファローズ 4ウ +1 ○ 三ゴ 一ゴ 遊ゴ 郭 ライオンズ [12] 94/11/09 神宮 U 東亜大 3表 0 ○ 一ゴ 三振 中飛 中川 青山学院大 [13] 95/05/06 川崎 U 城西大 2ウ 0 ● 三振 三振 三振 小林雅 日本体育大 [14] 95/05/14 高崎 H 浦和学院高 8ウ −1 ● 三併 投ゴ 佐* 慶応高 [15] 95/05/20 日生 N プリンスホテル 6表 +3 ○ 中飛 遊併 森 三菱自動車京都 [16] 95/07/15 東京ド P ファイターズ 1ウ −1 ○ 三ゴ 三振 三振 竹下 ライオンズ [17] 95/10/15 瑞穂 U 中京大 7表 +5 ○ 中飛 三振 中飛 小西 名古屋商科大 [18] 95/11/04 神宮 U 九州国際大 4表 +1 ● 牽制 遊ゴ 遊ゴ 川上 明治大 [19] 96/04/17 神宮 U 専修大 2ウ −1 ● 投直 遊ゴ 塩崎 東洋大 [20] 96/04/21 日立 N いすゞ自動車 1ウ −6 ● 三振 三振 投ゴ 建山 松下電器 [21] 96/04/28 横浜 U 横浜国立大 4表 0 ● 三振 三振 投ゴ 領家 神奈川工大 [22] 96/06/12 神宮 U 立命館大 4ウ +1 ○ 三邪 右飛 三振 三村 松阪大 [23] 96/07/17 千葉公園H 柏南高 1ウ 0 ○ 走塁 三ゴ 二飛 長* 大多喜高 [24] 96/08/05 札幌 N 新日鉄君津 2表 +1 ○ 三振 捕邪 左飛 遠藤賢 NTT北海道 [25] 96/10/13 西京極 U 京都大 4ウ 0 ● 左飛 三振 今井 近畿大 [26] 97/05/11 川崎 U 日本体育大 1ウ 0 ○ 三ゴ 二直 関 東海大 [27] 97/05/18 ひたちなH 水戸商高 1表 0 ○ 遊併 二ゴ 矢* 国学院栃木高 [28] 97/06/02 広島 N スポーツ医学専 6表 −14 ● 投ゴ 投併 西* リースキン広島 [29] 97/06/21 山形県営N 自衛隊青森 4表 +2 ● 三振 投ゴ 三ゴ 鈴木誠 山形しあわせ銀行 [30] 97/07/21 八千代 H 成田高 9ウ 0 ● 三振 三振 三振 大須賀 検見川高 [31] 97/09/21 平和台 U 第一経済大 5表 −4 ● 三ゴ 遊ゴ 遊ゴ 仲間 九州産業大 [32] 97/10/25 皇子山 H 阪南大高 1ウ −1 ● 三振 二飛 植* 近江高 [33] 97/10/25 皇子山 H 阪南大高 2ウ −1 ● 三振 左飛 二飛 植* 近江高 [34] 98/03/21 ガス大森N 鷺宮製作所 1ウ −2 ○ 三併 三振 岡田貴 明治生命 [35] 98/06/20 神宮 U 龍谷大 9表 −2 ● 三振 右飛 投ゴ 奥原 東海大 [36] 98/07/19 保土ケ谷H ひばりが丘高 2表 −2 ● 牽制 三振 盗刺 呉* 相洋高 [37] 98/07/25 東京ド N 日立製作所 2表 +2 ○ 一邪 牽制 三振 岩下 三菱自動車岡崎 [38] 98/10/02 神宮 U 青山学院大 9表 −2 ● 中飛 右飛 捕飛 中須賀 亜細亜大 [39] 98/11/14 神宮 U 東亜大 1表 0 ○ 三振 二併 豊田 愛知学院大 [40] 00/07/16 市川 H 津田沼高 8ウ −3 ● 投ゴ 投併 玉* 国分高 [41] 01/04/22 等々力 U 日本体育大 6ウ +2 ○ 三併 三振 小沢 城西大 [42] 01/08/01 東京ド U 京都大 8表 +4 ○ 遊ゴ 一邪 三ゴ 松岡 大阪大 [43] 01/11/18 神宮 U 愛知学院大 4表 +2 ○ 一直 一ゴ 三振 小沢 城西大 [44] 02/06/09 横浜 N 京浜野球倶楽部 5表 −7 ● 投直 一ゴ 二ゴ 樋口 横浜球友クラブ [45] 02/07/17 富士北麓H 甲府工高 2表 +2 ○ 左飛 中飛 佐*/藤* 日大明誠高 [46] 02/08/30 東京ド N 富士重工業 1表 0 ● 三振 遊併 矢田 NTT西日本(デュプロから補強)
▲[23]の「走塁死」はキャッチャーが投球を弾き、ホームを突いた三塁走者がタッチアウトになったケース、[25]と[45]の「左飛」と「中飛」は外野フライでタッチアップした三塁走者が本塁タッチアウトのケース、[32]の「二飛」はスクイズが小飛球になり三塁走者が戻れなかったケースです。
なんとまあ、皮肉な?ことに、日石三菱(02年7月から新日本石油)で背番号18を背負っている塩崎も入っているではないか。
[32]と[33]が重複しているので、無死満塁で得点できなかったのは45チームになる。勝敗は20勝25敗だ。ビハインドを背負っていたチームが無死満塁を逃したケースは15例あり、2勝13敗だ。この2勝は[16]と[35]であり、ともに1回裏の攻撃であった。
よく「ノーアウト満塁は点にならない」と言われる。何との比較でノーアウト満塁が点にならないのか、私にはよくわからない。まさか「無死満塁は一死満塁より点にならない」という人はいないだろう(いたりして…)。「思ったほど点にならない」ということであれば、きわめて主観的なものであり、比較集計にはなじまない。
私が見た試合では、無死満塁は314例ある。その平均得点は2.59点であり、得点の分布は次のようになっている。
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正規分布にならないのは、守備側が1点を惜しんだ結果、大量失点につながるケースがあるからだと思われる。基本的には、無死満塁は二塁ランナーをめぐる攻防だと考えてもよさそうだ。大須賀のケースのように何がなんでも無失点で切り抜けなければならないという状況でないなら、やはり前進守備より中間守備が妥当だろう。
◆314分の46は14.6%です。宇佐美徹也『プロ野球記録・奇録・きろく』(文春文庫)には、1985年の両リーグ780試合分のデータが示されています(246ページ)が、無死満塁139回のうち無得点は20回だったそうですので、14.4%になります。サンプルの異なる集計で、ほぼ同一の数値が得られているわけです。
◆本文中でもお断りしましたが、私が集計した「無死満塁」はイニングの先頭打者から3人続けて塁に出た場合のみです。本塁打−単打−四球−死球のケースは含みません。宇佐美氏の示すデータについては、その旨の記述はありません。念のため。
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