◆アマチュアの(立派な?)公式戦で、指名打者に関して、明らかにルールに抵触する交代通告がなされることは、ちっとも珍しくありません。
指名打者制は、ほとんどの国際試合と、パリーグ、社会人野球、それに多くの大学リーグで導入されている(一部の少年野球もOKだ)が、TV中継の多いセリーグや人気の高い高校野球、競技人口の多い軟式野球では採用されていないため、誤解がはびこっている。まあ、ファンの間でいくら誤解があろうと、そんなことはどうでもいい。実害はないからだ。
▲「軟式野球では採用されていない」とは全軟連がDH制を導入していないという意味であって、いわゆる草野球ではDH制の大会や私設リーグがあります。
しかしながら、次のような事態まで起きているなら、もはや看過できない。
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/aomori/archive/news/2006/08/27/20060827ddlk02050084000c.html第2試合の三菱八戸−金木BLIZZARDは、大会本部の不手際でノーゲームとなった。試合中に「金木にルール違反があった」として没収試合となったが、その後にルール違反はなかったことが判明。28日午前10時から同球場で再試合が行われる。
<略>
○…第2試合は大会本部の判断ミスでノーゲームとなった。六回裏、9−4でリードしていた金木BLIZZARDが守備位置を変更し、指名打者を中堅の守備に入れた。これに対し、公式記録担当の県野球連盟幹部が「指名打者は投手以外の守備に入れない」と主張し、没収試合で三菱製紙八戸クラブの勝ちと裁定。しかし、試合没収後に、この交代は野球協約違反ではないことが判明し、大会委員長の照井雄一・同連盟理事長が「こちらのミス」と認めて再試合が決まった。
再試合は28日の予定だが、両チームともクラブチームだけに、平日で選手が集まらない可能性もある。金木の伊藤龍児監督兼選手は「勝っていた試合を止められたのは納得できない」と不満顔。三菱八戸の町井健一郎監督も「再試合は(平日のため)ベストメンバーとは程遠くなる」と歯切れが悪かった。
▲記事には「野球協約違反ではない」とありますが、一般に「野球協約」とはNPBの内部規定(正式名称は「日本プロフェッショナル野球協約)を指し、社会人野球には何の関係もありません。「野球規則違反ではない」が正しい記述でしょう(たぶん)。まあ、青森県野球連盟には「野球協約」なるものが存在するのかもしれませんけど…。
かりに、指名打者ルールに違反する交代があったとしても、それを理由に「没収試合」とする規定は社会人野球にはないはずだ(青森のローカルルールとしてあるのかもしれない…)。アマチュア野球の場合、登録外選手の出場は「没収試合」になる旨の規定を設けている団体が多い。だが、登録選手がルールに抵触する交代をした由で「没収試合」とする規定はないはずだ。
たとえば、救援投手は最低1人の打者に投げ切るか、牽制死や盗塁死などでその回が終了しない限り、交代することができない。3・05(b)にその旨の規定がある。この違反を審判が見過ごして、交代を認めてしまったとしても、「没収試合」にはならない。
◆『公認野球規則』上に定められた没収試合の規定は「ソフトボールのルール」のページに掲げてあります。ただし、ダブルヘッダー第2試合に関する(g)項を省略していますので、ご注意ください。
この連盟幹部氏は、公式記録を担当していたらしい。そうであるならば、連盟幹部=大会役員として「没収試合」の裁定を下す前に、まず公式記録員としての責務を果たすべきだろう。
07年版 『公認野球規則』10・01(b)(2)【注】 本項(5)に規定されるように、助言をしてはならないときを除いて、ボールカウントが2−3のときに球審が四球と思って打者に一塁を許した場合とか、代わることが許されていない投手に代わって他のプレーヤーが出場しようとした場合などには、記録員は審判に助言を与える。
▲「本項(5)」とは、打順の誤りがあった場合です。「打順間違いミスい事件」のページに引用済みです。
この「事件」には、もう1つ重大な問題が潜んでいることを指摘せざるを得ない。なぜ、審判はルールブックを確認することなく、連盟幹部氏の言うままに「没収試合」の裁定に従ったのか、ということだ。
07年版 『公認野球規則』審判員に対する一般指示 【原注】
<略>
提訴試合にもなりかねないほどの悪い事態が起こった場合、その事態の解決を回避したという非難を受けるようなことがあってはならない。常に規則書を携行し、紛糾した問題を解決するにあたっては、たとえ10分間試合を停止することがあっても、よく規則書を調べ、その解決に万全を期して、その試合を提訴試合あるいは再試合にしないように努めなければならない。
<略>
▲06年版までの「つねに」が07年版では「常に」に変わっています。
ルールを知らないのはまだ許せるけれども(審判としてどうかという問題はあるが、指名打者ルールに詳しい審判はそういないのが実状だ)、知らないことは調べればよい。それだけの話だ。知らなかったことではなく、調べなかったことが罪なのだ。これはきわめて重い罪であると言わざるを得ない。
没収試合の実質的な決定権は球審ではなく大会本部にあるはずだ。だが、没収試合である旨の宣告をおこなうのは球審以外にいない。宣告すれば後戻りはできない。もし球審と連盟幹部氏との力関係で絶対服従するしかなかったのだとすれば、風通しの悪い組織の問題ということになるだろう。
ある大学リーグ(の下部リーグ)で、「指名打者がピッチャー、ピッチャーがライト、ライトが指名打者」という交代を告げられた球審が、試合を中断して駐車場までルールブックをとりに行ったことがあったそうだ。この球審氏は「常に規則書を携行」していたとは言い難いが、これが審判としてのあるべき態度というものだ。
再試合はたしかに運営サイドの不手際だが、誤った思い込みによって没収試合という重大な裁定を下した連盟幹部氏や調べなかった審判だけが責められることではない。調べるように要求しなかった当該チームの監督にも責任の一端はあるからだ。「ほら、ここにこう書いてありますよね」と示すだけでよかったはずだ。
指名打者ルールの全文は次のとおりだ。
07年版 『公認野球規則』6・10 リーグは、指名打者ルールを使用することができる。
(a) 指名打者ルールを使用しているリーグに所属するチームと、これを使用していないリーグに所属するチームとが試合を行なうときには、これを使用するかどうかは次の定めによる。
(1) ワールドシリーズまたは、非公式試合では、ホームチームがこれを使用しているときには、使用する。ホームチームが使用していないときには、使用しない。
(2) オールスターゲームでは、両チームと両リーグが同意したときだけ、使用する。
【注1】 我が国のプロ野球では、本項(1)におけるワールドシリーズを日本シリーズと置きかえて適用する。なお、非公式試合において、本項(1)により指名打者ルールを使用しない試合でも、両チーム監督の合意があれば、指名打者ルールを使用することができる。
【注2】 アマチュア野球では、指名打者ルールについては、各連盟の規定を適用する。
(b) 指名打者ルールは次のとおりである。
先発投手または救援投手が打つ番のときに他の人が代わって打っても、その投球を継続できることを条件に、これらの投手に代わって打つ打者を指名することが許される。
投手に代わって打つ指名打者は、試合開始前に選ばれ、球審に手渡す打順表に記載されなければならない。
試合開始前に交換された打順表に記載された指名打者は、相手チームの先発投手に対して、少なくとも1度は、打撃を完了しなければ交代できない。ただし、その先発投手が交代したときは、その必要はない。
チームは必ずしも投手に代わる指名打者を指名しなくてもよいが、試合前に指名しなかったときは、その試合で指名打者を使うことはできない。
指名打者に代えてピンチヒッターを使ってもよい。指名打者に代わった打者は、以後指名打者となる。退いた指名打者は、再び試合に出場できない。
指名打者が守備についてもよいが、自分の番のところで打撃を続けなければならない。したがって、投手は退いた守備者の打撃順を受け継ぐことになる。ただし、2人以上の交代が行なわれたときは、監督が、打撃順を指名しなければならない。
指名打者に代わって代走者が出場することができるが、その走者が以後指名打者の役割を受け継ぐ。指名打者がピンチランナーになることはできない。
指名打者は、打順表の中でその番が固定されており、多様な交代によって指名打者の打撃の順番を変えることは許されない。
投手が1度他の守備位置についた場合、それ以後指名打者の役割は消滅する。
ピンチヒッターが試合に出場してそのまま投手となった場合、それ以後指名打者の役割は消滅する。
投手が指名打者に代わって打撃した場合、それ以後指名打者の役割は消滅する。(試合に出場している投手は、指名打者に代わってだけ打撃ができる)
指名打者が守備位置についた場合、それ以後指名打者の役割は消滅する。
指名打者に代わって出場させようとするプレーヤーは、指名打者の番がくるまで届け出る必要はない。
▲06年版までは「右(1)」でしたが、07年版では「本項(1)」に変わっています。また、「次の通り」が「次のとおり」に、「従って」は「したがって」に改められています。
もう少し文章を整理できるのに…、と思わなくもない。
野球のルールにおける指名打者は「投手」の代わりでなければならない。どのポジションでもいいソフトの「指名選手」とは異なる。マンガやお笑いタレントの野球では、野手に対して指名打者が使われているかもしれないけれど、それは正式なルールではない。(b)項冒頭部分を再録しよう。
07年版 『公認野球規則』先発投手または救援投手が打つ番のときに他の人が代わって打っても、その投球を継続できることを条件に、これらの投手に代わって打つ打者を指名することが許される。
ある大学リーグの下部リーグ公式戦で、スタメンの時点でライトにDHが使われていて、何事もなかったかのように試合が終わったというケースがあったそうだ。もっとも、後日、当該審判は連盟から注意を受けたようだが…。
アマチュア野球の場合、投手以外にも指名打者を使えるようなルールにしたほうがよいと私は考えている。レベルが上がるに連れて「投手で4番」は少なくなるとしても、選手層の薄い大学野球の下部リーグや社会人野球のクラブチームには「打てる投手」がいるし、現実に彼らは、先発登板しないときは野手として出場している。
高校野球や軟式野球でも、投手に限定しない指名打者制の採用を検討してほしいものだ。たとえ守備だけといえども、試合に出られる選手が1人増えるからだ。アマがDH制を採用するのは、1人だけとはいえ、より多くの選手に出場機会を与える制度だからだろう。そのように考えるなら、悪い制度ではない。
ちなみに、ソフトのルールでは次のように定められている。
08年版 『オフィシャル・ソフトボール・ルール』4−5項 指名選手 (DP/DESIGNATED PLAYER)
1.指名選手(DP)は打撃専門のプレイヤーで、どの守備者につけてもかまわないが、試合開始前に打順表にその記号(DP)と氏名・ユニフォームナンバーを記入しなければならない。
2.DPの守備者(DEFP/DEFENSE ONLY)は守備専門のプレイヤーで、打順表の10番目に記入しなければならない。
<略>
ルールが複雑になるからできないなどとは言わせない。現にソフトボールはこれでやっている。再出場がない分だけソフトよりシンプルなものになる。
◆ソフトボールのDPルールは、03年規則改正によってDHがDPになり、DPが守備につくことや再出場することが認められるようになりました。ソフトのルールにDH制が加わったのは再出場と同じ1980年だそうです。アメリカンリーグがDH制を採用したのは1973年、パリーグは1975年ですので、ソフトは野球のルールを取り込んで独自に発展させていることになります。
指名打者には当て馬を使うことはできない(1981年までのルールではOK)。私がスコアをつけるようになって、まだ日の浅い1991年4月17日、西武球場でおこなわれたイースタンリーグのライオンズ対ホエールズ4回戦では、ホエールズの8番DHに相川英明が起用されていた。
相川は古葉監督時代の一時期、先発ローテーションの一角を担ったこともある。スタメン選手を記入しながら、私は相川が打者に転向したのだろうと思っていた。3回表の先頭打者が相川の打順だった。監督と球審が何事か話していて、なかなか試合が再開されなかった。
相川はファーストフライに倒れた。次の打席では代打が送られた。2週間ぐらい過ぎた頃、スポーツ紙を読んでいたら、相川がしっかりと投手として登板しているボックススコアが目についた。そして、私は次のようなルールがあることを知った。
07年版 『公認野球規則』試合開始前に交換された打順表に記載された指名打者は、相手チームの先発投手に対して、少なくとも1度は、打撃を完了しなければ交代できない。ただし、その先発投手が交代したときは、その必要はない。
なるほど。相川は打者転向ではなかったのだ。元来がセリーグで指名打者ルールに慣れていない新任監督が、誤ってスタメンに偵察要員として相川の名前を記入して、打順が回ってきたところで笠原球審に代打を告げたら、はねつけられてしまったわけだ。先発投手が降板しない限り、指名打者は必ず1打席を完了させなければならない。
このルールが有名になったのは、98年のニール事件だろう。5月15日のブルーウェーブ対ホークス6回戦、ニールは4番DHでスタメンに入っていた。試合開始直前に腹痛を訴えて、1回裏の打席で代打・藤本が告げられたものの球審は特例を認めず、ニールは腹痛を押して打席に入り、ホームランを打ったのちに病院に直行した。
このルールに反して、審判が交代を認めてしまったという話は、ニール事件以前には実によく聞いたものだ。何年何月何日のどこ対どこの試合で球審は○○さんと特定することもできるが、私はそこまで悪趣味ではない。
冒頭に掲げた社会人野球日本選手権青森予選の場合、試合を中止して「没収試合」という裁定がなされたわけだが、もし指名打者違反が「没収試合」になってしまうのなら、さかのぼって没収しなければならない試合は、私が知っているだけでも片手では足りない。
◆ニールは打席に立ちましたが、ブルーウェーブにはこの試合の先発投手だった木田を打席に送るという選択肢もありました。この場合、自動的に指名打者は消滅し、以後は9人でゲームを続けることになります。07年の仙台六大学ではこのルールを知らなかったばかりに試合開始13分で没収試合を受け入れるハメになったようです。
◆06年春、関東ローカルの某大学リーグ戦でも、DH違反に対して後日の理事会で「没収試合」の裁定が下されたそうですが、球審が認めてしまった交代を没収試合とするのは、二重に規則違反を犯すことになるのではないかと心配したくなります。すくなくとも、私が把握している範囲では当該連盟の規定の中に、たかがDH違反で大げさに没収試合とする旨の規定が見当たりませんから…。
昔、ファミコンの(著名な)野球ゲームで遊んでいたら、不思議な現象に気づいた。4番ファースト・ブーマーと5番DH・門田のポジションを試合途中に入れ替えて、4番DH・ブーマーで5番ファースト・門田というラインナップにできるのだ。そんなはずはない。
07年版 『公認野球規則』指名打者は、打順表の中でその番が固定されており、多様な交代によって指名打者の打撃の順番を変えることは許されない。
ありがちなケースとして考えられるのは、打撃のいい控え捕手が指名打者でスタメン起用されている場合だ。1点ビハインドの終盤、足が遅い8番の正捕手Aが出塁して代走Bが起用されたとしよう。5番指名打者Cを捕手に回して、8番捕手Aと交代した代走Bを指名打者にすることはできない。できないはずなのに、審判が認めてしまった事例が複数あるようだ。
▲まあ、こういうサイトを運営していると、いろんな話が入ってくるわけです。はい。
上の条文が言わんとするのは、スタメン指名打者Cの打順が変わらないということではなく、たとえ指名打者の役割が他の選手Dに引き継がれたとしても、指名打者の役割を担った選手(CおよびD)の打順は、5番なら5番と、その試合中は固定されて絶対に動かないということだ。
「指名打者の役割を担った選手の打順が試合中固定される」というのは、「他の野手が指名打者にポジション・チェンジすることはできない」という意味の間接的表現でもある。なぜなら、他の野手が指名打者になろうとすると、必然的に指名打者の役割を担った選手の打順が変わることになってしまうからだ。
したがって、上の条文は次のように読み替えることができる。
指名打者の役割を担った選手は、打順表の中でその打撃順が固定されており、多様な交代によって打撃順を変えることは許されず、野手が(試合途中で)指名打者になることもできない。
さて、指名打者なしでスタメンを組んだら、試合の途中で指名打者が湧いて出ることもない。
07年版 『公認野球規則』チームは必ずしも投手に代わる指名打者を指名しなくてもよいが、試合前に指名しなかったときは、その試合で指名打者を使うことはできない。
逆に、試合の途中で指名打者が消えてなくなることはよくある(後述)。指名打者が消滅したときは投手が打順内に入ってくる。
指名打者には代打や代走を出すことができる。通常は代打や代走が出れば、攻守交代後に必ず守備変更のアナウンスが入ることになる。指名打者に代打や代走が出ても、それだけなら特別なアナウンスは必要ない(すくなくともパリーグでは余分なアナウンスはしない)。
「先ほどの回に代打いたしました○○くん、そのまま指名打者に入ります」というアナウンスを聞くことも、ときどきある。まあ、わかりきっていることだから、聞き流すことができるけれど…。
スコアラーとして気になるのは、指名打者に代走が出て、その代走には次の打席で代打が送られた場合だ。この場合、1度も打席に入らなくても「RD」となる慣習のようだ。野手に対する代走は攻撃時点では「R」であり、守備についてから、たとえば「R4」となるが、指名打者に対する代走なら自動的に「RD」となる。
また、指名打者に代打が起用されて、その代打がヒットを打ち、すぐに代走が送られた場合でも、その代打は「HD」となる。指名打者以外の打者に代打が送られて、その打席だけで退けばただの「H」だ(別に深い意味はない)。
07年版 『公認野球規則』指名打者に代えてピンチヒッターを使ってもよい。指名打者に代わった打者は、以後指名打者となる。退いた指名打者は、再び試合に出場できない。
指名打者に代わって代走者が出場することができるが、その走者が以後指名打者の役割を受け継ぐ。指名打者がピンチランナーになることはできない。
野球のルールである以上、退いた指名打者が再出場できないのは当然のことだし、指名打者が代走になれないのも当たり前だ。
問題の部分だ。かりに、かの連盟幹部氏がどんなに血迷っていたとしても、審判なり監督なり当事者の誰かが、その場でこの部分を確認していれば、没収試合などというふざけた話にはならなかったはずだ。どこにも指名打者が投手以外の守備につくことはできないとは書いてない。
07年版 『公認野球規則』指名打者が守備についてもよいが、自分の番のところで打撃を続けなければならない。したがって、投手は退いた守備者の打撃順を受け継ぐことになる。
この条項なら、誤解の余地は少ない。「したがって」以下は打順の話であって、ポジションの話ではない。標準的日本人の国語能力を備えているなら、「指名打者は投手以外のポジションに入ることができない」と誤解するとは思えない。
まあ、「したがって」のセンテンスが、あまり的確な表現ではないのは事実だ。指名打者が投手となったときには、投手となった指名打者の打順は変わらないわけだから、「投手は退いた守備者の打撃順を受け継ぐ」ことができない。
つまり、「したがって」のセンテンスは、指名打者が投手以外のポジションに移った場合を想定している。むしろ、この条項だけでは、指名打者が投手にもなれると読み込むことのほうが難しい。次のような文章なら模範的だろう。
指名打者が守備についたときは、打順表に記載された自分の打順で打撃を続けなければならない。指名打者が投手以外の守備についたときは、投手は退いた守備者の打撃順を受け継がなければならない。
指名打者が守備についたケースとしては、翌日からの交流試合を控えた05年5月5日の対バファローズ戦で、ホークスの松中が6点リードの終盤に指名打者からレフトに回った事例がある。松中は、同年交流戦のビジターゲーム18試合のうち16試合でスタメン・レフトとして起用された。
95年5月9日のブルーウェーブ対ライオンズ戦では、スタメンDHのデストラーデが9点差の8回裏二死無走者で登板し、高田に三塁打を浴び、ニールと藤井に連続四球を与えて、14球投げて一死もとれずに竹下と交代している。また、04年アテネ五輪ではギリシャの指名打者が日本戦の最終回のマウンドに立っている。
ところで、『公認野球規則』の指名打者条項には指名打者が消滅するケースとして、次の4項目(だけ)が列挙されている。
07年版 『公認野球規則』投手が1度他の守備位置についた場合、それ以後指名打者の役割は消滅する。
ピンチヒッターが試合に出場してそのまま投手となった場合、それ以後指名打者の役割は消滅する。
投手が指名打者に代わって打撃した場合、それ以後指名打者の役割は消滅する。
指名打者が守備位置についた場合、それ以後指名打者の役割は消滅する。
2番目の「ピンチヒッターが…」は、「野手(代打を含む)が投手になった場合、それ以後指名打者の役割は消滅する」に改めたほうがいいのではないか思われる。と言うより、そう読み替えると理解が早い。実は、大学野球や社会人野球で、もっとも頻繁にみられる指名打者の消滅は「野手が投手となったとき」なのだ。
打撃もいいエースが野手でスタメン出場して、試合途中で救援のマウンドに上がると、元のポジションには誰かを補充しなければならなくなる。投手がそのポジションに回るなら、「投手が一度他の守備位置についた」わけだから「指名打者の役割は消滅する」。
01/10/07(市営浦和)さいたま市長杯2回戦 東京LBC(対川口球友クラブ)4回裏
4番ライト ・片野 → 4番ピッチャー・片野
8番指名打者・鈴木 → ×
先発投手 ・秋田 → 8番ライト ・秋田
このケースでは、先発の秋田がライトに回ったので、「指名打者の役割は消滅する」。だが、そう考えるより、野手が投手となったこと(つまり、2番手投手としてライトの片野を送ったこと)によっても、指名打者は消滅するのだ。この考え方ができれば、次のようなケースに対応できる。
02/09/15(松前)静岡学生リーグ秋季第3週2日目第2試合 東海大海洋学部(対日大国際関係学部)6回表
4番ショート・江川 → 4番ピッチャー・江川
7番指名打者・原田 → 7番ショート ・稲葉
先発投手 ・大野 → ×
東海は先発の大野に代えて、ショートの江川をマウンドに送った。救援投手である江川は打順内の選手だ。江川に代わってショートに入る稲葉を打順外には置けないので、指名打者が消滅して原田が大野とともに退くことになる。上の4項目のどれにも該当しないけれども、結果的に指名打者は消滅するのだ。
もっとも有名なのは、96年オールスター第2戦、9回表二死無走者の交代だろう。
96/07/21(東京ドーム)オールスターゲーム第2戦 パ(対セ)9回表
1番ライト ・イチロー→ 1番ピッチャー・イチロー
5番指名打者・初芝 → 5番セカンド ・水口
6番セカンド・小久保 → 6番ライト ・小久保
ピッチャー ・西崎 → ×
イチローがライトからピッチャーに回り、ライトにはセカンドから小久保が回った。セカンドに入る水口を打順外には置けないので、ピッチャーの西崎とともに指名打者の初芝が退くわけだ。
投手、指名打者、野手のポジション・チェンジをまとめると、次のようになる。
●投手Pが野手になる
→ 指名打者が消滅し、Pは退いた指名打者Dの打順に入る(または同時に退いた野手の打順に入る)
●投手Pが指名打者Dに代わって打撃をする
→ 指名打者は消滅し(Dは退き)、PはDの打順に入る
●指名打者Dが投手になる
→ 指名打者は消滅するが、Dの打順は変わらない
●指名打者Dが野手になる
→ 指名打者は消滅するが、Dの打順は変わらず、投手は退いた野手Fの打順に入る
●野手Fが投手になる
→ 指名打者が消滅し、新たに出場する野手が退いた指名打者Dの打順に入る(または同時に退いた別の野手の打順に入る)が、Fの打順は変わらない。
●野手が指名打者になることはできない(∵指名打者の打順は動かない)
03年、東北某県のやはり社会人野球(クラブチーム同士の対戦)で、こんなことがあったそうだ。2点ビハインドの9回裏一死一・二塁、9回表から登板した投手が指名打者でない一塁走者の代走として起用され、審判もこの代走を認めたらしい(「認めた」と言うより、単に気づかなかっただけだろうが…)。
投手が指名打者の「代走」を務められるかどうか、明示的な定めはない。投手は指名打者に代わって打撃をおこなうことはできるのだから、その類推解釈として指名打者の「代走」もOKだと考えることもできそうだ。当然のことだが、その場合には指名打者は消滅することになるだろう。
一方、3・04には「打順表に記載されているプレーヤーは、他のプレーヤーの代走をすることは許されない」と規定されていることから、打順表に記載されている打順外の投手は指名打者の「代走」にもなれないと解釈することもできるだろう。
このように、投手が指名打者の「代走」に出られるかどうかは議論の余地があるけれども、現行規則の下では、投手が指名打者でない野手の代走に出ることはできないはずだ。
指名打者制でないときは、投手は他の野手の代打にも代走にもなれない。指名打者制だから、投手は指名打者に限って「代打」になれるわけだ。指名打者制でも、投手は指名打者以外の代打になれない。
ちなみに、この試合は、9回裏で試合が終了してしまったそうだ。代走した投手が打順内に入り、指名打者が消滅したかどうかを確認する機会は永遠に失われてしまったわけだ。
日本海側の大学リーグ戦(下部リーグ)では、次のような交代が認められてしまったことがあるらしい。
5番 ファーストA → センター A 6番 センター B → レフト B 7番 レフト C → ピッチャーF 8番 指名打者 D → 指名打者 D ** ピッチャーE → ファーストE
レフトがピッチャーに入り、レフトにはセンターが、センターにはファーストが、ファーストにはピッチャーが回るという高校野球でありがちな選手交代だ。このチームは高専チームだ。ついこの前まで指名打者なしでやっていたわけだ。それまで、こういう交代を何度もやってきたのだろう。監督も学生監督に違いない。
できるような気もするが、指名打者制ではこの交代は認められない。野球のルールでは、投手が野手になると必ず指名打者が消滅する。打順外の投手が野手になれば、その投手は打順内に置かなければならない。投手が打順内に入ることで、指名打者を押し出してしまうのだ。その結果、指名打者を放棄するしかなくなる。次のような交代であれば、正当に認められる。
5番 ファーストA → 5番 センター A 6番 センター B → 6番 レフト B 7番 レフト C → 7番 ピッチャーF 8番 指名打者 D → × ** ピッチャーE → 8番 ファーストE
まあ、どうせ審判さんも知らないだろうとタカをくくって、わざとチャレンジしてみると意外に通用するかもしれない。ただし、没収試合にされても、私は責任を負えないけれど…。
では、審判が認めてしまった違法な交代によって、いったん試合が続行され、その後に誤りに気づいた場合は、どういう処置が適切だろうか? 『公認野球規則』には規定はないけれど、その時点で(両チーム了解のもとに)正規の交代をおこなうだけでよいと私は考える。もちろん、それまでの得点その他はすべて有効とする。
実は、指名打者違反を理由とした没収試合は青森だけではない。詳細はわからないが、なぜ没収試合になるのか私には理解できない。たしかに、第一義的な責任の所在は違法な交代をしたチームにある。ただし、審判が違法な交代を認めてしまった以上、試合は継続されるべきであって、没収する必要はない(ローカルルールとして規定があれば別の話)。
私はまだ明文化されたものを見たことはないが、「指名打者違反は没収試合」というローカルルールらしきものが一部で存在するものと思われる。このローカルルール?では、相手チームがその場でこのような交代は認められないと指摘すれば試合は没収されないはずだが、相手チームがワンプレイ後に指摘すれば没収試合になるようだ。
違法な交代を認めてしまった審判の責任はどこに消えたのか? 審判が認めた交代が理由で没収試合になるなら、何のために審判がいるのだろうか? そのような交代はできないと断る義務は審判にはないのだろうか? 知らなかったのなら無知であり、気づかなかったのなら怠慢でしかないはずだ。
さて、冒頭の社会人日本選手権青森県予選は、4チーム参加のリーグ戦であり、最上位1チームだけが東北予選に進むことができる。当初の予定では土日の2日間で全6試合を消化することになっていた。
■26日(土) (1勝0敗) 全弘前ク 11−7 オール青森(0勝1敗) 三菱八戸ク NG 金木 (1勝0敗)三菱八戸ク 28−3 オール青森(0勝2敗) ■27日(日) (1勝2敗)オール青森 6−5 金木 (0勝1敗) (2勝0敗)三菱八戸ク 13−11 全弘前ク (1勝1敗) (1勝1敗) 金木 5−1 全弘前ク (1勝2敗) ■28日(月) (3勝0敗)三菱八戸ク 不戦 金木 (1勝2敗)
再試合が平日の28日に組み込まれたことで、27日の第1試合を戦いながら、金木の監督はメンバー集めという「もう1つの戦い」を強いられたようだ。当日の試合に来ていない選手にも連絡をとり、翌日の試合には7人しか集まらないことが確定したのが4回途中だったという。
再試合の不戦敗が決まったことで士気が低下したのか、金木BLIZZARDは直後の5回に逆転され、その試合を落としている。
| 06/08/27(弘前) 社会人日本選手権青森予選 2日目第1試合 | ||
| オール青森クラブ | 000 130 200 =6 | 成田 |
| 金木BLIZZARD | 003 001 001 =5 | 島田−山形−小山 |
記事だけでは「事件」の詳細がわからないが、問題の交代が規則違反でないことが判明したのが、もし第3試合の途中だとすれば、第2試合は没収時点でサスペンデッドとして、第3試合終了後に継続試合をおこなうという処置もあり得たのではないかと思われる。そのほうが再試合より後味は悪くない。
まあ、そうしなかったのは、気づいたのが金木の選手が帰ったあとだったからなのかもしれない。この「事件」はそのお粗末さにおいて、おそらく「空前」ではないだろう。だが、「絶後」にしなければならない。
◆九州硬式少年野球連盟(フレッシュリーグ)の「大会本部規定」によると、同連盟では指名打者制を採用しているようです。リンクしようかと思いましたが、PDFファイルですのでやめました。関心のある方はご自分で検索してください。
◆事実誤認、変換ミス、リンク切れ等にお気づきの際は、「3代目んだ」(指名打者ルール)または「メールのページ」からご一報いただけると幸いです。また、指名打者に関してこんな事例があったというタレコミも歓迎します(情報提供者のみなさん、ありがとうございました)。なお、大学選手権では1992年、日米大学選手権では1986年、社会人野球では1989年に指名打者制が採用されています→「3代目んだ」(大学選手権のDH制)。
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