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できないはずの振り逃げ

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13/12/15更新

◆「あまり野球に詳しくない方へ」のページに収めていた「振り逃げ」の項目(02/09/27追加)に、「こんなとき、どう記録しますか(2)」のページに収めていた「失策2」の項目(02/10/01追加)を加えてリライトしました。振り逃げのルールに不安のない方は、前半を飛ばして「悩ましいケース」からお読みください。なお、「悩ましいケース」には記録のことも含まれています。


振り逃げができるとき

無死または一死で走者が一塁にいるときは、球審の第3ストライクの宣告によって打者は三振アウトになる。『公認野球規則』の規定は次のとおりだ。

08年版 『公認野球規則』

6・05 打者は、次の場合、アウトとなる。
 (c) 無死または一死で一塁に走者があるとき、第3ストライクが宣告された場合。
 【注】 無死または一死で一塁(一・二塁、一・三塁、一・二・三塁のときも同様)に走者がいた場合には、第3ストライクと宣告された投球を捕手が後逸したり、またはその投球が球審か捕手のマスクなどに入り込んだ場合でも、本項が適用されて打者はアウトになる。

したがって、このようなケースでは「振り逃げ」はできない。「振り逃げ」の可否を状況別にまとめると次のようになる。

振り逃げの可否
無死 1死 2死
走者なし できる できる できる
1塁 できない できない できる
1・2塁 できない できない できる
1・3塁 できない できない できる
満塁 できない できない できる
2塁 できる できる できる
3塁 できる できる できる
2・3塁 できる できる できる

▲特殊な例外がありますので、ご注意ください。打者が空振りして(バントを含む)投球に触れた場合は、走者の有無にかかわらず投球に触れた時点で打者アウトとなります。ボールデッドですので、走者の進塁も認められません。→「4人目のあと1人…」

「振り逃げ」の要件はもう1つある。捕手が第3ストライクの投球を正規に捕球できなかったときだ。後ろにそらしたり前にこぼしたりした場合が「正規の捕球」ではないのはもちろんのこと、ワンバウンド投球の場合も「正規の捕球」とは認められない。6・05(b)にその旨の規定がある。

打者が打撃を完了したのにアウトにならないなら、打者は走者になるしかない。

08年版 『公認野球規則』

6・09 次の場合、打者は走者となる。 
 (b) (1)走者が一塁にいないとき、(2)走者が一塁にいても二死のとき、
 捕手が第3ストライクと宣告された投球を捕えなかった場合。 
 【原注】 第3ストライクと宣告されただけで、まだアウトになっていない打者が、気がつかずに、一塁に向かおうとしなかった場合、その打者は“ホームプレートを囲む土の部分”を出たらただちにアウトが宣告される。

▲「気がつかずに」以降は07年改正事項です。この規定により、ダートサークルが必要になったわけです。

第3ストライクに当たるワンバウンド投球を打者が空振りしたとき、捕手が打者にタッチしている光景をよく見かけるはずだ。打者は走者になったのだから、ゴロを打ったのと同じだ。守備側は打者にタッチするか、打者が一塁に達する前に一塁に送球しなければ、打者をアウトにすることができない。

空振りでなくても

なお、「振り逃げ」に際しては、必ずしも打者が空振りする必要はない。プロ野球解説者のなかでさえ、振らないと「振り逃げ」はできないと思い込んでいらっしゃる方がおられるようだが、そのようなルールは(すくなくとも公的には)存在しない。

ルールが問うているのは、捕手が「第3ストライク」を正規に捕球したかどうかであって、打者のスイングの有無を問題にはしていないのだ。

二死走者なし、ボールカウント2−0のケースで、打者はハーフスイング、捕手が投球を後逸した場合、スイングが認められれば、打者は「振り逃げ」ができる。ノースイングの判定なら、ボールだからカウント2−1になるだけだ。もちろん「振り逃げ」などできない。

つまり、打者が振ったか振らないかが、「振り逃げ」できるかどうかを左右する局面もたしかにある。かの解説者氏は、このようなケースで振っていないと言われて打席に戻された幼児体験でもあるに違いない。ルールに無知であっても、選手としては大成できるわけだ。むろん、解説者もしくは指導者として適格かどうかは別の問題だろう。

ワンバウンド投球を打者が空振りして、まだアウトになっていない打者がすごすごとベンチに戻ろうとした場合、打者がダートサークルを超えると、打者はアウトとなる。進塁を放棄したとみなされるわけだ。これは07年の改正ルールだ。

二死満塁フルカウントで打者がワンバウンド投球を空振りした場合、捕手は打者を無理に追いかけなくてもよいし、打者がダートサークルを出るのを待つ必要はない。一塁に送球しても構わないが、より安全確実な方法がある。

ボールを持ったままホームベースを踏めばよい。これで三塁走者がフォースアウトになる。もし、球審さんがアウトを認めてくれなくても、「顔を洗って出直して来い」などと言ってはならない。「内野ゴロの場合と同じですよね」と穏やかに、かつ毅然と主張するだけでよいのだ。

要するに、(c)項の規定は守備側の安直な併殺を防ぐ目的があるわけだ。無死満塁でも「振り逃げ」が可能だとしたら、捕手は第3ストライクをわざと落としたうえで、これを拾って本塁を踏み(三塁走者封殺)、三塁に送球(二塁走者封殺)、一塁転送(打者アウト)という具合に、簡単にトリプルプレイが成立してしまう。こんなゲームは面白くない。

悩ましいケース

さて、ここからが本題だ。02年秋、関東某県の高校野球だった。

無死一塁でボールカウント2−1。外角に高くすっぽ抜けた4球目を打者は空振りし、キャッチャーが後逸したので一塁走者は悠々と二塁に達した。プレイを見守っていた打者がベンチに帰ろうとしたあと、突然振り返って一塁に走りだし、これにつられてキャッチャーが一塁に送球。二塁に達していた走者は、この送球を見て三塁を陥れた。

この事例は無死一塁だから、第3ストライクの宣告によって打者はアウトになっている。意図したものかどうかは定かではないけれど、アウトになった打者の「欺瞞」行為により、結果的に走者が進塁したわけだ。私はいったん「盗塁」を記録し、ほどなくキャッチャーの「失策」に訂正した(二塁進塁は暴投、三塁進塁が失策)。

以前、ストライクで見逃し三振、チェンジだと勝手に思い込んだキャッチャーがマウンド方向にボールを転がして、ベンチに駆け出したケースを見たことがある。球審の判定はボールだった。これを見た一塁走者は二塁に達した。私はキャッチャーにエラーを記録した(→「地方球場のナイター」)。

直接見たわけではないが、アウトカウントを間違ってスリーアウト・チェンジだと思い込んだ野手が審判にボールを渡した場合、この間の進塁については、エラーが記録されると聞いたことがある。標記プレイに関しても、記録上はエラーが妥当のように思われる。

なお、一死二塁で第3ストライクをキャッチャーが正規に捕球できず、打者アウトの間に二塁走者が三塁に進塁した場合の記録は、『公認野球規則』に定められている。

08年版 『公認野球規則』

10・12 失策の記録は、本条規定により、攻撃側チームを利する行為をした野手に与えられる。
 (f) 走者が、捕逸、暴投またはボークによって進塁した場合には、投手または捕手には失策を記録しない。
 (1) <略>
 (2) 第3ストライクの投球を捕え損じた捕手が、ただちにボールを拾い直して一塁に送るか、または触球して打者走者をアウトにする間に、他の走者が進塁した場合には、その走者の進塁を暴投または捕逸による進塁とは記録しないで、野手選択による進塁と記録する。したがって、打者には三振を、各野手にはそのプレイに応じて刺殺、補殺を記録する。
 【原注】 暴投、捕逸については10・13参照。
 【注】 本項(2)の場合、捕手が打者走者をアウトにする代わりに、他のいずれかの走者をアウトにしたときも同様に扱う。ただし、無死または一死で、一塁に走者がいたので、打者が規則によってアウトになったとき、走者が暴投または捕逸で進塁した場合には、走者には暴投または捕逸による進塁と記録し、打者には三振を記録する。

▲10.12(f)(2)は07年版まで10.14(f)(2)(ii)でした。なお、「野手選択による進塁と記録する」の部分は07年版まで「アウトになったプレイに基づく進塁と記録する」でした。

また、一死三塁でキャッチャーが第3ストライクを正規に捕球できず、打者走者アウトの間に三塁走者が得点した場合、現行ルールでは打者に打点は与えられない。

97年まで10・04(a)(2)【注】に「無死または一死で走者が一塁にあるときを除いて、捕手が第3ストライクを捕えないで一塁に送球して打者をアウトにする間に、三塁走者が得点した場合は、打者には打点を記録する」とあったが、98年からこの【注】は削除されている。

後味の悪いプレイ

ところで、このプレイはあまり後味のいいものではなかった。すでにアウトになっている打者の関与によって、走者が余分の塁を得たからだ。キャッチャーが慌てて一塁に送球したために、二塁を回ったところで様子をうかがっていた走者は三塁に達した。

球審のコールがはっきり聞こえる位置にいたわけではないが、バッターアウトの明瞭な宣告はなかったはずだ。走者がいて混乱が予想される場合、一塁に走ろうとする打者を制するために、アウトである旨のコールが必要だったのではないかと思える。

私には三振した打者がアウトであることを自覚しているように見えた。プレイが一段落してベンチに帰ろうとしたところで、おそらくベンチからの指示を受けて一目散に走り出したはずだ。その指示に含むものがあったとは断定できないけれど、結果的にはプレイから除外されるべき選手を囮にして他の走者が1個の塁を得た。

送球しなくてもいい一塁に送球した捕手の行為(ミス)が、走者に余分の塁を与えたことは事実だ。「ルールを知らない捕手が悪い、だから救済する必要はない」――これはこれで正論なのだが、一部の少年野球ではこのような「偽装振り逃げ」で走者までアウトになることもあるらしい。

その根拠はよくわからない。『公認野球規則』には、次のような条項しかないからだ。

08年版 『公認野球規則』

7・08 次の場合、走者はアウトとなる。
 (i) 走者が正規に塁を占有した後に塁を逆走したときに、守備を混乱させる意図、あるいは試合を愚弄する意図が明らかであった場合。
 この際、審判員はただちにタイムを宣告して、その走者にアウトを宣告する。

7・09 次の場合は、打者または走者によるインターフェアとなる。
  (i) 走者三塁のとき、ベースコーチが自己のボックスを離れて、なんらかの動作で野手の送球を誘致した場合。

▲7・08(i)の「この際、」は06年版まで「このさい」でした。
▲07年規則改正により7・09(b)が削除され、従来の(j)項が(i)項に繰り上がっています。

7・08(i)は、「正規に塁を占有した」走者の逆走に関する定めであり、標記事例がこれに該当しないのは当然のことだ。まして、この場合、アウトの宣告を受けるのは「逆走した走者」であって、標記事例に類推適用するならアウトになった打者になるはずだ。重ねてアウトを宣告する意味はない。

考え方としては、7・09(i)が近いと思われる。これを類推適用すれば、標記事例で三塁に達した一塁走者をアウトにすることも可能かもしれない。まあ、コーチに関する規定を走者に適用するのは相当無理があると思われるけれど…。

もう1つの可能性として、アウトになったばかりの打者または走者が守備側のプレイを妨害したときの規定が使えるかもしれない。7・09(e)だ。だが、標記のケースでは三振した打者は右打者であり、ベンチは三塁側だった。キャッチャーが後逸した投球はバックネットの一塁寄りを転々とした。つまり、両者が交わることはなかった。打者は守備行為を妨げたわけではない。

余計なお世話?

一死二塁の時点でボールデッドとする裁定があってもいいように思えるが、インプレイ中の出来事を無理やり無効にはできない。標記のケースでは、走者は二塁に止まっていた。打者が走り出したのは、捕手がボールに追いついたあとだった。

結局、『公認野球規則』上では、いわゆる“確信犯”であろうと、単なる勘違いであろうと、三振アウトになった打者が一塁に向かっただけでは攻撃側に特別のペナルティはなく、守備側に起きた不利益を取り除くことはできない。

したがって、もし「偽装振り逃げ」によって、走者にもアウトが宣告されたとすれば、ローカルルールが適用されたのか、あるいは規則適用の誤りということになるだろう。このようなローカルルールは、その場における混乱を回避することはできるが、「プレイヤーズ・ファースト」の観点からは好ましくない。

このローカルルールを身につけた選手が「卒業」すると、ローカルルールによる保護のない世界に放り出されることになってしまうからだ。ローカルルールによって保護されている限り、捕手はどこに投げても“痛い目”に合わずに済む。それどころか、余分にアウトを稼げてしまうのだ。

本来のルールを身につけることなく「卒業」した捕手には、「卒業」後にまず間違いなく“悲劇”が待っている。三振アウトあるいはまだ3ボールなのに打者が一塁に向かったとき、これにつられて一塁に送球して、二塁走者の進塁や三塁走者の得点を許すことになるからだ。

同情だけでローカルルールを定めてはいけないと言うつもりはない。ただ、ローカルルールを定めた団体の指導者はそれがローカルルールであることを自覚すべきだろうし、そこからの「卒業」生を受け入れる団体の指導者はそういうローカルルールに染まっていることを知っておくべきだろう。

たとえば全日本野球協会という統一組織があり、この年代ではこういうルールでやるということを定めているなら、誰でも容易にルールの相違を把握することができる。残念ながら、この国の野球界は複雑怪奇であって、とくに中学生以下の場合は硬式と軟式だけでなくKボールを含めて複数の団体が入り乱れている。


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