◆このページでとりあげた「佐藤康弘」とは、1992年バルセロナ五輪で伊藤智仁(三菱自動車京都→S)、大島公一(日本生命→Bu→BW)らとともに銅メダルを獲得した右下手投げ投手です。佐藤氏は1996年から母校の創価大でコーチを務めています。福島県・須賀川桐陽高校の野球部監督は同姓同名で年齢もほぼ同じですが日体大のOBです。
◆95年に私はライブで198試合見ていますが、その中から佐藤をベストナインに選びました。5回2/3で9四球を与えた投手を私がベストナインに選んだのは、この試合の佐藤を“ノーコン”と評した人がいたからです。
95年のスポニチ大会準決勝第2試合(神宮)は延長16回だった。それまで、延長13回しか見たことのなかった私にとっては、未知のイニングに大きく踏みこんだことになる。
試合は日通が初回に先手をとった。この1点を、関口伊織(のちにベイスターズ→バファローズ)が8回まで3安打無四球の好投で守っていた。9回表一死後、プリンスは振り逃げの走者を二塁打で返して同点に追いついた。
| 95/03/15(神宮) スポニチ大会準決勝 第2試合 | ||
| プリンスホテル | 000 000 001 010 000 0 =2 | 浜田−白井−●佐藤康 |
| 日本通運 | 100 000 000 010 000 1x =3 | 関口−乙幡−○黒沢 |
右下手投げの佐藤は10回裏途中からマウンドに立った。投球回数5回3分の2で打者32人に対して9個の四球を与えた。いずれの場合もキャッチャーは立ち上がっていなかったから、記録上の「故意四球」ではない。
表面的な数字だけ見れば、9イニング換算で14個近くの四球を与えているわけだから、とんでもないノーコン投手ということになる。5回3分の2なら17アウトだ。17アウトとるのに32人も費やしているのだ。本来なら、とても殿堂どころの話ではない。
佐藤は10回裏二死三塁でリリーフ登板した。まず、四球2個で塁を埋めたあと、ピッチャーゴロでサヨナラのピンチを救った。続く11回、プリンスは本塁打で勝ち越した。佐藤はその裏、単打3本で同点にされたものの、二死一・三塁から3番の左打者を歩かせたあと、4番の右打者を三振に仕留めた。
12回は内野ゴロゲッツーで一死一塁を切り抜けた。延長はさらに続く。13回裏二死無走者で佐藤は1番の左打者にフルカウントから四球を与えた。二盗を許して、サヨナラの走者を得点圏に背負ったが、2番の右打者から三振を奪った。
14回裏は3番の左打者から始まる。フルカウントから四球だった。4番の右打者が送る。佐藤は5番の左打者を歩かせて塁を詰めてから、後続を断った。
15回、先頭打者を内野エラーで出した。9番が送って一死二塁。こうなれば1番の左打者は歩かせるしかない。2番右打者のピッチャーゴロの間に各走者は進塁した。二死二・三塁だから、3番の左打者と勝負する必要はない。満塁にしてから、4番の右打者をレフトフライに打ち取った。
そして16回、一死一塁でランナーが二盗に成功したので7番の左打者を歩かせた。8番の右打者は途中出場の控え捕手だ。3球目を左中間に運ばれて、とうとう佐藤は力尽きた。佐藤が投げた5回3分の2を子細に見ていくと、9つの四球は計算ずくだったことがわかる。
回 アウト走者 カウント 打者 結果 10回2死3塁 2−3 右 四球 2死1・3塁 0−3 左 四球 2死満塁 1−1 右 投ゴ 11回無死(なし) 2−3 左 三直 1死(なし) 1−1 左 中安 1死1塁 2−2 右 三ゴ 2死1塁 2−3 左 中安 2死1・3塁 1−0 右 右安 2死1・3塁 0−3 左 四球 2死満塁 2−2 右 三振 12回無死(なし) 2−2 左 中飛 1死(なし) 0−1 右 中安 1死1塁 1−2 左 二併 13回無死(なし) 2−1 右 三振 1死(なし) 2−2 右 三振 2死(なし) 2−3 左 四球 2死1塁 2−1 右 三振(初球二盗) 14回無死(なし) 2−3 左 四球 無死1塁 0−0 右 投ギ 1死2塁 0−3 左 四球 1死1・2塁 2−2 右 三振 2死1・2塁 0−2 左 一ゴ 15回無死(なし) 2−3 右 三失 無死1塁 0−0 右 三ギ 1死2塁 0−3 左 四球 1死1・2塁 1−3 右 投ゴ 2死2・3塁 0−3 左 四球 2死満塁 1−0 右 左飛 16回無死(なし) 1−0 左 二ゴ 1死(なし) 1−1 右 右安 1死1塁 1−3 左 四球(2球目二盗) 1死1・2塁 1−1 右 中安
佐藤は延長回の裏の攻撃で投げていた。11回の第一走者を除けば、走者は常にサヨナラのランナーだった。佐藤が与えた9個の四球のうち7個は、塁上に走者がいたケースであり、その打者を歩かせても勝敗には影響なかった(「走者」の項目を青字で示した)。
走者なしで与えた2つの四球は、左打者との無理な勝負を避けた結果だ。9個の四球のうち8個は左打者に与えたものだ(「打者」の項目を青字で示した)。
カウント0−3からの四球が5個ある。最後に与えた16回裏の四球は、2球目のストライクのときに一塁走者が二盗に成功して一塁が空いたという事情がある。この6四球は実質的な「敬遠」だろう(「カウント」の項目を青字で示した)。
佐藤はもともと制球力には定評のあるピッチャーだ。私は無四球完投を2度見たことがある。この日もけっしてコントロールが悪かったわけではない。狭い球場で、しかも1点もやれない状況で、金属バットに対抗するためには、慎重で丁寧な投球こそが要求される。
ジグザグ打線を巧みに利用した佐藤が長打性のヒットを浴びたのは、最後のサヨナラ安打だけだった。「3つの塁と3つのボールは有効に使っていい」、137球を投げ終えてマウンドを降りる佐藤の背中は、そう語っているようだった。
戦略上または戦術上の敬遠は否定されるべきことだと私は思わない。1999年にデトロイト・タイガースにFA移籍した木田優夫は、メジャー時代にマーク・マグワイアと2度対戦して、2度とも四球を与えたことについて、高畑好秀『野球のメンタル・トレーニング』(池田書店)で次のように語っている(17ページ)。
投手で一番大切なことは、ずばりいくつアウトが取れるかということなので、ピンチのときは無理して勝負にいって打たれるよりも、アウトを取れる打者と勝負するという割り切り方も必要だと思います。
また、大矢明彦『大矢明彦的「捕手」論』(二見書房)に次のような記述がある(32ページ)。
敬遠をする際も捕手は気を抜いてはいけない。<略>
投手にはある程度腕を振って投げさせることが必要だ。フワッとゆるく投げる場合、気持ちの面でキレてしまうことがあるし、またゆるく投げた直後に急に全力投球することはかなり難しいものなのだ。人間、一度キレたものを取り戻すのは困難である。<略>
かつて敬遠でサヨナラ暴投をした小林繁(当時阪神。82年大洋との開幕戦で記録)がそうだったように、投手の中にはゆるい球が投げられない人もいる。
プリンスのバッテリーが「敬遠」を企図していると思われる場面でもキャッチャーが立ち上がらないことについて、一緒に見ていたS氏やT氏との間で話題になったが、小林の開幕戦サヨナラ暴投に話が及んだのは言うまでもない。
| 年月日 | 球場 | 大会 | 対戦相手 | 勝敗 | 投球回 | 打者 | 安 | 振 | 四 | 死 | 失 | 責 | |
| 92/03/09 | 西武 | スポニチ大会1回戦 | 松下電器 | 先発− | 4 | 19 | 3 | 1 | 2 | 1 | 2 | 2 | |
| 92/06/28 | 神宮 | 都市対抗東京2次予選 第2代表決定戦 |
NTT東京 | 完投○ | 9 | 32 | 5 | 5 | 0 | 0 | 1 | 1 | |
| 93/03/14 | 神宮 | スポニチ大会準々決勝 | たくぎん | 完封○ | 9 | 30 | 3 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
| 94/03/16 | 神宮 | スポニチ大会決勝 | 日本石油 | 完了− | 4 | 19 | 5 | 0 | 1 | 1 | 3 | 3 | |
| 94/06/22 | 神宮 | 都市対抗東京2次予選 敗者復活2回戦 |
NTT東京 | 完了− | 5 | 21 | 4 | 3 | 2 | 0 | 0 | 0 | |
| 95/03/15 | 神宮 | スポニチ大会準決勝 | 日本通運 | 完了● | 5 | 2/3 | 32 | 6 | 5 | 9 | 0 | 2 | 2 |
| 95/05/20 | 日生 | 大阪大会2回戦 | 三菱自動車京都 | 完了− | 1 | 1/3 | 4 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 95/06/21 | 神宮 | 都市対抗東京2次予選 敗者復活2回戦 |
東芝府中 | 中継● | 4 | 0/3 | 20 | 6 | 3 | 1 | 0 | 4 | 3 |
◆敬遠については、いずれ必ず独立ページで扱いたいと思っているテーマです。なにしろ、私は敬遠直後に三塁走者がホームスチールを敢行したケース(→「飯田」のページの[09]の事例)や、敬遠の途中で三塁走者が牽制アウトになったケースや、敬遠の際にキャッチャーの足がボックスから出ていたためにボークをとられたケース(→「西*」)を見ていますので…。
◆プリンスホテル野球部は、00年の日本選手権を最後に廃部になりました。→「プリンスの軌跡」(選手編)、(勝敗編)
◆事実誤認、数値の誤り、変換ミス、リンク切れ等にお気づきの際は、お手数ですが「3代目んだ」(ありがちな名前)または「メールのページ」からご一報いただけると幸いです。
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