どっちもどっちで終わらない混乱、偽証罪はどうなる?

一方を聞いて沙汰するな

「多聞闕疑」(たぶんけつぎ)という四字熟語があります。「闕」は同音の「欠」に置き換えてよさそうです。全10巻20篇からなる「論語」の第1巻第2篇「為政第二」第18章が大元です。

子曰、多聞闕疑、愼言其餘、則寡尤。
【読み下し】子曰く、多くを聞きて疑わしきを闕(か)き、慎んで其の余りを言へば即ち尤(とが)め寡(すくな)し

「多くを聞き、疑わしいことを取り除いて、残ったことを慎重に述べれば、あやまちが少なくなる」という意味だとされています。岸田前首相が2021年総裁選で掲げた「聞く力」もこの系統です(前段だけ)。

この孔子の教えは「片口聞いて公事を分くるな」という諺に受け継がれます。この場合の「公事(くじ)」とは、狭く訴訟沙汰の意味合いで捉えたほうが話がわかりやすくなります。篤姫流に言えば「一方を聞いて沙汰するな」です。

とくに意表を突くような話ではなく、いたって常識的な内容ですから、あまり有名でないのも仕方がありません。篤姫は指導的立場に立ったときの心構えとして母親に諭されたもののようです。

ほとんどの大規模小売店舗には「お客様の声」的なボックスが設置されています。ただ単に「店員の態度が悪い」と一言だけの投書なら、せいぜい朝礼で触れられるのが関の山です。店舗側としても対処のしようがありません。

これが「○○の名札をつけていた店員」でそのやりとりも具体的なものなら、店舗はその従業員を聴取することになります。元西播磨県民局長が3月12日付の告発文書を匿名送付したのは次の10か所です。

●兵庫県警捜査2課
●産経新聞、●NHK、●神戸新聞、●朝日新聞の各神戸支局
●竹内英明・県会議員(姫路市、当選5回、ひょうご県民連合=立憲系)
●山口晋平・県会議員(たつの市&揖保郡、当選4回、自民)
●黒川治県・会議員(尼崎市、当選6回、自民)
●原哲明・県会議員(淡路市、当選5回、自民)
末松信介・参議院議員(安倍派、自民党兵庫県連会長)

県警は8月20日の県議会警察常任委員会で当初の告発文書について、文書が送られてきたことを認めて「公益通報としての受理には至っていない」との認識を示しています。また、末松氏は片山副知事の辞職会見2日後の7/14に斎藤知事の辞職を促す発言をしています。

どっちもどっち

この一連の騒動は、各登場人物がさまざまな場面でいろいろな判断ミスを犯した結果、今のカオスな状況が作り出されました。ある人物(たとえば斎藤氏)が、すべての局面で常に「正義」だったというような単純な話ではありません。

元局長に関しては、まず公用PCを私的に使っていたことがアウトです。次に、五百旗頭真氏の病死を告発文書の最初の項目に掲げたことも大きなミスです(おそらく4/4の内部通報ではこの項目は削除されたはずです)。

知事が会見で「公務員失格」と断罪した3/27に元局長は局長職の解任と退職停止の処分を受け、4/4に正式なルートで内部通報します。停職3か月の処分が下されるのは5/7です。この間、4/15に読売がコーヒーメーカーは産業労働部長が受け取っていたと報じて流れが変わりつつありました。

4/20にはパレード担当課長が亡くなっていますが、県知事サイドは当初その事実を認めませんでした。初期対応に関して一貫して強硬姿勢だったことが知事側の最初のミスです。告発された側の調査で告発者を処分する構図のおぞましさに気づかなかったのでした。

とりわけ百条委員会の設置を許してしまったのは致命的です。県議会が百条委員会設置を可決したのは6/13で、維新と公明は反対しています。これで関係当事者が一気に増えてしまったのでした。

7/7の都知事選の夜、元局長の家族は捜査当局に行方不明届を出しています。翌8日の悲報で知事側は追い込まれます。

7/10 県職員組合が知事辞職を申し入れる文書を片山副知事に提出
7/12 片山副知事が涙の辞職会見
7/14 末松氏が「知事には大きな、正しい決断をしていただきたい」と会見
7/18 「ひょうご県友会」と「県職員退職者会」が事実上の辞職勧告

偽証罪の可能性?

片山氏の辞職で調整役を失い、知事と議会の対立が一段と先鋭化していきます。底流には、改革する知事とその抵抗勢力という構図が確かにあったはずです。また、自公と立憲系会派は維新に対する警戒感を共有していました。

岸田前首相が総裁選不出馬を表明したのは8月14日です。秋の解散総選挙が不可避の状況になり、国政の影に覆われることになります。党勢低迷を打開するためか、維新も次第に斎藤氏から距離を置くようになっていきます。

維新系の不祥事は際立って多いはずですが、対応が早くてダメージを最小限に抑えてきました。離党や辞職は本人が決めることです。党としての処分は究極的には除名しかありません。党員でない斎藤氏に対して維新は除名という最終手段を最初から持っていません。

議会としては、まず辞職勧告決議案を可決し第三者委員会で中間報告を出して手足を縛ってから、不信任案を提出するのが本来的な手順だと思われます。ところが、孤立した斎藤氏に対する不信任案が提出されたのは総裁選最中の9/17です。

暴走したのは斎藤氏だけではなく、県議会も同様でした。議員個人の思惑は入り乱れながら、総選挙を控えていた関係で形式的には全会一致で不信任案が可決されました。

微妙な時期ですのでどこまで書いていいのかよくないのかわかりませんが、全国的注目を集めただけに選挙期間中の斎藤氏の発言はほぼ完全マークされていて、かなり多くの動画が「証拠」として出回っています。

もし、選挙中の斎藤氏の発言に百条委員会における証言と食い違うものがあったとするなら、偽証罪に問われることになりかねません。

(A)選挙時の発言は一種のリップサービス、あくまでも議会証言が正しいと言い張る
(B)証言当時はそう思い込んでいたが、よくよく思い出してみると違っていたと証言を翻す

これを議会や世論が受け入れるかどうか、お楽しみはむしろこれからです。斎藤氏再選なら、年越し確定です。

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