枢軸国だったルーマニア
ルーマニアとその東隣のハンガリー、南隣のブルガリアの3国は、第二次世界大戦の枢軸国側でした。ルーマニアの第二次大戦における戦死者はイタリアより多く、独日に次ぐ世界3位の約42万人と言われています。
積極的に枢軸国側に与したのではありません。ソ連の圧力を受けた1940年9月にルーマニア国王・カロル2世が亡命、親独派のアントネスク政権が成立します。ドイツ軍の駐留を受け入れた新政権は、1941年6月のソ連侵攻に枢軸国側として参戦しています。
日本軍による真珠湾攻撃は同年12月8日でした。ドイツとイタリアの対米宣戦布告は11日、ルーマニアはその1日遅れの12日です。
イタリアが降伏したのは1943年5月です。1944年8月、カロル2世から国王を継承していたミハイ1世がクーデターを起こして親ソ派のサナテスク政権を樹立して、連合国側の休戦提案を受け入れます。
ドイツとの国交は断絶、軍事同盟は解消されます。これに対してドイツ軍が首都ブカレストを空襲、名目的には独立を保ったまま国内のドイツ軍を放逐します。実質的にはソ連に併合された形で終戦を迎えています。
1941 | 枢軸国側として第二次世界大戦に参戦 |
1944 | 連合国側に回って対ドイツ宣戦布告 |
1947 | 王政を廃止してルーマニア人民共和国成立 |
1958 | 占領ソ連軍がルーマニアから撤退 |
1965 | ルーマニア社会主義共和国に改称 |
1989 | ルーマニア革命でルーマニア共和国に |
2004 | NATOに加盟 |
2007 | EUに加盟 |
1947年のパリ条約でルーマニアはソ連に3億ドルの賠償を支払うことになり、王政は廃止されてソ連の影響下でルーマニア共産党政権が成立します。第二次大戦前のモルドバはルーマニア王国の一部です。一党独裁が崩れたのは1989年末のルーマニア革命です。
ルーマニアの大統領と首相
ルーマニア大統領選挙は12月8日に決選投票が予定されていました。ルーマニアの憲法裁判所が11月24日に行われた大統領選挙の第1回投票を無効とし候補者の届け出からやり直すことを決めたのは12月6日です。
- 11/24 大統領選挙(第1回投票)で1位が親ロシア派無所属のカリン・ジョルジェスク氏、2位が親EU派野党・ルーマニア救出同盟(USR)のエレナ・ラスコニ氏
- 11/28 国防最高評議会が緊急会議、ルーマニア憲法裁判所が中央選挙管理委員会に対して大統領選の第1回投票結果の再集計を要求
- 12/1 上下両院選挙
- 12/2 憲法裁判所は中央選挙管理委員会が提出した再集計の結果を承認し投票結果は有効と判断
- 12/4 治安当局がジョルジェスク氏に関する情報がTikTokで有料広告などを通じて大々的に流れていたなどとする機密文書を公表、落選候補が選挙無効を申し立て
- 12/5 EU欧州委員会が違法なコンテンツの排除を目的としたデジタルサービス法に基づいて大統領選に関連するデータや証拠の保存をTikTokに命ずる
- 12/6 憲法裁判所が大統領選挙を無効と判断し12/8予定の決選投票は延期に
- 12/21 クラウス・ヨハニス現大統領の任期満了日(憲法の規定で新大統領就任まで任期延長)
ヨーロッパには大統領と首相が併存する国が少なくありません。ルーマニア大統領の権限はフランスやウクライナより弱いものの、イタリアやドイツより強いようです。お飾りの国家元首というわけでもなさそうです。
最近のルーマニア首相は次のとおりです。
2018年1月 | ヴィオリカ・ダンチラ | 中道左派・社会民主党(PSD) |
2019年11月 | ルドビク・オルバン | 中道右派・国民自由党(PNL) |
2020年12月 | フロリン・クツ | 中道右派・国民自由党(PNL) |
2021年11月 | ニコラエ・チウカ | 中道右派・国民自由党(PNL) |
2023年6月 | マルチェル・チョラク | 中道左派・社会民主党(PSD) |
ロシア介入・TikTok疑惑
12月1日の国会選挙では上下両院ともに第1党が社会民主党(PSD)、第2党が極右の野党・ルーマニア統一同盟(AUR)、第3党が与党・国民自由党(PNL)でした。極右勢力が3割を占めています。
元老院 | 代議員 | |
社会民主党(PSD) | 22.30% | 21.96% |
ルーマニア統一同盟(AUR)極右 | 18.30% | 18.01% |
国民自由党(PNL) | 14.28% | 13.20% |
ルーマニア救出同盟(USR) | 12.26% | 12.40% |
SOSルーマニア党(SOS)極右 | 7.76% | 7.36% |
若者の党(POT)極右 | 6.39% | 6.46% |
ハンガリー人民主同盟(UDMR) | 6.38% | 6.33% |
大統領の政党所属は認められていません。軍の統帥権は大統領に帰属します。中道右派の国民自由党(PNL)党首だったヨハニス大統領は2014年に当選、2019年に再選されています(3選禁止)。
11月の大統領選挙では、無所属のジョルジェスク氏が得票率22.94%で1位、USRの女性党首・ラスコニ氏が19.18%で2位、現職首相のチョラク氏は19.15%で3位に甘んじて決選投票に進めませんでした。
4位はAURのジョルジェ・シミオン党首で13.86%、5位がPNL党首のチウカ元首相で8.79%、6位がミルチャ・ジョアナ元外相で6.32%、7位がUDMR党首のフルノ・レメン元副首相で4.50%です。
大統領候補を出さなかったSOSとPOTの国会議員選挙での得票率は14%前後です。ジョルジェスク氏は大統領選でこれに9ポイント上乗せしていたわけですが、AURのシミオン氏は議員選挙より4ポイントほど落としています。ジョルジェスク氏に流れた不審票は5ポイント程度です。
大統領選の2週間前から約2万5000のTikTokアカウントが動き出したとされ、ロシアの介入も指摘されています。問題のTikTok動画には選挙コンテンツとしての表示がなく、ルーマニア国内法に違反していたとのことです。
TikTokについては台湾やインドなど何らかの規制を設けいている国は少なくありません。
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