日本の風速観測はいつから始まったのだろうか?

安政年間、函館の奉行所で定時観測

日本最初の公的気象観測所は明治5年(1872年)8月26日から観測を始めた開拓使函館支庁による「函館気候測量所」だとされています。「函館市史 通説編」(福士成豊の観測)に次の記述があります。「等」に風速計(風力計)が含まれるかどうか定かではありません。

観測の担当は福土成豊のほか1名か2名程度であったらしく、観測測器は準規水銀晴雨計(フォルタン型)、準規水銀寒暖計、験湿器、最高寒暖計、最低寒暖計、雨量計(口径8英インチ)であって、全部英国カセラ製

気象庁サイトから読み取れるもっとも古い風速観測は同年同月の函館です。

函館の最大風速
気象庁>観測史上1~10位の値(年間を通じての値)函館

函館ではこれに先立つ開港の年(1854年)から奉行所で気象観測が行われていたようで、「函館市史 通説編」(開港前後の観測)に次のような記述があります。

安政元(1854)年から安政5(1858)年までの間、幕府直轄の箱館奉行所で風向、風力、天気、気温、地震、雷などの気象要素の定時観測(朝夕2回)が行われていた

江戸時代末期には何らかの風速計(風力計)が日本に上陸していたようです。Wiki「風速計」のページには次の記述があることから、このロビンソン風速計が有力候補です。

1846年にアイルランドの天文学者トーマス・ロビンソン(Thomas Robinson)は、4杯式の風杯型風速計(ロビンソン風速計)を考案した。これは比較的回転が遅いため記録のための機構が簡便で済み、また風車型のように風向に合わせる必要もないため広く普及した。

最大瞬間風速の始期

全国102観測所について、日最大風速の統計期間の始期を調べてみました。ほとんどの場合、開設年月とイコールの関係です。

第2列「日最大」:日最大風速の統計期間の始期
第3列「最大瞬間」:日最大瞬間風速の統計期間の始期
第4列「最大」&第5列「起年」:日最大風速とその観測年
第6列「瞬間」&第67「起年」:日最大瞬間風速とその観測年

日最大最大瞬間最大起年瞬間起年
稚内1938/11940/727.0195544.91995
旭川1888/71942/524.6200034.12000
網走1890/51952/729.8195037.52004
根室1890/11939/1030.7191042.22006
釧路1910/11942/631.8200643.22016
帯広1892/11943/520.3193632.32002
札幌1876/91943/128.8191250.22004
寿都1884/61942/149.8195253.21954
室蘭1923/11952/137.2195455.01954
函館1872/81940/927.9192846.51999
青森1882/11937/129.0199153.91991
八戸1936/71951/132.3194343.42020
秋田1882/101937/430.7195451.41991
盛岡1923/91941/122.2195138.62004
宮古1883/31941/134.1191243.52002
石巻1887/91940/127.4195841.22002
仙台1926/101937/124.0199741.21997
酒田1937/11942/137.7196149.01961
山形1889/71941/121.4195732.61959
福島1889/51947/122.9195932.21979
小名浜1910/51940/128.8200248.12002
水戸1897/11934/128.3196144.21939
つくば1921/11950/126.4193237.01991
宇都宮1890/81937/224.2193842.71966
前橋1896/121940/129.9190040.21966
熊谷1896/121940/131.7190041.01966
秩父1926/11951/119.6195235.51966
銚子1887/11937/148.0194852.22002
勝浦1906/11941/642.5194850.52002
東京1875/61937/131.0193846.71938
大島1938/111940/139.0194857.02005
三宅島1942/11942/141.5194955.41995
八丈島1906/61937/144.2193867.81975
父島1968/81968/831.8199759.71986
南鳥島1951/41968/743.3196958.21969
横浜1896/81938/137.4193848.71938
甲府1894/81937/133.9195943.21959
長野1889/11937/125.8191631.41948
松本1898/11939/124.7195937.61998
富士山1932/71965/172.5194290.01966
静岡1940/11940/124.1195940.01966
浜松1887/11941/137.0192642.01959
高山1899/51942/720.9192136.01998
岐阜1886/11918/132.5195944.21959
名古屋1890/71937/137.0195945.71959
1889/71937/136.8195951.31959
尾鷲1938/101938/1028.1195956.11990
新潟1886/11937/140.1192945.51991
高田1922/11937/123.1195942.01998
富山1939/11939/126.0194742.72004
伏木1883/121937/129.5195040.62004
輪島1929/51929/531.3199157.31991
金沢1882/11937/632.8195044.32018
福井1897/11940/130.9195048.81991
敦賀1897/101909/1230.4195047.92018
彦根1893/101920/131.2193446.22018
舞鶴1947/41947/436.5195951.92004
京都1880/111915/428.0193442.11934
大阪1883/11934/133.3196160.01934
奈良1953/51953/525.0196147.21979
和歌山1879/71940/139.7201857.42018
潮岬1913/11941/133.6192159.51990
豊岡1918/11941/632.3196143.61961
神戸1897/11937/133.4195048.51965
洲本1919/11951/742.3196557.01965
岡山1891/11940/125.8189641.42004
鳥取1943/11943/129.2196148.61991
1883/11951/125.0189342.01991
西郷1939/61939/1226.9200455.82004
浜田1893/11937/129.6192248.91991
広島1879/11937/136.0199160.22004
1894/51937/227.0195546.81970
徳島1891/71940/137.8194167.01965
高松1941/91941/1024.4195439.51965
多度津1893/11937/132.6193436.01965
松山1890/11937/125.4194542.11945
宇和島1922/41939/132.7196472.31964
室戸岬1920/71921/169.8196584.51961
高知1886/11940/129.2197054.31970
1948/11949/632.1195445.61991
下関1883/11937/134.2194245.31991
福岡1890/11937/132.5195149.31987
佐賀1890/81941/132.7193054.31991
厳原1886/91918/1031.4202052.11987
長崎1878/71951/943.5190054.31991
雲仙岳1924/41938/160.0194263.72004
大分1887/11940/125.0194544.31999
熊本1890/21937/138.7190252.61991
牛深1949/71949/737.3196566.21999
延岡1961/61961/623.7200451.91999
宮崎1886/11937/139.2194557.91993
鹿児島1883/11940/139.3194258.51996
枕崎1923/71942/142.5195162.71945
種子島1948/51949/642.5196460.01989
屋久島1937/101937/1050.2196468.51964
名瀬1896/121937/133.7200778.91970
那覇1927/51953/849.5194973.61956
南大東1947/11947/143.5195865.41961
宮古島1937/111938/160.8196685.31966
石垣島1897/61941/653.0197771.02015
西表島1957/11972/142.0198269.92006
与那国島1956/111957/554.6201581.12015
▲風速観測の始期

最大瞬間風速の始期はおおむね1940年前後です。もっとも早いのは意外にも敦賀でした。

なお、種子島の最大瞬間風速が60.0m/sなのに、広島が60.2m/sというのはさすがに違和感がありますが、広島の風速計の高さは95.4mです。

最大風速より遅い最大瞬間風速

1941年12月1日から5日にかけての京都の最大風速(10分間の平均)と最大瞬間風速(3秒間の平均)は次のとおりです。1日から3日は「最大風速>最大瞬間風速」です。最大風速が最大瞬間風速より高くなることは本来はあり得ません。

京都の1941年12月第1半旬の風速
気象庁>京都(京都府) 1941年12月(日ごとの値)主な要素

今のアメダス観測所では1本の風向風速計が最大風速にも最大瞬間風速にも対応していますので、この現象は排除されます。異なる風速計を用いていて、最大風速用の風速計がより過敏だと、この現象は起こり得るわけです。

とくに戦前については風速計の精度に全幅の信頼を寄せることはできないのだろうと思われます。

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