風速1m/sで体感温度が1℃下がるというのは本当だろうか

実測できない体感温度

「風速1m/sで体感温度は1℃下がる」ということがよく言われます。特定の条件下では、そう言えないこともないのでしょう。たとえば昨年、東海道新幹線が3日連続計画運休した台風10号では、ヤッシーの枕崎で8月29日午前1時に最大瞬間風速(3秒間)51.5m/sを観測しました。

このときの最大風速(10分間)は24.4m/sであり、午前1時の枕崎の気温は26.2℃です。風速1m/sで1℃なら体感は1.8℃という計算になります。枕崎の去年の最低気温は0.7℃です。

実際に外に出ていたのは警察・消防関係者に限られるのでしょうが、彼らが真冬並みの寒さに震えていたとはとても思えません。少なくとも防寒着の装備は必要なかったに違いありません。

そもそも体感温度とはどうやって計るのだろうかという根源的な疑問もあります。個人差もありそうです。実測できない以上、理論値の世界であり複数のモデルがあるようです。

日本語版Wikipedia「体感温度」のページにミスナールの計算式が紹介されています。Tは華氏、Hは湿度です。この計算では低温に対して適用が難しいようです。

ミスナール指数
Wikipedia>体感温度

同ページにはリンケの式も掲載されています。リンケは人物のようですが、いつの時代の考案なのか明記されていません。vは風速です。

Wikipedia>体感温度

英語版Wiki

英語版Wikiの「Wind Chill」のページ(Google日本語翻訳)では、北米の計算式が紹介されています。Taが気温、vが高さ10mの風速だそうです。どうやら風速は高さ10mで計測するのが国際標準のようです。

カナダ環境省
英語版Wikipedia>カナダ環境省
アメリカ慣用単位
英語版Wikipedia>アメリカ慣用単位

オーストラリアでは気圧(実測ではなく相対湿度から算出)も考慮しているようです。eが水蒸気圧です。

英語版Wikipedia>オーストラリアの体感気温

で、CASIOさんの次のサイトでは、気温と湿度と風速を入力することで体感温度を自動的に計算できるように仕組まれています。

【外部リンク】
■CASIO>keisan 体感温度

計算式は次のとおりです。

このCASIOモデルに2024年8月29日午前1時の枕崎の数値(気温26.2℃、湿度100%、風速24.4m/s)を入力すると体感は19℃になります。体感とは7.2℃の気温差です。そんなものかもしれません。少なくとも24.4℃差の1.8℃よりはるかに現実味があります。

理論値だから仕方がない

CASIOモデルを利用して、気温を30℃から10℃刻み、湿度は70%固定、風速を0m/sと5m/sで計算してみました。日本の平均湿度は70%台です。秒速5mは接するほど間近に置いた扇風機を最強にした場合です。

気温湿度風速体感温度気温との差
30℃70%0m/s28.3℃-1.7℃
30℃70%5m/s24.9℃-5.1℃
20℃70%0m/s20.5℃0.5℃
20℃70%5m/s12.2℃-7.8℃
10℃70%0m/s12.7℃2.7℃
10℃70%5m/s-0.5℃-10.5℃
0℃70%0m/s4.8℃4.8℃
0℃70%5m/s-13.2℃-13.2℃
-10℃70%0m/s-3.0℃7.0℃
-10℃70%5m/s-25.9℃-15.9℃
▲湿度70%の場合

湿度70%の場合、秒速5mの風で5℃低く感じられるのは気温30℃の場合のようです。気温が低くなるほど体感との差は広がります。

次に湿度を20%で固定して同じように調べてみました。ちなみに枕崎の2024年の年最低湿度は21%でした。

気温湿度風速体感温度気温との差
30℃20%0m/s24.3℃-5.7℃
30℃20%5m/s21.4℃-8.6℃
20℃20%0m/s18.4℃-1.6℃
20℃20%5m/s11.3℃-8.7℃
10℃20%0m/s12.6℃2.6℃
10℃20%5m/s1.2℃-8.8℃
0℃20%0m/s6.7℃6.7℃
0℃20%5m/s-8.8℃-8.8℃
-10℃20%0m/s0.8℃10.8℃
-10℃20%5m/s-18.9℃-8.9℃
▲湿度20%の場合

湿度が低い場合は気温の高低による差はあまり見られません。無風の際の体感温度は標準的な気温に近くなるようです。

いずれにせよ「風速1m/sで体感温度は1℃下がる」という単純な比率が当てはまるケースはごく限られています。まして「10m/sなら10℃差だ」と敷衍できるものではありません。ただ、傾向としては間違っているとも言い切れず、そういう言い方もできなくはありません。

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