好投手が42イニングで1000球投げることはあり得ない

延長15回再試合

週刊誌連載開始30年以上、TV放送も30年近くというミステリー系のアニメ動画を視聴しました。毎年GWには映画が公開されるあのアニメです。今年は野辺山方面の…。以下、ネタバレを含みますので、「【公式】名探偵コナン「群馬と長野 県境(ボーダー)の遺体(前編)」長野県警セレクション」をご覧頂いてからお読みください。

(動画を埋め込んでいましたが、削除されたようです。後編の19分51秒でした)

第1試合延長14回1対0でサヨナラ勝ち、第2試合延長15回0対0で引き分け、再試合ののち13回1対0で辛勝、短期間で42イニング約1000球をたった1人で投げ切ったせいで

細かいことを言えば、(1)「第1試合・第2試合」は「1回戦・2回戦」と表現すべきものであって、これはサッカーでも同じです。高校野球の経験者で現役教師という設定の登場人物がこれを言い間違えるのはちょっと考えにくいことです。

それに設定は長野県です。(2)2024夏の長野県の高校野球参加校は73校です。65校以上128校以下のトーナメントでは、決勝まで進出すると6~7試合です。準々決勝敗退なら、それまで3~4試合勝っていなければなりません。

長野で2勝しただけでは準々決勝に進出することはできません。この動画のTV放映は4年前のようです。設定年代がその10年前ですから2010年頃の話です。当時の高校野球のルールはタイブレークなしの15回打ち切り(再試合制)です。

この2つをスルーするとしても、(3)「42イニング約1000球」を無失点で投げ切ることがあり得るだろうかという根本的な疑問があります。42イニングで1000球なら1イニング平均23.8球です。

1イニング平均20球以上かかる投手が、42イニングを連続無失点で封じることもないことはないのでしょう。ジャンケン50連勝ぐらいの確率でしょうが…。だとしても、そんな投手はとても「ドラフトの目玉」レベルではありません。

1イニング23球以上

1993年夏のスコアブックを開いてみました。社会人2試合、プロ4試合、高校8試合の計14試合で1イニングの球数が23球以上のケースは30例あります。

年月日攻撃チーム球数得点
1993/7/25大昭和製紙7表241
1993/7/25大昭和製紙9表230
1993/7/25NTT東海1ウ252
1993/7/25新日鉄大分4表261
1993/7/25新日鉄大分9表250
1993/7/25日本通運3ウ233
1993/7/25日本通運9ウ260
1993/8/01ドラゴンズ3表322
1993/8/07ライオンズ3表434
1993/8/07ホークス4ウ250
1993/8/08スワローズ5表383
1993/8/08スワローズ6表242
1993/8/08スワローズ7表231
1993/8/08スワローズ9表250
1993/8/08カープ1ウ241
1993/8/08カープ5ウ232
1993/8/08カープ6ウ301
1993/8/08カープ7ウ231
1993/8/09東濃実1表231
1993/8/09育英3ウ315
1993/8/09育英5ウ301
1993/8/09育英6ウ275
1993/8/09育英8ウ231
1993/8/11旭川大高7表232
1993/8/11近大付6ウ234
1993/8/11ブルーウェーブ1ウ230
1993/8/11ブルーウェーブ3ウ271
1993/8/12横浜商大高1ウ232
1993/8/12横浜商大高2ウ243
1993/8/12享栄1ウ240

さすがに23球だと点が入ることのほうが多いわけです。理論的には1イニング4球で1点入ることもあり、100球でも無失点があり得るのが野球というゲームです。バントが多用される高校野球では投球数がそんなに増えることはありません。

42イニング500球無失点なら「ドラフトの目玉」でしょうが1000球は論外です。また、9連続エラーで負けただけなら、投手としての評価は別に下がりません。それとこれとは別です。9連続エラー自体にかなり無理がありますが、わざとやればできないことでもありません。

名探偵コナン「36マスの完全犯罪」

野球肘

冒頭のセリフは探偵や犯人が発したものではなく、容疑者の1人が発言したものです(9連続エラーは犯人です)。星一徹や花形満に語らせたものとは異なり、単に元野球部で現役高校教師が誤ったことを語っただけです。500球と1000球では派手に話が合いませんけど…。

探偵から発せられたものではないとしても、探偵サイドに立つ4人はこれに一切異を唱えることなく話が終わってしまいます。受け入れたことに変わりはありません。探偵である以上、容疑者の「供述」に矛盾や誇張や誘導があるなら、それは指摘するか独白で示唆されるべきです。

ストーリーとしては、入院していた犯人が10年前からの誤解の下にかつてのチームメイトを誘って、そのうち2人を殺害、1人に罪を着せようとしたものです。犯行の動機は、犯人の独断・誤解・憶測で貫かれています。

(A)TVで試合を見ていただけで八百長を感じた
(B)八百長の理由が進学だというのも犯人の推測
(C)自殺前に犯人と自殺した本人が接触した形跡も語られず

夏が終われば部活の3年生は卒業です。おそらく犯人は就職組なのでしょう。チームメイトは進学です。会う機会があまりなくなるのは仕方のないことかもしれません。ただ、前の試合で大怪我をしたということなら、夏休み中に見舞いに行くぐらいのことはするはずです。

犯人が当事者の誰かと話していれば、この悲劇は防げたはずです。犯行の動機に説得力を持たせるには、この犯人が高3の夏に国外に行ってしまって10年ぶりに帰って来たらエースが自殺していたというレベルの設定が必要になると思われます。

トリックや暗号を解くことがミステリーとしては常道であって、金目当てでも色恋でも動機は単純なほうが楽しめるのではないかと思ったりします。動機があまりに現実離れしていると、別の分野になってしまいます。

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