市議選最下位当選の田久保氏
静岡県の伊東市長選挙は5月25日に行われています。選挙結果はちょっと意外なものでした。
田久保真紀 | 当 14,684 | 無 |
小野達也 | 落 12,902 | 無(自公推薦) |
現職の小野氏は県議から2017年に市長初当選、特別な失政も見当たらず、60代前半で3期目を目指すということなら、高齢批判も多選批判も回避できるはずです。

とくに目新しいこともありませんが、自公と連合静岡が推薦する現職なら、こんなものでしょう。注目されるのは今回の市長選の投票率が前回より5%上昇していることです。同じような構図で争われた前回の選挙結果は次のとおりです。
小野達也 | 当 16,369 | 無(自公) |
石島明美 | 落 9,021 | 無 |
投票日当時はコメ問題もあり、自公推薦というラベルがこの結果を招いたのではないかということで、衝撃的な選挙結果でした。なにしろ、田久保氏は市議を2期経験していますが、前回2023年は定数20の20番目というスレスレ当選です。
2019/9/22 | 当 1,368票 | (10)20/24 | 無所属 |
2023/9/24 | 当 727票 | (20)20/30 | 無所属 |
図書館問題
田久保氏は新図書館建設中止を掲げて当選したようです。首長選挙の「◯億円の新◯◯建設に反対」は、ただの先送りだとしても即効性はありそうです。

現在の市立図書館は1980年の開館だそうです。ということは旧耐震基準で設計されています。実際に外壁タイルが剥がれ落ちて一時休館を余儀なくされたこともあったようです。ちなみに、兵庫県庁舎は1号館が1966年、2号館が1970年、3号館が1990年です。
いわゆるハコモノの乱造は批判されるべきだとしても、必要なものを建て直さないなら、岐阜県の寺のように崩壊するのを待てということにしかなりません。で、この図書館については資材や建築費の高騰から設計が見直されて、縮小リサイズのうえ計画が進められました。
説明会やアンケートも行われており、行政手続き的にはそれほどの瑕疵が見当たりません。強引に進められたというわけではなさそうです。1000人以上の回答を得た市民アンケートで、自由記載欄に「そもそも建設に反対」としたのはわずか28人です。

反対派がアンケートをボイコットしたのかもしれませんが、投票率が上がる中で小野氏が減らした3000票は図書館問題ではなかろうと思えます。

新図書館にはカフェも併設される予定でした。田久保氏は伊東駅の1つ東京寄りの宇佐美でカフェを経営しているようです。商圏が異なることから競合施設の建設に反対というわけではなさそうです。単に42億円は無駄遣いだという主張です。
学歴詐称?
市長選を加えた3回の選挙公報だけでなく、伊東市のWebサイト「市長の部屋」にも学歴の記載はありません。

問題になっている「東洋大卒」を確認できるのは市の広報誌です。

これだけなら当選後の話ですから、公選法の虚偽事項公表罪には当たらないはずですが、次のような記事もあります。東京新聞です(5/20「伊東市長選挙、候補者はどんな人? 2人の趣味やプロフィール、政治への志を紹介します」)。
中学3年で自然豊かな伊東に転校。東京の大学を卒業後、マスコミの原稿やフィルムを運ぶバイク便ライダーに。
この記事だけなら、「大学を出た」と言ったのを記者が勝手に「卒業した」と思い込んだという言い訳も可能です。まあ、そんな記者はいないでしょうし、録音もしているはずです。
怪文書「偽造には注意を」
選挙の立候補者は各メディアから、または記者クラブ一括で「候補者経歴調査票」を要求されます。調査票の様式はさまざまですが、最終学歴欄がある場合は「卒」か「中退」かが区別されます。もちろん、書かない権利も協力しない権利もあります。
この調査票は表に出てくる性質のものではないでしょうが、メディア側はこの調査票を踏まえて報道しているはずです。政見放送とともに行われる経歴放送で東洋大学卒業としているかどうかについては、私には確認できませんでした。
ただ、市議会では単に法学部だけではなく「経営法学科」という学科名が出ていましたので、選挙前から語られていたものと思われます。そうだとすると、法的にもアウトが濃厚です。
【14:45追記】会見では調査票についても質問が及びました。どうやら調査票は「東洋大卒」のようです。当面、アウト濃厚は消しておきます。
【2025/07/09追記】市長選ですので政見放送も経歴放送もありません。
怪文書には「卒業証書の偽造には注意を」とも書かれています。議長や副議長に一瞬だけ見せて、コピーは拒否されたという卒業証書と同じものかどうかはわかりませんが、卒業証書は実在するようです。有印私文書偽造の証拠品かもしれませんけど…。
今回の選挙は2人の一騎討ちでした。小野氏の最終学歴は焼津水産高ですから、自分は大卒だと差別化したかったのかもしれません。「大学卒業」なら入れるけれども「大学中退」だから投票できないと考える有権者は100人もいなかったに違いありません。
市長は弁護士に一任しているとか、怪文書の出所の調査が先だとか、誰もが人民共和国の知事を思い出してしまうような発言を重ねています。無所属ですから危機管理のアドバイスを送る参謀も不在なのだと思われます。
詐称自体は些細な問題です。とはいえ、それを糊塗するために卒業証書の偽造に踏み込んでいるようなら、市政でも同じことが行われる可能性を排除できません。ましてその後の言動から市長として不適格とされるのも仕方のないことかと思われます。
市長の正式な会見は本日(7/2)です。市議会は週明け7日にも百条委員会設置を決める見通しです。なかなか後には引けないもののようです。
【14:45追記】野々村氏による号泣会見の再現には至りませんでした。
(1)議長や副議長に示した「卒業証書」は誰から入手したのでしょうか。弁護士が見て本物だと信じるほどに精巧な証書が、どうして除籍された学生の手元に届くのでしょう?
(2)除籍なら通知があるはずです。引っ越し先を大学に伝えずに通知を受け取っていないことはあり得ますが、それなら精巧な証書が届くのが一層不思議です。ろくに学校に通っていないのに「卒業」したと信じる根拠もわかりません。4年生でなくても学生は単位の取得には敏感なはずです。単位の管理もできない人物に市政を任せられるのかという話には発展しそうです。
(3)調査票への虚偽記入が公選法の虚偽事項公表罪に当たらないのだとしても、東洋大卒という「誤報」を報じたメディア側には、都合よく利用されたという不信感だけが残ります。その当時はそう思い込んでいたというストーリーを簡単に受け入れるメディアがあるでしょうか。ここを丁寧に説明しないと四面楚歌です。
結局、百条委員会では一度は見せた「卒業証書」の提出を求められることになりそうです。それが嫌なら…。
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