自民党三役
幹事長、総務会長、政調会長は自民党の三役と呼ばれており、主要閣僚に匹敵するポストとされています。今回、麻生派から幹事長に鈴木俊一氏が、総務会長に有馬治子氏が起用されています。こんな前例があっただろうかと思って調べてみました。
結論だけ言えば、なかったわけではありません。自民党の結党は1955年です。岸内閣時代の1958年当時の幹事長は川島正次郎氏でした。

同じ岸派の福田赳夫氏が政調会長です。

退陣後の岸氏は派閥を福田派に譲りますが、川島氏は少人数ながら自分の派閥を旗揚げします。ポスト佐藤の角福戦争時は、アンチ福田で角栄氏側に身を置いているようです。
私は1960年代生まれですので、追えるのはせいぜい1970年代以降です。次表は1970年から調べてみたものです。フルネームで3文字とし、ピリオドの後ろが派閥の頭文字です。「安倍晋」は晋太郎氏のことで、晋三氏は「安倍三」としています。
自民党総裁と三役プラス副総裁
▼第一列の「総」は総裁選(話し合いを含む)、「衆」は衆院選、「改」は内閣改造によるものです。
| 総裁 | 幹事長 | 総務会長 | 政調会長 | 副総裁 | |
| 70/10総 | 佐藤栄.佐 | 田中角.佐 | 鈴木善.前 | 水田三.村 | |
| 71/07改 | 佐藤栄.佐 | 保利茂.佐 | 中曽根.中 | 小坂善.大 | |
| 72/05総 | 田中角.田 | 橋本登.田 | 鈴木善.大 | 桜内義.中 | 椎名悦.椎 |
| 72/12衆 | 田中角.田 | 橋本登.田 | 鈴木善.大 | 倉石忠.福 | 椎名悦.椎 |
| 73/11改 | 田中角.田 | 橋本登.田 | 鈴木善.大 | 水田三.水 | 椎名悦.椎 |
| 74/11改 | 田中角.田 | 二階堂.田 | 鈴木善.大 | 山中貞.中 | 椎名悦.椎 |
| 74/12総 | 三木武.三 | 中曽根.中 | 灘尾弘.石 | 松野頼.福 | 椎名悦.椎 |
| 76/09改 | 三木武.三 | 内田常.大 | 松野頼.福 | 桜内義.中 | 椎名悦.椎 |
| 76/12総 | 福田赳.福 | 大平正.大 | 江崎真.田 | 河本敏.三 | |
| 77/11改 | 福田赳.福 | 大平正.大 | 中曽根.中 | 江崎真.田 | 船田中.船 |
| 78/11総 | 大平正.大 | 斎藤邦.大 | 倉石忠.福 | 河本敏.三 | 西村英.田 |
| 79/10衆 | 大平正.大 | 桜内義.中 | 鈴木善.大 | 安倍晋.福 | 西村英.田 |
| 80/07総 | 鈴木善.鈴 | 桜内義.中 | 二階堂.田 | 安倍晋.福 | 西村英.田 |
| 80/11総 | 鈴木善.鈴 | 二階堂.田 | 田中龍.福 | 田中六.鈴 | |
| 82/11総 | 中曽根.中 | 二階堂.田 | 細田吉.福 | 田中六.鈴 | |
| 83/12衆 | 中曽根.中 | 田中六.鈴 | 金丸信.田 | 藤尾正.福 | 二階堂.田 |
| 84/10総 | 中曽根.中 | 金丸信.田 | 宮沢喜.鈴 | 藤尾正.福 | 二階堂.田 |
| 85/12改 | 中曽根.中 | 金丸信.田 | 宮沢喜.鈴 | 藤尾正.福 | 二階堂.田 |
| 86/07衆 | 中曽根.中 | 竹下登.田 | 安倍晋.安 | 伊東正.宮 | |
| 87/10総 | 竹下登.竹 | 安倍晋.安 | 伊東正.宮 | 渡辺美.中 | |
| 88/12改 | 竹下登.竹 | 安倍晋.安 | 伊東正.宮 | 渡辺美.中 | |
| 89/06総 | 宇野宗.中 | 橋本龍.竹 | 水野清.宮 | 村田敬.安 | |
| 89/08総 | 海部俊.河 | 小沢一.竹 | 唐沢俊.中 | 三塚博.安 | |
| 90/02衆 | 海部俊.河 | 小沢一.竹 | 西岡武.宮 | 三or六.安 | |
| 90/12改 | 海部俊.河 | 小沢一.竹 | 西岡武.宮 | 加藤六.安 | |
| 91/04退 | 海部俊.河 | 小渕恵.竹 | 西岡武.宮 | 加藤六.安 | |
| 91/10総 | 宮沢喜.宮 | 綿貫民.竹 | 佐藤孝.渡 | 森喜朗.三 | 金丸信.竹 |
| 92/12改 | 宮沢喜.宮 | 梶山静.小 | 佐藤孝.渡 | 三塚博.三 | |
| 93/07衆 | 河野洋.宮 | 森喜朗.三 | 木部佳.渡 | 橋本龍.小 | |
| 94/07 | 河野洋.宮 | 森喜朗.三 | 木部佳.渡 | 加藤紘.宮 | 小渕恵.小 |
| 95/08改 | 河野洋.宮 | 三塚博.三 | 武藤嘉.渡 | 加藤紘.宮 | 小渕恵.小 |
| 95/09総 | 橋本龍.小 | 加藤紘.宮 | 塩川清.三 | 山崎拓.渡 | |
| 96/10衆 | 橋本龍.小 | 加藤紘.宮 | 森喜朗.三 | 山崎拓.渡 | |
| 97/09総 | 橋本龍.小 | 加藤紘.宮 | 森喜朗.三 | 山崎拓.渡 | |
| 98/07総 | 小渕恵.小 | 森喜朗.三 | 深谷隆.渡 | 池田行.宮 | |
| 99/09総 | 小渕恵.小 | 森喜朗.森 | 池田行.加 | 亀井静.村 | |
| 00/04総 | 森喜朗.森 | 野中広.小 | 小里貞.加 | 亀井静.村 | |
| 00/06衆 | 森喜朗.森 | 野中広.橋 | 小里貞.加 | 亀井静.村 | |
| 00/12改 | 森喜朗.森 | 古賀誠.加 | 村岡兼.橋 | 亀井静.村 | |
| 01/04総 | 小泉純.森 | 山崎拓.山 | 堀内光.堀 | 麻生太.河 | |
| 02/09改 | 小泉純.森 | 山崎拓.山 | 堀内光.堀 | 麻生太.河 | |
| 03/09総 | 小泉純.森 | 安倍三.森 | 堀内光.堀 | 額賀福.橋 | 山崎拓.山 |
| 03/11衆 | 小泉純.森 | 安倍三.森 | 堀内光.堀 | 額賀福.橋 | |
| 04/09改 | 小泉純.森 | 武部勤.山 | 久間章.橋 | 与謝野.無 | |
| 05/09衆 | 小泉純.森 | 武部勤.山 | 久間章.橋 | 中川秀.森 | |
| 05/10改 | 小泉純.森 | 武部勤.山 | 久間章.津 | 中川秀.森 | |
| 06/09総 | 安倍三.森 | 中川秀.森 | 丹羽雄.丹 | 中川昭.伊 | |
| 07/08改 | 安倍三.町 | 麻生太.麻 | 二階俊.二 | 石原伸.無 | |
| 07/09総 | 福田康.町 | 麻生太.麻 | 二階俊.二 | 谷垣貞.谷 | |
| 08/08改 | 福田康.町 | 麻生太.麻 | 笹川堯.無 | 保利耕.無 | |
| 08/09総 | 麻生太.麻 | 細田博.町 | 笹川堯.無 | 保利耕.無 | |
| 09/09総 | 谷垣禎.古 | 大島理.高 | 田野瀬.山 | 石破茂.額 | |
| 10/09 | 谷垣禎.古 | 石原伸.山 | 小池百.無 | 石破茂.額 | 大島理.高 |
| 11/09 | 谷垣禎.古 | 石原伸.山 | 塩谷立.町 | 茂木敏.額 | 大島理.高 |
| 12/09総 | 安倍三.町 | 石破茂.無 | 細田博.町 | 甘利明.山 | 高村正.高 |
| 12/12衆 | 安倍三.町 | 石破茂.無 | 野田聖.無 | 高市早.無 | 高村正.高 |
| 14/09改 | 安倍三.町 | 谷垣禎.谷 | 二階俊.二 | 稲田朋.町 | 高村正.高 |
| 14/12衆 | 安倍三.町 | 谷垣禎.谷 | 二階俊.二 | 稲田朋.町 | 高村正.高 |
| 15/09総 | 安倍三.細 | 谷垣禎.谷 | 二階俊.二 | 稲田朋.細 | 高村正.高 |
| 16/08改 | 安倍三.細 | 二階俊.二 | 細田博.細 | 茂木敏.額 | 高村正.高 |
| 17/10衆 | 安倍三.細 | 二階俊.二 | 加藤勝.竹 | 岸田文.岸 | 高村正.高 |
| 18/09総 | 安倍三.細 | 二階俊.二 | 加藤勝.竹 | 岸田文.岸 | |
| 19/09改 | 安倍三.細 | 二階俊.二 | 鈴木俊.麻 | 岸田文.岸 | |
| 20/09総 | 菅義偉.無 | 二階俊.二 | 佐藤勉.麻 | 下村博.細 | |
| 21/09総 | 岸田文.岸 | 甘利明.麻 | 福田達.細 | 高市早.無 | 麻生太.麻 |
| 21/10衆 | 岸田文.岸 | 茂木敏.竹 | 福田達.細 | 高市早.無 | 麻生太.麻 |
| 22/08改 | 岸田文.岸 | 茂木敏.茂 | 遠藤利.谷 | 萩生田.安 | 麻生太.麻 |
| 23/09改 | 岸田文.岸 | 茂木敏.茂 | 森山裕.森 | 渡海紀.無 | 麻生太.麻 |
| 24/09総 | 石破茂.無 | 森山裕.無 | 鈴木俊.麻 | 小野寺.無 | 菅義偉.無 |
| 25/10総 | 高市早.無 | 鈴木俊.麻 | 有村治.麻 | 小林鷹.無 | 麻生太.麻 |
切られる前に
自民党総裁が選出されるとまず党の役員人事が決まり、国会の首班指名を受けてから閣僚人事という段取りになります。閣僚に任期はありませんが、おおむね1年交代が慣例でした。党役員人事は閣僚人事とセットです。
第2次安倍内閣は2012年12月26日から2014年9月3日まで20か月以上続けて内閣改造に踏み切っています。2021年総裁選で岸田氏が党役員に1期1年の任期を持ち込んだことから、閣僚任期も実質1年になったものと思われます。
1970年代に注目されたのは「総幹分離」でした。総裁派閥が幹事長ポストを手放すことで党内バランスを取ろうという考え方です。1980年代以降では、小泉内閣と第1次安倍内閣で総裁派閥が幹事長を取った例外があるだけです。
幹事長どころか、橋本、小渕、森内閣では総裁派閥が三役を遠慮しているようにも見えます。今回がやはり異例中の異例だと見られるのは仕方がないでしょう。有村氏は参議院議員ですから、麻生派としてカウントしないという考え方もなくはありませんけど…。

当選した当日、公明党本部を訪れた高市氏に、斎藤代表はオンカメラで懸念を表明しています。それでも萩生田氏を幹事長代行に起用したわけですから、これを挑発に感じるムキはあろうかと思われます。高市氏は交渉事には向かないタイプです。
公明党が折り合えるのか、折り合えない場合に国民民主が分裂せずに自民党に寄って行けるのか、当面はこの2党の動向が注目です。





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