関空連絡橋タンカー衝突事故のラストミステリー

2018年台風21号による2つの事故

関空連絡橋は「超」の付く重要施設です。有事の際は当然に攻撃対象になるでしょうし、1発だけで効果的なダメージを与えることができます。この橋を落とせば関空はだだの孤立した人工島に過ぎません。関西国際空港の開港は1994年4月です。阪神・淡路大震災の前年です。

開港セレモニーは盛大に行われ、開港と同時に連絡橋の一般車両通行も可能になりましたが、橋の開通式はありませんでした。国内の海上空港は次の5つです。

空港開港地上アクセス橋の全長備考
長崎1975箕島(みしま)大橋970m一般道(鉄道なし)
関西1994関西空港連絡橋3750m自動車専用道&鉄道2社
中部2005セントレア大橋
中部国際空港連絡鉄道橋
1414m
1076m
自動車専用道
名鉄
神戸2006神戸スカイブリッジ1187m一般道&ポートライナー
北九州2006新北九州空港連絡橋2100m一般道(鉄道なし)
▲海上空港と連絡橋

関空連絡橋は上部が6車線で下部にはJRと南海が複線で敷設されている2層構造です。関空への地上アクセスはこの橋以外に代替ルートがありません。

2018年9月4日、開港24周年の日にジェット燃料運搬船・宝運丸が橋に衝突しました。折からの台風21号による強風のために橋は通行止めになっていたため、船舶が車両や鉄道と衝突事故を起こすという類例のない事態は避けられました。乗組員11名は全員救助されています。

この衝突による損傷で連絡橋の下り車線側橋桁がズレてしまい、ガス管は破断、風が収まってからも物理的に通行不能に陥りました。空港は浸水と停電でてんやわんやだというのに、その空港から脱出する唯一の地上ルートが閉ざされたのです。

被害の少なかった上り車線で対面通行できるようになったのが7日、鉄道の運転再開は18日です。完全復旧は翌年4月まで待たなければなりませんでした。

実は、西宮でも走錨した船が鳴尾橋の橋桁に激突しています。阪神高速湾岸線は無事でしたが、高速に並走する県道の全面復旧まで丸1年かかっています。

鳴尾端事故
土木学会関西支部>台風で損傷した鳴尾橋の復旧

このテープは自動的に消滅する?

どこかの護岸の消波ブロックに衝突しただけの「自損」事故なら世間的な風当たりはあまり強くなかったろうと思われます。道路インフラの復旧に半年や1年かかるなら「テロ行為」だと言われても仕方がありません。

関空連絡橋の場合、修理費用は50億円だそうです。宝運丸は総トン数2591トンでしたので、50億円あれば新規の建造が可能です。誰が負担するのかということを考慮しなければ、乗組員全員が安全に脱出したうえで、衝突前に沈没して頂いたほうが社会的損失は少ないのです。

もちろんスパイ映画ではありませんし、和歌山のカイロス・ロケットのように遠隔の爆破装置が備え付けられているはずもありません。とはいえ、同情の余地がないわけでもありません。

宝運丸のスペックは、長さが89.95m、横幅が15.80m、深さ(高さ)が7.10mとされています。事故当時の喫水は船首で2.4m、船尾が4.2m、海面から高さは5.5mだったようです。連絡橋中央部の橋桁底部と平均海面の高さは25mということです。

中央部で25mなら両端でも20mはありそうです。本来なら余裕で海面と橋桁の間をすり抜けられるはずです。それでも宝運丸が橋桁に衝突したということは、潮位プラス波高が15m程度はあったことになります。

気象庁の大阪湾検潮所は安治川河口部の天保山にあります。それまでの最高潮位は1961年第2室戸台風の293センチでしたが、2018年台風21号では観測史上1位の329センチでした。教科書そのものの「吹き寄せ効果」です。

大阪の潮位と瞬間風速
気象庁>平成30年(2018年)台風第21号

自然災害だったのか?

台風21号では、前々日の2日の段階でJR西日本が4日の計画運休を匂わせており、3日の正午前には4日10時頃からの計画運休を発表しました。このため、3日の夕方までに主な商業施設やUSJや学校などが4日の臨時休業・休校で追随しました。

2018年台風21号は25年ぶりに「非常に強い」勢力で本土に上陸した台風になりました。勢力は強かったものの規模はコンパクトで足の早い曲者台風でした。等圧線の混み具合がその特徴を示しています。

2018年9月4日の天気図
気象庁>平成30年(2018年)台風第21号

ノロノロ台風は雨が長引くことによる被害が大きくなりますが、進行速度の速い台風はその台風自身のスピードが右半円に加算されて風の被害が甚大です。

地震や竜巻や雷は不可抗力の自然災害と言えるのでしょうが、あらかじめ進路や勢力や規模や時期が想定されている台風の場合はやや微妙です。船主A社の社長は次のように述べています(日経BP>関空連絡橋に衝突「船長は最善を尽くした」

宝運丸の風速計は秒速60mまでですが、今回はそれを振り切っていました。90mくらいまでいったのでは、との証言もあります。不可抗力と言えるレベルの暴風だったのです。
<略>
宝運丸は常識を覆す暴風で流されてしまいましたが、できる限りの措置を実施し、事故を防ごうとしました。弊社としては望みませんが、賠償元と裁判に至ってしまった時には、不可抗力を強く主張していきます。

損害賠償の上限額が決まる前ですので、こういう言い方になるのでしょうが、さすがに90m/sは失笑レベルであまりにオーバーです。日本の気象観測史上90m/s台の最大瞬間風速は1回しか観測されておらず、しかも富士山頂です。

もし大阪湾で90m/sなら、たしかに「常識を覆す暴風」ですが、中心気圧950hPa・中心付近の最大風速45m/sで上陸したのですから、関空島で最大風速(10分)46.5m/s・最大瞬間風速(3秒)58.1m/sという実測値はおおむね妥当です。

その勢力で上陸するであろうことは想定されていました。そういう予報だったはずです。レベルに応じた対応が求められたはずです。最悪を想定するとの危機管理意識を持っていなかったという「自白」なのかもしれません。

3マイル以内の錨泊禁止

A社の社長は次のようにも述べています。

事故の後、「関空島の周囲3マイルに錨泊(びょうはく)してはいけない」とする海上保安庁の推奨文が出てきましたが、これについては青天のへきれきでした。そんなくだりがあったのか、と驚いたのが実感です。当日も1日前から停泊しています。それ以前にも、注意喚起されたことはありませんでした。
加えて、あの場所には海保も船を留めていました。台風21号の時は宝運丸が先に確保しましたが、台風20号の時は海保の船も3マイル内にいかりを打っていました。事故前までは、あの場所を選ぶ合理性があったのです。

パトカーが駐車禁止区域に駐車していたから自分たちも停めていいという理屈が通用するとは到底思えません。事故処理など業務上の必要があれば、駐車禁止区域にパトカーが停まっていても何の不思議もありません。

3マイル制限の徹底
▲海上保安庁>荒天時の走錨等に起因する事故の再発防止

2018年9月30日に紀伊半島に上陸した台風24号は、上陸時の中心気圧が960hPaでした。関空は進行方向左側になりますが、3マイル制限は厳格に適用されています。A社は事故を契機に国内船舶事業から撤退しましたが、その覚悟がなければここまでは言えないはずです。

2021年には大型船は関空3マイルどころか大阪湾への入港もできない法整備に発展しました。

大阪湾避難勧告
第五管区海上保安本部>大阪湾・紀伊水道における湾外等避難のルール-リーフレット

ただし、この避難&入域回避は宝運丸の規模では対象になりません。事故翌年の東日本台風のときは総トン数100トン以上が航行禁止だったはずです。

梅太郎氏は粘着性荒らしの構ってちゃん

大阪管区気象台は当日5時前に暴風波浪警報を、6時半には大雨高潮警報を発表しています。フルコンポの警報は、そこにいてはいけないという意味です。徳島県上陸が11時、走錨開始が13時、衝突が13時40分、神戸再上陸が14時ですので、高潮警報から衝突まで7時間あります。

私は宝運丸は高潮警報の段階で当初の錨泊地点を放棄して明石海峡より西に向かう判断をすべきでだったと思っています。7時間では水島まで帰れないとしても、小豆島の大部港までは行けたはずです(燃料が足りたかどうかは知りません)。

プランBを持たずにプランAのまま乗り切れるという判断が甘かっただけで、別に常識破りの暴風だったわけではありません。大阪港や神戸港では観測史上1位だった潮位にしても、伊勢湾台風の名古屋や2012年台風16号の大浦検潮所(佐賀)には及んでいません。

さて、これまでの3ページで執拗に絡んでこられたのが梅太郎氏です。「クルーズ船は台風を回避、タンカーはコース上に待機」で、大阪停泊をキャンセルして熊本に向かったクルーズ船の「避難判断は賞賛に値する」(24/01/11)と述べておられます。

私としては、事故後の海保が3マイル制限をどう扱うようになったかの話に展開したかったのですが、思いがけなく「賞賛」されてしまって肩透かしでした。海保が大阪停泊を事実上認めなかった可能性があるからです。

梅太郎氏はこのクルーズ船を「フェリー」だと勘違いされたようです。クルーズ船(旅客)とフェリー(貨客)が混ざってしまう要素が「素人」の私にはまったく理解できません。

私は本文で「乗客4300人をくまモンと県知事が出迎えた」と明記しています。国内航路で旅客定員4桁の定期フェリーは存在しません。それに、貨物トラックも一緒に運ぶフェリーが行き先を変更することは絶無ではないとしてもまずあり得ません。

大阪を熊本に変更したら、納期に間に合わなくなることがほぼ確実なトラック運転手が暴動を起こしそうです。フェリーは欠航判断しかありません。だいたい横浜-大阪間はフェリーで20時間くらいかかりそうです。その需要は貨客ともに期待できません。

梅太郎氏は「水島避難をすると乗組員の労働時間も法律を破る」(24/01/11)ことになるというトンデモ理論を展開されています。船員は労働基準法の適用除外で船員法による1日8時間・週40時間労働が原則です。実際には4時間労働・8時間休憩を繰り返す3交代制が一般的のようです。

地上勤務でもそうですが、命に関わる緊急時でも労働法規は厳格に守れなどという法体系になっているはずがありません。労基法は33条で、船員法なら64条で、緊急時の制限超過は例外的に認められています。

実は梅太郎氏と帆柱氏は同一IPです。「情報は確かなルートで入手してますので間違いなく真実です」(21/09/18)はもっとも信頼できないタイプでなければ明言できません。この頃は「水島に変更すべきだった」(21/09/07)とおっしゃっていたのです。

どうやらこの梅太郎氏、私はとっくにブロックしているのに、その後もコメント投稿を重ねているようで、今年に入ってからもその形跡が見られます。粘着性構ってちゃんなのでしょう。

ラストミステリー

事故発生が13時40分、海保のヘリが乗組員2人を救助したのは18時46分です。衝突によってガス管が破断し、現場ではガス臭が認められたことから2次被害懸念で救助作業は中止され、残りの9人が救助されたのは22時10分でした。

B社が手配したタグボートによって救出されたということですが、このタグボーㇳがどこから派遣されたのかという疑問はあります。B社は業界最大手ということですから、委託会社の数は多いはずです。

ガス漏れ
国土技術政策総合研究所>2018年台風21号被害の関西国際空港の復旧曲線について

安全確認が22時頃で救助が22時10分ということは、タグボートは近辺で待機していたものと思われます。

関空島のアメダスは第1滑走路の浸水で雨量計が水没しています。1時間ごとでは4日14時から8日22時まで欠測です(10分ごとでは13時10分から欠測)。

雨量計水没
気象庁>関空島(大阪府) 2018年9月4日(1時間ごとの値)

気温の欠測も生じていますが当日復旧です。水浸しの第1滑走路で日暮れ過ぎまで修理に出ていたとは思えませんので、水没ではなく回線トラブル的なものだと思われます。

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