大阪以外のモータープール、その分布を探る

大阪では「モータープール」と名付けられた主に月極の民間有料駐車場を見かけます。圧倒的に大阪が多いものの、数が少ないとはいえ東京にもありますし、北海道にもあります。

そこで、大阪府以外のモータープールを網羅してみようというのがこの企画です。全国的にはどういう分布になっているかが最大のテーマです。

米軍由来?

Wikipediaの「駐車場」のページには次のような記述があります(2017/10/02現在)。「モータープール」の呼称が占領米軍に起源を持つことはほぼ確実と思われます。

大阪府をはじめとする西日本および中部地方の一部では、民間駐車場のことを「モータープール」と呼ぶが、原語の「motor pool」に駐車場の意味はない。Motorpoolはアメリカ軍の車両部隊や官庁の公用車の待機所または部隊自体を指す言葉で、現在でも米軍施設や自衛隊では用いられており、日本各地に存在する。

Wikipedia>駐車場

貸駐車場としての「モータープール」が話し言葉として使われることは関西でもそれほどありません。あくまでも看板上の表記にすぎないという認識が「正解」だと思われます。むしろ、自動車メーカーやディーラーの一時保管場所や建設土木の重機置場が全国的に「モータープール」と呼ばれています。

「乗りものニュース」さんの2017年7月20日付の記事は、この呼称のナゾにかなり迫っているはずです。

「モータープール」と名の付く駐車場の古い例は、昭和20年代後半にさかのぼります。『阪急不動産の50年史』(社史編纂委員会、阪急不動産)には1953(昭和28)年、阪急梅田駅の南東に「梅田モータープール」が開業したと記されています。ちなみに2017年6月現在、この場所にあるのは商業ビル「HEP FIVE」(ヘップファイブ)です。

また、「梅田モータープール」ができた年である1953年5月20日付けの毎日新聞によると、国鉄大阪駅前に当時日本一の高さだった地上12階建ての「第一生命ビルディング」が誕生し、「地下2、3階にモータープールを備えた」との文言があります。今回の調査で確認できた、駐車場を「モータープール」と呼称するもっとも古い記録はこの2件でした。

乗りものニュース>「モータープール」=「駐車場」の謎 なぜ大阪だけなぜそう呼ぶのか?

梅田(大阪)駅前に2つのモータープール

この記事が出る前から、私は「梅田モータープール」の存在を知っていました。ここが有料駐車場で「モータープール」を名乗った最初の施設だったのかどうか確信はありませんが、「モータープール」が各地に波及したのはその立地によるものだろうと考えていました。

「HEP FIVE」は、旧・梅田コマ劇場と旧・阪急ファイブの跡地に建設された赤い観覧車の商業施設です。第一生命ビルも申し分なく好立地です。大阪の第一生命ビルはJR大阪駅の南側道路を隔てた対面にあります。(今は)東隣がヒルトンホテルです。

大阪駅(梅田駅)前
大阪駅近辺(地理院タイルを加工)

1953年、大阪の目立つ場所に「モータープール」が2つできたわけです。全国的に伝播したわけではないにせよ、大阪を起点として広まっていったと考えて差し支えないはずです。

四国や北陸や浜松など駅前にある規模の大きな立体駐車場が「モータープール」を名乗るケースが見られるのは大阪のコピーなのでしょう。この大規模立体駐車場がいわば旗艦店となって、その地域の中小駐車場も「モータープール」を名乗っているものと思われます。

小説のモータープール

なお、青空文庫を「モータープール」で検索したところ、宮地嘉六の「老残」と題する小説がヒットしました。

いつそのこと路傍のハンコ屋になつて、見ず知らずの通行人の註文をとる方がましではなからうか、それには場所をどこにしようと考へた末、もとの海軍省の西側の柵沿ひの狭い通りを選ぶことにした。一方はモータープールの金網の塀が続いてゐて、その二間幅ほどの通路を進駐軍将兵がひつきりなしに往来してゐる所なのである。二三の靴磨屋が間隔を置いて猿のやうに腰をおろしてゐた。

青空文庫>宮地嘉六の「老残」

初出は『中央公論』1952年3月号だそうです。大阪の2つのモータープールより先です。文中の「もとの海軍省」とは日比谷公園西隣の霞が関です。東京でも「モータープール」という言葉自体は使われていたわけです。

それを誰かが原義を超えて民間有料駐車場の施設名として転用したのでしょう。起源としてはそういうことのようです。どういう分布になっているのかを把握するため、次の方法を用いました。
(1)「地名 モータープール」でGoogle検索して上位100ページをチェック
(2)Yahoo!地図で検索
ストリートビューで看板等を確認できた施設だけMAPに落とし込んでいます。

その後は適当に(機会があるごとに)追加しています。特定の不動産業者がモータープールの呼称を使いたがる傾向があるようです。

地域的には、京都方面にはあまり広がらず、神戸方面は姫路の手前で止まっています。奈良と和歌山はモータープール文化圏ですが、鈴鹿山脈は越えていません。淡路島から四国の瀬戸内海沿岸には広まっていますが、高知では極端に少なくなります。

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