権藤博1961年の全登板記録(権藤、権藤、雨、権藤)

◆旧「セットポジション」の「プロ野球のページ」で2006年12月に公開したものです。分割のうえ再掲載します。

セットポジション

ルーキー

1961年、ブリヂストンタイヤから中日ドラゴンズに入ったルーキー・権藤博は69試合に登板し、429回3分の1を投げて(今でもセリーグ記録)、12完封勝利(歴代5位タイ、当時のリーグ記録)を含む35勝(歴代7位タイ)という獅子奮迅の活躍をみせました。

もう削除されていますが、2006年当時のNPBオフィシャルサイトに次のようなコラムがありました。

今では投手の腕に対する配慮は昔より進んでいて、巨人の上原浩治投手や西武の松坂大輔投手でも登板試合はシーズン30試合未満、中四日強の間をあけています。昔はそんな気遣いはしません。 1961年の中日・権藤博投手は69試合を投げました。ローテーションは「権藤→権藤→雨→権藤」でした。

日本野球機構オフィシャルサイト>球太郎の野球雑学ページ>ローテーション
http://www.npb.or.jp/qtaro/topic20060418.html 

「権藤、権藤、雨、権藤」という”ローテーション”は本当にあったのでしょうか。ただ単に語呂の良さでそう呼ばれるようになっただけしょうか。フルサイズの「権藤、権藤、雨、権藤、雨、雨、権藤、雨、権藤」に現実はどこまで迫っていたのか、1961年の登板記録を縮刷版とマイクロフィルムで調べてみました。

結論から言えば、そんな”ローテーション”はありませんでした。「権藤、権藤、雨、権藤」を、試合が予定されていない日は除外して「権藤の先発、先発、雨で中止、先発」と解釈した場合、該当事例はありません。そもそも2試合連続先発が1回(6月10日と11日)しかないのです。

7月5日から15日までの11日間でドラゴンズの試合予定は9試合でした。このうち5試合は雨で中止となり、残り4試合はすべて権藤が先発しています。「権藤、雨、権藤、雨、雨、権藤、雨、雨、権藤」でした。「権藤、権藤、雨、権藤」は誇張表現ですが、そう言われるにふさわしい状況はあったわけです。

1961年の全登板記録

▼G=読売ジャイアンツ、S=国鉄スワローズ、T=阪神タイガース、C=広島カープ、W=大洋ホエールズです。項目の漢字1文字は板、発、投、中、完の略です。赤字は第1試合完投後の第2試合救援登板または完投翌日の救援登板です。

4月(8試合6先発4完投4勝2敗)

月/日 曜スコア間隔
04/08 土2○1G          
04/09 日4○1G9 11 11  
ダブル1●3G          
04/10 月なし          
04/11 火0●1W          
04/12 水中止W          
04/13 木4○3W1 中3日2    1 
04/14 金なし          
04/15 土中止S          
04/16 日5○1S9 中2日32 22  
ダブル2○1S          
04/17 月なし          
04/18 火5○3G          
04/19 水4○0G9 中2日43 33  
04/20 木3○0G          
04/21 金なし          
04/22 土中止T          
04/23 日6●12T          
ダブル3●6T2 中3日5 14   
04/24 月なし          
04/25 火3○1W9 中1日64 54  
04/26 水1○0W          
04/27 木5○4W22/3中1日7     1
04/28 金なし          
04/29 土中止C          
04/30 日1●6C3 中2日8 26   
ダブル1●6C          
▲4月の登板

当時のセリーグは、火曜日から3連戦で金曜日が移動日、土日で3連戦(日曜日がダブルヘッダー)で月曜日が移動日、という日程が一般的だったようです。ドラゴンズの開幕投手は板東英二です。権藤はチーム2戦目に先発して完投でプロ初勝利を収めてします。

5月(11試合6先発4完投7勝2敗)

月/日 曜スコア間隔
05/01 月なし          
05/02 火1●5T          
05/03 水中止T          
05/04 木なし          
05/05 金3○0C9 中4日95 75  
05/06 土0●8C          
05/07 日2●5C          
05/08 月なし          
05/09 火3○0S9 中3日106 86  
05/10 水3●4S4 連投11 3   2
05/11 木なし          
05/12 金なし          
05/13 土1●3C5 中2日12  9   
05/14 日0●3C          
ダブル2○0C          
05/15 月なし          
05/16 火中止T          
05/17 水1○0T9 中3日137 107  
05/18 木中止T          
05/19 金なし          
05/20 土中止C          
05/21 日3○1C42/3中3日148    3
ダブル3○1C32/3同日15     4
05/22 月なし          
05/23 火2○0G          
05/24 水2○0G9 中2日169 118  
05/25 木2○1G          
05/26 金なし          
05/27 土1●5S          
05/28 日0●4S6 中3日17 412   
05/29 月なし          
05/30 火4○3T2 中1日1810    5
05/31 水5○3T51/3連投1911    6
▲5月の登板

5月9日は中3日で先発して完封していますが、翌10日にもリリーフ登板して初めての連投です。5月21日にはダブルヘッダーの両試合に登板しています。

6月(10試合6先発5完投3勝3敗)

月/日 曜スコア間隔
06/01 木5○4T2 3連投20     7
06/02 金なし          
06/03 土2○1S1 中1日21     8
06/04 日3●7S          
ダブル5○0S9 連投2212 139  
06/05 月なし          
06/06 火2○0W          
06/07 水7○6W          
06/08 木なし          
06/09 金なし          
06/10 土9●10G2 中5日23  14   
06/11 日0●1G8 連投24 51510  
ダブル3△3G41/3同日25     9
06/12 月なし          
06/13 火4●7W8 中1日26 6   10
06/14 水中止W          
06/15 木4○0W          
06/16 金なし          
06/17 土中止T          
06/18 日1●2T8 中4日27 71611  
ダブル2●7T          
06/19 月なし          
06/20 火0●1S          
06/21 水2○0S9 中2日2813 1712  
06/22 木2●3S          
06/23 金なし          
06/24 土2○1W11 中2日2914 1813  
06/25 日中止W          
ダブル中止W          
06/26 月なし          
06/27 火中止G          
06/28 水中止G          
06/29 木中止G          
06/30 金なし          
▲6月の登板

10日は中5日の登板です。8日と9日が移動日ですので、6日と7日の試合はおそらく北海道開催ではないかと思われます。10日・11日の対巨人3連戦は、先発、先発、救援で3試合とも登板しましたが、1勝もできませんでした。中日は最終的には1ゲーム差で優勝を逃します。

7月(9試合8先発6完投6勝3敗)

月/日 曜スコア間隔
07/01 土3○0W9 中6日3015 1914  
07/02 日0●6W          
07/03 月9○3W          
07/04 火中止S          
07/05 水7○0S9 中3日3116 2015  
07/06 木中止S          
07/07 金なし          
07/08 土4○2C9 中2日3217 2116  
07/09 日中止C          
ダブル中止C          
07/10 月なし          
07/11 火1●2G5 中2日33 822   
07/12 水中止G          
07/13 木中止G          
07/14 金なし          
07/15 土4●8T50/3中3日34 923   
07/16 日1○0T          
ダブル3○0T          
07/17 月なし          
07/18 火なし          
07/19 水なし          
07/20 木なし          
07/21 金なし          
07/22 土2○1C32/33518    11
07/23 日2●3C          
ダブル6○3C9 連投3619 2417  
07/24 月なし          
07/25 火3●10G          
07/26 水3●4G8 中2日37 102518  
07/27 木4●5G          
07/28 金なし          
07/29 土1●6W          
07/30 日6○3W9 中3日3820 2619  
ダブル4○2W          
07/31 月なし          
▲7月の登板

6月末に雨で中止が続いたため、7月1日の登板は中6日でした。オールスター休みが入る7月に6完投です。

8月(14試合9先発8完投8勝3敗)

月/日 曜スコア間隔
08/01 火0●4S          
08/02 水4○2S9 中2日3921 2720  
08/03 木4○1S          
08/04 金なし          
08/05 土7○3C9 中2日4022 2821  
ダブル3●9C          
08/06 日なし          
08/07 月5○0C          
08/08 火なし          
08/09 水4○0C9 中3日4123 2922  
08/10 木5●7C4 連投42 11   12
08/11 金なし          
08/12 土3○0S2 中1日43     13
08/13 日4○1S          
ダブル1○0S9 連投4424 3023  
08/14 月なし          
08/15 火6○1T          
08/16 水0●1T12 中2日45 123124  
08/17 木2△2T62/3連投46     14
08/18 金なし          
08/19 土2●4W          
08/20 日中止W          
ダブル中止W          
08/21 月なし          
08/22 火6○5G4 中4日47  32   
08/23 水0●3G          
08/24 木4○3G10 中1日4825 3325  
08/25 金なし          
08/26 土0●2T          
08/27 日3○2T9 中2日4926 3426  
ダブル1○0T21/3同日5027    15
08/28 月なし          
08/29 火2●4S3 中1日51 13   16
08/30 水6○4S10 連投5228 3527  
ダブル5●6S          
08/31 木なし          
▲8月の登板

よりによって真夏の8月に延長戦3試合を含む8完投で、ダブルヘッダーの22日は2勝しています。

9月(13試合7先発3完投4勝5敗)

月/日 曜スコア間隔
09/01 金2●8T          
09/02 土1●4T7 中2日53 1436   
09/03 日6○1T          
09/04 月なし          
09/05 火7●8W          
09/06 水5○3W9 中3日5429 3728  
ダブル10○3W          
09/07 木なし          
09/08 金なし          
09/09 土2●6S          
09/10 日3○1S9 中3日5530 3829  
09/11 月なし          
09/12 火3○1G4 中1日5631    17
09/13 水中止G          
09/14 木中止G          
09/15 金なし          
09/16 土中止W          
09/17 日0●2W8 中4日57 153930  
ダブル3●4W31/3同日58 16   18
09/18 月3○2W01/3連投59     19
09/19 火1●7G4 3連投60 1740   
09/20 水9○4G          
09/21 木2●3G          
ダブル7○0G2 中2日61     20
09/22 金なし          
09/23 土12○3C6 中1日6232 41   
09/24 日6○3C11/3連投63     21
ダブル2●6C          
09/25 月なし          
09/26 火2●6T          
09/27 水7○5T20/3中2日64  42   
09/28 木3●4T51/3連投65 18   22
ダブル3●7T          
09/29 金3●4T          
09/30 土なし          
▲9月の登板

8月の反動なのか、初めての負け越しです。17日から19日までの3日間4試合は全試合に登板しましたが、1勝3敗でした。

10月(4試合2先発2完投3勝1敗)

月/日 曜スコア間隔
10/01 日8●9W51/3中2日66 19   23
ダブル6○1W          
10/02 月なし          
10/03 火1○0S9 中1日6733 4331  
10/04 水1●2S          
10/05 木1●2W          
10/06 金なし          
10/07 土3○1C9 中3日6834 4432  
10/08 日2●4C          
ダブル5○3C51/3連投6935    24
10/09 月3●4C          
10/10 火なし          
10/11 水2○1G          
10/12 木11○6G          
▲10月の登板

この年に35勝した権藤ですが、通算では100勝にも届いていません。1962年は30勝で2年連続最多勝、1963年は10勝、1964年は6勝で、1965年から野手に転向し、再転向した1968年に1勝だけしています。

登板間隔と対戦チーム別

登板間隔(暦日基準)は次のとおりです。ダブルヘッダーで2試合とも投げたのが4日ありますが、そのうち3日は第1試合に完投したあとの第2試合に救援登板しています。連投は15試合(3連投2回)で、完投翌日の救援登板が4試合あります。このトリッキーな登板は必ずしも結果が伴っていません。

同日4
連投15
中1日11
中2日18
中3日13
中4日4
中5日1
中6日1
除外2
69
▲登板間隔

当時のセ・リーグは130試合制です。権藤は国鉄と広島から20勝しましたが(5敗)、残り3チームには15勝14敗です。

回数勝率
1354110603781/3読売71536.569
151030111004107国鉄67603.527
145618406772/3阪神60673.473
1510209606902/3広島58675.465
125406615752/3大洋50755.404
693519244321244291/3
▲対戦チーム別の登板

もし権藤がいなかったら…

1961年の権藤は最多勝で防御率1位でした。新人投手が最多勝と防御率1位の2冠に輝いたのは、2005年時点で4人しかいません。ほかの3人は1954年の宅和本司、1980年の木田勇、1990年の野茂英雄です。シーズン1位の主な項目は次のとおりです。

  • 69試合(登板試合)
  • 429回1/3(投球回数は今もセ・リーグ記録)
  • 32完投(完投数32は今もセ・リーグ3位タイ)
  • 12完封勝利(完封勝ち12は今もプロ5位タイ)
  • 35勝(勝利数35は今もプロ7位タイでセ・リーグ2位)
  • 310奪三振(奪三振310は今もプロ14位)
  • 防御率1.70

1961年ドラゴンズの投手成績は次のとおりです。権藤はチーム72勝のうち35勝をマークしています。

登板勝利投球回奪三振防御率
ドラゴンズ1307211797472.48
権藤 博69354291/33101.70
河村保彦51132232/31302.53
板東英二47121931/31082.60
53.0%48.6%36.4%41.5%
▲1961年ドラゴンズの3本柱

権藤以外のドラゴンズ投手の防御率を計算すると2.93になります。防御率2.93の投手が429イニング3分の1を投げると、自責点は「140」です。権藤の「81」との差は「59」です。ドラゴンズの失点は「365」でしたので、これが「59」増えれば「424」となります。

61年ドラゴンズのチーム得点は「427」でした。もし権藤を欠いていたとしたら、得失点はほぼイーブンであり、「16」の貯金も完全消滅に近かったわけです。ルーキー右腕はたった1人で勝率5割前後のチームを優勝争いに導いたことになります。相当に強引な計算ですが…。

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