野球の後攻は本当に有利なのだろうか?

◆野球では先攻より後攻が有利だとよく言われます。かつて私もそう信じていましたが、私が辿り着いた結論は「野球には先攻・後攻による有利・不利はない 」です。

後攻は有利なのか

プロ野球の後攻勝率は5割3分前後

1985年から2002年まで18年間のパ・リーグでは後攻チームは3631勝3279敗で勝率.525でした。セ・リーグは3736勝3283敗で勝率.532です。

もちろん、特殊なケースはあります。1993年の日本ハムファイターズは最終的には1ゲーム差で優勝を逃しましたが、7割近いホームの勝率に対してビジターでは5割を切っていました。最下位だった2001年はホームの借金25に対してビジターの負け越しは6に過ぎません。

チームホーム勝率ロード勝率
1993日本ハム43勝19敗.69428勝33敗.459
1994千葉ロッテ36勝28敗.56319勝45敗.297
1995中日33勝32敗.50817勝48敗.262
1987近鉄22勝39敗.36130勝30敗.500
1992巨人29勝36敗.44638勝27敗.585
2001日本ハム22勝47敗.31931勝37敗.456
▲ホーム・ロード別勝敗

たまたま偶然でしょうが、北海道移転構想が具体化するのは翌2002年のシーズンです。ホームゲームの勝率は球団経営に関わってきます。火曜日に先発したエースを中4日で日曜日のホームゲームに登板させることは、ファンサービスの意味合いでもあり得る話です。また、球場の特性を熟知しているのはホームチームですので地の利は否定できません。

ファームでもホーム優位の理由

ファームのデータも拾ってみました。1992年から2002年までの11年間で、イースタンのホームチームは1682勝1440敗で勝率.539、ウエスタンは1536勝1377敗で勝率.527です。

ファームの場合、ホームで無理に勝ちに行く必要はありませんが、ファームの試合はわずかな例外を除いて昼です。ファームのホームチームは実戦経験を積ませたい1軍半の選手を積極的に起用することが可能です。1軍合流の時間が来たということなのでしょうが、複数の選手が一斉に交代するケースもあります。

たとえば高卒1年目のイチローはウエスタン開幕戦から1番センターで起用されていました。7月10日まで54試合にスタメン出場、.367という高打率を残してオールスター前に1軍昇格を果たします。7月11日のホークス戦は途中出場で2打数0安打でした。

イチローといえども、いきなりレギュラーに定着したわけではありません。レフト高橋智、センター本西、ライト柴原、DH石嶺の外野陣でした。守備のスペシャリストとして山森もいました。一般に外野の1軍枠は6~7人です。

昇格後のイチローはウエスタンの試合に4試合出場しています。9月7日の神戸サブで行われたカープ戦がイチロー最後の2軍戦です。1番レフトで4打数1安打でした。ナイトゲームのマリーンズ戦では9番レフトでスタメン出場して4打数2安打です。

このような起用はホームチームなら可能ですが、ビジターにはできない芸当です。遠征を強いられているならなおさらです。こうした事情がある以上、プロ野球のデータだけをいくら集めたところで、先攻・後攻による有利・不利の検証にはなりません。

まあ、興味深いテーマですので2003年以降のデータもあるに越したことはないわけです。少しだけ齧ってみましたが、5割3分が大きく覆される心配はなさそうです。

コールドの後攻勝率は高い

2002年までの春と夏の高校野球の全国大会では、後攻チームが2263勝2074敗で勝率.522となります。プロ野球の数値とさほど遜色がないのが悩ましいところです。これがミスリードを誘ってしまうのです。

高校野球の先攻・後攻はジャンケンで決まります。そうでないケースも過去にはあったのかもしれませんが、あったとしてもわずかな例外だったはずです。ジャンケンに勝ったチームが選択できるのですから、後述するように一定の駆け引きも存在するわけです。

明らかな戦力差がある場合、強いチームは後攻を選択し、弱いチームはジャンケンに勝っても先攻を選ぶ傾向があるものと思われます。あまり強くなかったチームの元キャプテンは、強豪チームに敬意を表してジャンケンに勝っても先攻を取っていたと語っていました。

強いチームが後攻で弱いチームが先攻というのは、大会運営上も望ましいことです。1998年7月18日の歴史的コールドゲームは弱いチームが後攻でした。東奥義塾の後攻で5回コールド制なら77対0で済んでいました。

122対0

アマチュアの大会ではこうなりかねない試合があるのです。プレイボールから30分過ぎても1回表が終わらないと大会関係者がざわついたのはお盆の時期の小学生女子の試合でした。得点差コールドあり・時間制併用の規定しかなく、1回表のコールドは想定されていません。

1991年から2002年までの高校野球の夏の予選、いわゆる地方大会の準々決勝以上について後攻チームの勝率を調べてみました。私はコールドについては6割に届くのではないかと思っていましたが、準々決勝以上という縛りのため、この程度だったものと思われます。

コールド542勝414敗.567
9回1543勝1324敗.538
延長162勝167敗.492
合計2247勝1905敗.541
▲コールドは後攻勝率が高い

◆集計に際しては、5回10点差・7回7点差が全試合に適用されるとしたら、という前提でカウントしました。したがって、実際の勝敗とは逆のケースもあります。49地区*12年*7試合で4116試合、記念大会(1998年)6地区*7試合で42試合、計4158試合のはずですが、有効サンプルは4152試合です。原資料に一部脱落があったせいですが、補充して調べていません。

社会人野球と大学野球

社会人野球と大学野球のトーナメント大会における後攻チームの勝敗と勝率です。

社会人都市対抗
(1927-2002)
942勝886敗.515全試合
社会人日本選手権
(1994-2001)
101勝99敗.505期間中全試合
社会人クラブ選手権
(1994-2002)
76勝44敗.633期間中全試合
社会人公認大会
(1994-2002)
122勝115敗.515準決勝以上
社会人準公認大会
(1994-2002)
54勝63敗.462決勝のみ
社会人都市対抗予選
(1994-2001)
138勝139敗.498代表決定戦
社会人日本選手権予選
(1994-2001)
105勝102敗.507代表決定戦
大学選手権
(1993-2002)
125勝119敗.512期間中全試合
▲社会人・大学のトーナメント大会

◆「都市対抗野球大会60年史」、「グランドスラム」、「大学野球」などで集計しましたが、なかには4対2なのに延長10回を戦っていたり、1対0で勝っているチームが9回裏の攻撃をしていたり、2試合続けてイニングスコアが同一というような誤植と思われるケースもありました。確認できる範囲で確認しましたが、気づかなかったものもあるでしょうし、私のカウントミスもあるでしょうから、アバウトな数字としてご理解いただいたほうが賢明です。

社会人も大学もおおむねジャンケンです(2001年大学選手権の1回戦全12試合とシード4校の2回戦4試合については、あらかじめ決まっていたのではないかと思われます。ベンチサイドと先攻・後攻が16試合連続で一致していました)。

クラブ選手権の後攻勝率がやけに高いのは次のような事情が考えられます。負けるべきチームはさっさと負ける潔さがクラブチームの試合です。試合後すぐに仕事に向かう選手もいます。無駄に試合が延びてナイトゲームになれば最終的には照明代も分担することになります。ジャンケンの結果に関わらず、強いチームが後攻になるのが当たり前です。

決勝戦のみの準公認大会とせいぜい1日2試合の代表決定戦の場合、サンプルの少なさもあると思われますが、数値上は必ずしも後攻優位とは言えません。決勝戦ですので戦力差はそれほどないはずです。最後の1試合ですから少々長引いても誰も文句は言いません。

もともと存在する戦力差が先攻・後攻に反映されるため、後攻の勝率が幾分高くなるのだというのが私の理解です。もし高校野球のデータを本格的に集約したいなら、1・2回戦と準決勝以上は分けたほうがよかろうと思われます。

大学野球のリーグ戦

さて、大学野球のリーグ戦は東京六大学や東都大学リーグのように2勝先勝で勝ち点1が与えられる勝ち点制と2回戦あるいは1回戦総当りのリーグ戦があります。前者の勝ち点制も後者の2回戦総当りリーグ戦でも、1試合目と2試合目では必ず先攻・後攻あるいはベンチサイドが入れ替わります(少なくとも私はその例外を把握していません)。

ということは、1回戦と2回戦の勝敗を集約すれば、もともとの戦力差による有利・不利が相殺されることになるはずです。やる価値はあります。

東京六大学(1991秋-2002春)328勝307敗.517
東都1部(1993秋-2002春)273勝267敗.506
東都2部(1993秋-2002春)260勝280敗.481
東都3部(1993秋-2002春)254勝278敗.477
▲大学リーグ戦

結局、野球の先攻・後攻に有利・不利があるかどうかについて本当のところを知りたいなら、大学リーグ戦の1・2回戦のデータをもっと手広く集約すればいいわけです。

延長戦の後攻勝率は5割未満

野球を点取りゲームとして考えれば後攻有利なのだとしても、アウト取りゲームとして捉えるなら先攻有利と言えなくもありません。同点の9回裏無死三塁という場面なら、外野手は自分がホームで刺せる範囲に守備位置をとることになります。5人内野の発想は必然です。

延長戦における後攻チームの勝率を調べてみました。最後の大学は前項集計期間と同一です。

パシフィック(1988-2002)213勝202敗.513
セントラル(1988-2002)249勝248敗.501
イースタン(1990-2002)93勝108敗.463
ウエスタン(1990-2002)45勝52敗.464
都市対抗(1927-2002)69勝91敗.431
センバツ(1924-2002)79勝83敗.488
高校選手権(1915-2002)134勝113敗.543
大学(東京六、東都1-3部)55勝68敗.447
合計937勝965敗.493
▲延長戦の後攻勝率

高校野球の予選でも延長戦の後攻勝率は5割未満でした。計2000サンプルで有意差は見られません。「サヨナラがあるから後攻有利」という説は今でも広く流布されているものと思われますが、20年前の私の集約では後攻優位が立証されませんでした。

平尾はグーを出す

玉木正之氏の「不思議の国の大運動会」(東京書籍)という著作があります。1993年11月初版と記された奥付のページを前にめくると、「本書の内容はフィクションであり、登場する個人・団体・企業などの名称は、実在のものとは関係ありません」という、よくある断り書きがついています。

同書に平尾誠二なる人物の言葉があります(16~17ページ)。

 ぼくは、伏見工高でも同志社大学でも神戸製鋼でも、キャプテンとして試合前のジャンケンをやるときは、グーしかだしまへなんだんですわ。それは、グーばっかりだして何遍も優勝しましたよって、ジンクスみたいなもんともいえまっけど。
 それだけやのうて、あいつはグーしかださんやつやと敵に知れわたることのほうが大事やったんです。それが知れわたると、試合で相手のキャプテンは、当然パーをだして勝ちにきますわな。じつは、それが狙いですねん。つまり相手にジャンケンを勝たして、風上と風下のどっちのフィールドをとりよるか、それとも最初のキックオフをとりよるか、ということをぼくは知りたかったんですわ。それを知ることができると、その日の相手がどんなふうに試合を組み立てようとしてるか、ある程度わかりまっさかいな。ラグビーの試合前のジャンケンは負けたほうが得ですねん。

玉木正之「不思議の国の大運動会」(東京書籍)

実在の平尾誠二氏は2016年に亡くなりましたが、現役引退は1998年です。この本が出版された1993年にはまだ現役でした。公になるとウラをかかれることもありますので(あったでしょうが…)、フィクションということにしておかないと具合が悪いわけです。

1998年夏の横浜対PL学園の延長17回は朝8:30開始の第1試合でした。3時間37分の試合です。次の第2試合は明徳義塾と関大一高の対戦が予定されていました。第2試合を戦う両チームはジリジリしながら待っていたに違いありません。11:00前後のプレイボールで備えていたはずですが、実際の試合開始は12:33です。

明徳vs関大一

第2試合終了後のインタビューで馬渕監督は「第1試合が延長になったから先攻をとった」旨の発言をしていました。焦らされてゲームへの集中力が欠けてしまう状況下で先に守るのは不利ということなのかもしれません。

先攻・後攻論は奥の深いものがありそうですが、弱いチームが先攻というのは理にかなっていると私は考えています。逆転できるような力関係にないとき、初回のドサクサに紛れて1点でも2点でも取って、いつでも逆転できるという相手の油断に乗じて逃げ切るという絵しか描けないことはあるはずです。


◆1991年から1998年まで私は三菱重工長崎の試合を8試合見ていましたが、例外なく先攻だということに気づきました。調べられる範囲で調べてみると三菱重工長崎は62試合中55試合で先攻でした(2003年まで)。
◆1991年から2003年の夏の準々決勝以上で、樟南は先攻11試合で後攻23試合でした。鹿児島実は先攻22試合で後攻4試合です。この間に両者の対戦は7回あり、すべて鹿実が先攻で樟南の後攻でした。
◆埼玉のH氏提供情報ですが、日大東北と学法石川は1986夏決勝、1986秋準決勝、1987夏準決勝、1991春準決勝、1996春2回戦、1997夏決勝、1998夏決勝、1999夏決勝、2001夏準々決勝、2002春決勝、2003夏決勝で対戦し、すべて日大東北が先攻です。
◆カーリングでは相手チームのプレイを見守ることしかできませんので後攻有利は自明です。野球の先攻チームは守備という形で裏の攻撃に関わります。この両者は同一視できません。


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