14歳11か月の松坂大輔と2人のショート

◆1995年の私の観戦試合は198試合ですした。初めて中学生の硬式野球を見に行ったのが同年8月12日の神宮球場です。その日、10安打を浴びてコールド負けしたチームの投手は松坂大輔でした。対戦相手には高校でバッテリーを組む小山良男がいました。両チームの背番号6もプロ入りします。

ショートというポジション

神宮ガイドブックと神宮テレフォンサービス

「神宮ガイドブック」の年間スケジュールに「リトルシニア選手権」と書いてあるのが気になり、大会期間中に「神宮テレフォンサービス」に電話したのは、たぶんその前の年だったと思われます。プロ野球の予定が案内されただけでした。

今にして思えば、30分置きにかけても試合経過がきちんと更新されているテレフォンサービスは、ネットがなかった時代には実にありがたいものでした。もうなくなっているのかもしれないと思って調べてみたら、まだしっかり現役でした。今の時代に誰が使うのだろうかと思わなくもありませんが、リカちゃん電話も現役のようです。

試合開始が何時なのかわかりませんでしたが、その日が準々決勝4試合日の予定だということは把握していました。球場に着いたのは第1試合の途中でした。たしか入場無料で大会パンフは有料だったと記憶しています。

第2試合が終わりトイレに向かう途中で大人2人連れとすれ違いました。一方が相手を○○先生と呼んでいるのが聞こえました。それが某高校の野球部の部長だと気づいたのは、第3試合のスタメンを記入しているときです。どのチームが勝ち上がっているのかさえ知らないのですから、○○先生で気づくはずがありません。

第3試合は初回で大差がついた一方的な試合でした。どこにでも転がっているその他大勢のありふれた試合として埋もれるはずでした。1980年9月生まれの松坂大輔はこの日14歳11か月です。

リトルシニア選手権
1995年リトルシニア選手権 中本牧vs江戸川南

水戸で思わぬ「再会」

次に見た松坂は16歳8か月でした。1997年5月、私は水戸市民球場に高校野球の春季関東大会を見に行きました。翌日はひたちなか市民球場に行くつもりでしたので、そこらのビジホに泊まる予定でした。水戸の第1試合は横浜高校vs藤代紫水高校の対戦です。横浜高校は2年生バッテリーでした。

水戸市民球場
水戸市民球場(地理院タイルを加工)

強豪校が春の大会に2年生バッテリーで臨むというのは、それだけでザワつくものがあります。関東大会のパンフでは2年生バッテリーの名前は松坂大輔と小山良男です。部長は○○先生です。その日の2試合を見届けた私は、2年前の夏のスコアブックを引っ張り出すためにいったん自宅に帰ることにしました。

私は神宮で「松」の名前を書いたとき、「松」ではないのだなと思ったことをうっすら覚えていました。既視感は主にそこにあって、別に有望株としてマークしていたわけではありません。単に見たことのある選手たちのような気がしただけです。

当日のスコアブック
当日のスコアブック

自宅に帰った私は、まずスコアブックを確認し、次に買ったばかりの関東大会のパンフを広げ、そしてリトルシニア選手権のパンフを開きました。松坂大輔も小山良男も同姓同名であり、学年も合致します。2人とも右投げ右打ちです。そればかりか小池正晃も同姓同名です。

横浜高校は3年生が引退した秋の大会では関東を制して神宮大会の出場権を手に入れます。私が松坂の登板を見た3回目は17歳2か月の神宮第二球場です。もうその筋ではすっかり有名な投手でした。ラスト4回目は翌春のセンバツです。2回戦(初戦)でしたので甲子園1勝目です。

ショートというポジション

さて、○○先生こと当時の横浜高校・小倉清一郎部長は次のように述べています。

 試合前の相手のシートノックは必ず見ます。このノックこそが、相手の戦力分析に欠かせない情報の宝庫なのです。
 まず内野の球回しでだいたいの守備力はわかります。ポジションでは、とくにショートの動きをしっかり見ます。高校野球では守備のもっとも上手な選手がショートを守る。つまりショートがチームのレベルを代表しているのです。ポイントは三塁方向、二塁方向への足の運び、肩の強さなどです。

『週刊朝日』2001年8月15日増刊「甲子園」(107ページ)

偶然ですが、両チームのショートもプロ入りしています。ショートは足と肩が求められます。旧「セットポジション」には、「コンバートの不可逆性」(01/07)、「ショートというポジション」(02/04)、「下級生向けのポジション」(03/04)のページがありました。これら一連のページを再構成しました。

まず、ショートというポジションはプロ野球では御老体に向かないポジションです。1960年から2000年にかけてショートの選手がコンバートされたケースは次のとおりです。

【遊→一】藤田平
【遊→二】大下剛史、久慈照嘉、古葉竹識、浜名千広、水口栄二、南渕時高、三村敏之、山崎裕之、山下大輔、和田豊
【遊→二→外】真弓明信、立浪和義
【遊→三】石毛宏典、池山隆寛、宇野勝、岡崎郁、進藤達哉、広瀬哲朗、前田益穂
【遊→三→二】阪本敏三
【遊→三→遊】小川博文
【遊→外】広瀬叔功、村上嵩幸

2000年当時は宮本慎也と松井稼頭央が両リーグを代表するショートでしたが、2人とも晩年は二塁や外野を守っているはずです。

逆に、ほかのポジションからショートにコンバートされたというケースはかなりレアです。【投→三→遊】が石井琢朗、【二→遊→二・外】が高木豊です。高木は衰えてきた山下大輔を延命させるための一時的なショートで、山下引退とともにセカンドに戻りました。

投手でプロ入りして消化試合ながら高卒1年目で初勝利を挙げた石井は3年目のオフに野手に転向、翌92年の終盤にはサードのレギュラーを掴みます。1996年のコンバートでショートに回りましたが、転向初年度のファームではショートがメインでした。

ショートの特性

一塁送球の関係で、ショートは右投げ限定のポジションになります。幸いにも私は右投げの三塁手を見る機会に恵まれましたが、右投げの二遊間と捕手は見たことがありません(たぶん)。

また、プロ野球の場合にはショートは打撃で貢献する必要があまりありません。1950年から2000年までの打撃3部門のタイトルホルダーの守備位置は次のとおりです。

首位打者本塁打王打点王
捕手2107
一塁243033
二塁1325
三塁141719
遊撃212
左翼161210
中堅19119
右翼141010
DH0159
▲打撃三冠部門のタイトルホルダー

長打力があっても別に邪魔にはなりませんが、2割5分でも使ってもらえるのがショートです。1本ヒットを打つ代わりに1本ヒットを防いでくれれば同じことです。野球をアウト取りゲームと捉えた場合、この戦力は貴重です。

下級生向きのポジション

高校野球の夏のパンフから1年生と2年生がどのポジションに入っているか、背番号で判断してカウントしてみました。

260校
96東京
165校
97埼玉
55校
97山形
204校
98神奈川
174校
01千葉
40校
02山梨
合計
投手732814535010228
捕手974516745916307
一塁935820624513291
二塁955518885814328
三塁1276726915821390
遊撃1194918857418363
左翼1025417915211327
中堅9941958509266
右翼1065721804515324
▲下級生のポジション

グラフ化すると次のようになります。背番号5はともかく、意外にも背番号6も下級生がつけていることが多いポジションでした。

下級生レギュラーのポジション
下級生レギュラーのポジション

このうち97年山形と98年神奈川について、一桁背番号の下級生が翌年には何番をつけていたのか調べてみました。「他」は二桁背番号または大会登録外です。「同一」は同一ポジションの選手の割合です。

同一
投手6739220230631058%
捕手905578111431963%
一塁8273340531362041%
二塁106664419211201639%
三塁11713891334142821429%
遊撃10310819659010957%
左翼108456753292362027%
中堅678510155341751%
右翼101789331819251825%
▲下級生レギュラーの翌年のポジション

選手がごっそり入れ替わる高校野球ですが、「1・2・6・8」の下級生は進級しても同じポジションを守るケースが多いようです。

1993年から2002年の選手権大会のパンフから同じように背番号基準で下級生選手をカウントしたのが次の表です。地方予選の場合と傾向はあまり変わりませんが、選手層の問題からか下級生比率は低めです。

93年94年95年96年97年98年99年00年01年02年合計
投手11696774461272
捕手8596610121313688
一塁1291410111212111412117
二塁7911912141381012105
三塁1317121111201411913131
遊撃9141112191415191014137
左翼11881216141310412108
中堅6699810487976
右翼6788151010151510104
▲下級生のポジション全国版

◆ここに示したのは昔のデータですが、今でもそれほど変わらないのではないかと思われます。変わっているのだとすれば、変化した理由を追究することに価値があるのかもしれません。


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