塗装とメイクと介護で言う「タッチアップ」とは

バラエティに富んだGoogle先生のサジェスト

Googleさんの検索ボックスに「タッチアップ 」を入力したところ、次のようなサジェストワードが示されました。

私は「タッチアップ 接客」で調べようとしていたのでした。「塗装」や「メイク」はなんとなくイメージできますし、「野球」はもともと私の土俵の中です。ただ、「介護」はまったく意味がわかりません。もう戸惑いしかありません。

1番目の「タッチアップペン」は株式会社ソフト99コーポレーションさんの商品名です。石跳ねなど車の傷の補修用途で使われる塗装ペンのようです。weblio辞書の「研究社 新英和中辞典」では「touch up」が次のように記載されています。

(1) 〈絵・作品などを〉少し変える, 〈…に〉仕上げをする, 〈写真などを〉修正する.
(2) 《英俗》〈女の〉体にさわる; 〈異性を〉愛撫する.

weblio辞書>touch up(研究社 新英和中辞典)

これで2番目の「タッチアップ 塗装」はもはや検索する必要はありません。業界用語と言えばそうでしょうが、原義どおりです。

メイク≒塗装

名古屋の小林塗装さんによる「塗装工事の用語辞典」には次のように記載されています。

タッチアップとは、塗膜に生じた細かな傷など、その一部分のみ補修塗りする事をタッチアップと言います。

小林塗装>タッチアップ

8番目の「タッチアップ 建築」もこの系統です。タクミホームズさんの「建築用語集」にも次のように記載されています。

 塗装仕上げなどで、施工終了後に欠陥部が生じたとき、部分的に補修すること。
 てんじて、木部なども補修することを、タッチアップということがあり、補修の専門家がいる。

タクミホームズ>タッチアップ

これで4番目の「タッチアップ メイク」と9番目の「タッチアップ 化粧」もなんとなく想像できます。そういうことに違いありません。

タッチアップとは、美容部員(ビューティー・アドバイザー、BA)が、お客様の肌に直接、メイクやスキンケアを施すことです。したがって、タッチアップを行う際には、自社商品をお客様自身に肌で感じてもらうことになります。

モデルプレス>美容部員は知っておきたい!タッチアップでメイクをするときのコツ

コロナ禍でこのタッチアップと呼ばれる接客がやりにくくなっているようです(手指消毒・マスク着用のうえでタッチアップを実施している店舗もあるようです)。今回もともと私が調べたかった「タッチアップ」とはこの系統です。

お客様および弊社美容部員の健康と安全に配慮するため、店頭において下記対応を行っております。
– お客さまの肌に直接触れるタッチアップやスキン診断等の活動自粛

Dior>お知らせ 感染症対策について

介護系のタッチアップとは

こうなると、5番目の「タッチアップ 介護」が気になります。どうやら矢崎化工株式会社さんの商品名「たっちあっぷ」シリーズから来ているようです。ベッドや布団などから起き上がるときの動作を補助する据え置き型の手すりです。

手すりの場合、「touch」しただけでは足りず「hold(onto)」しなければならないように思えます。ただ、「たっち」は「touch」ではなく、どちらかと言えば「立っち」なのかもしれません。「touch up」の音だけ借りて、「立っちup」のネーミングになったとも考えられます。

幼児語っぽいところが気にならないわけでもありませんが、ネーミングとしては他メーカーの「楽起(らっきい)」より星1つ多く評価できそうです。

野球とソフトボールのタッチアップ

ソフトボールのルールブックには遅くとも2006年には「タッチアップ」が定義されていました。

1-64項 タッギング アップ TAGGING UP(タッチアップ)とは、飛球が野手に触れた直後、走者が進塁するためにスタートを起こすことをいう。

2006オフィシャル・ソフトボール・ルール

現行ルールも同じだろうと思われますが、ソフトボール協会はいわば苦肉の策として「タッチアップ」をルールブックにねじ込んだのです。2008年時点で野球のルールブックには「タッチアップ」がありませんでした。今もないはずです。

2008年時点の「公認野球規則」には1か所だけ「タッアップ」がありました。今は条項が移動して内容はそのまま残っているはずです。定義されていない「タッグアップ」がいきなり出てくるという不細工な構成は今も変わっていないものと思われます。

走者は、ファウルチップの際はタッアップする必要はないから、盗塁することもできる。しかし、チップしたボールを捕手が捕らえなかった場合は、ファウルボールとなるから、走者は元の塁へ戻らなければならない。

公認野球規則2008年版 7.08(d)【原注】

野球用語としての「タッチアップ」は、守備側の野手がノーバウンドの飛球を処理した後、走者が次塁あるいはその先の塁に向かって進塁を試みる行為を指します。

実は、野球やソフトで「タッチアウト」と言うときの「タッチ」は「touch」ではありません。本来は「tag」です。両者は「t」で始まり、語尾の子音に付属する母音がないという共通点があります。「touch」と「tag」を聞き分けることができなかった先人の誤解を今でも盛大に引きずっているのです。

あまり知られていないはずですが、野球のルールブックには「tag」とともに「touch」も定義されています。

2・79 TOUCH「タッチ」―ープレーヤーまたは審判員の身体はもちろん、その着衣あるいは用具のどの部分に触れても“プレーヤーまたは審判員に触れた”ことになる。

公認野球規則2008年版 2.79

現行ルールでも条項の番号が違うだけで、同じ内容の条項があるはずです(2.80?)。ルールブック上の「タッチ」とは、あくまでも審判に対する行為です。したがって、野球に「タッチアウト」などあり得ないという屁理屈をこねることは可能です(審判への暴行に対するペナルティはアウトではなく退場になります)。

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