道央の一本道、リュックで歩く君はどこから来た?

人家のない道道136号線

JR石勝線の占冠(しむかっぷ)駅前から道道136号線のストリートビューを東に辿りました。石勝線の駅間隔(営業キロ数)は次のとおりです。

新夕張駅(34.3)占冠駅(21.3)トマム駅(33.8)新得駅

都市部では、御徒町駅-上野駅、代々木駅-新宿駅、東淀川駅-新大阪駅のように、わざわざ電車に乗らなくても…という区間もありますが、この駅間距離では健康のために1駅手前で降りて歩くなどという発想には至りません。

占冠駅からトマム駅方面へ
占冠駅からストビューを辿ると(地理院タイルを加工)

景勝スポットがあるわけでもないストビューは対向車もまばらです。占冠駅からトマム駅までの間で作業服の5人を見かけました。最初の2人は第二占冠トンネルの手前で道路脇の案内表示板の柱にハシゴをかけています。道路もしくは通信関係のようです。

次の2人はJRの滝ノ沢信号場と思われる建物の敷地内です。5人目はホロカ信号場付近で赤色誘導灯を手に持っていますので、工事関係の車両誘導でしょう。

Google Mapでルート検索すると、占冠駅前からトマム駅前まで車で26分(徒歩5時間17分)、25.5キロです。第一村人を発見できずにトマム駅を通過しました。

不思議な泣く木

トマム駅から東1キロ地点で、リュックを背負って颯爽と歩道を歩く女性を見かけました。これは思いがけない発見です。埋め込んだのは2021年10月撮影のストビューです。

いくらコロナ禍といえども、この環境ではマスクは要らないように思えます。ハイカーとは思えない彼女はどこに行くのでしょう? 1キロ先のトマム駅しかないはずです。ここまで観光施設も商業施設もありませんでした。絶景スポットがあるわけでもありません。

ここまでの道道136号線沿いで唯一最大の観光スポットは「不思議な泣く木」です。

道路工事のさまたげになるため何度かこの楡(にれ)の木を伐り倒そうとしましたが、のこぎりの刃をあてるとうめくような泣き声が聞こえてくるため、どうにも果せませんでした。以来、次の物語が生まれました。
猟場のことで争いを続けていた日高と十勝のアイヌ、日高アイヌの若者と十勝アイヌの○(判読不能)長の娘は、許されぬ愛に手をとり合いカムイの棲むトマムに安息を求めましたが、若者はとらわれの身となりました。
やがて隙をついて逃げ出した若者が待ち合わせの場所で見たものは、この楡の木の傍で力尽きて倒れている娘の姿でした。今では、恋しい若者を慕う娘の魂が、この楡の木にやどっていると伝えられています。

「不思議な泣く木」の案内板(占冠村観光協会)

どうやらシェイクスピアを下敷きにした創作のようです。待ち合わせには場所と時間のセッティングが不可欠です。場所はともかく、逃げ出すタイミングが娘にどう伝わったのかそっちのほうが不思議です。GPSはなかった時代のはずです。

ただ、目印のない山中では事故が起きたとき現在地を伝えるのにこうしたスポットの存在は有益です。休憩を促す効果も期待できます。

第一村人はどこから来たのか?

占冠駅からトマム駅までの間にはいくつものトンネルがありました。トンネル内の出口でヒグマに遭遇したら確実に逃げ切れませんが、幸いにも第一村人発見地点からトマム駅までの1キロにトンネルはありません。トマムリゾートに向かう車の往来もありますので、クマのほうが避けるでしょう。

ストビューでは北に伸びる短い影を確認できます。トマム駅に止まる列車(非電化区間)はすべて特急で、札幌方面行きも帯広方面行きも1日11本です。対して白ナンバーの村営バスは朝夕の1日2便です。彼女が駅に向かっていることは疑いようもありません。

問題はどこから来たのかということです。この先にある上トマムの集落には「占冠村立トマム学校」(←小学校と中学校の正式名称です)や「胆振苫鵡簡易郵便局」などがあります。100世帯ほどですが、距離的にはまだ3キロ以上あります。

第一村人は4キロの道のりを歩こうとしているのでしょうか。4キロはせめてチャリの距離だと思われます。ひょっとすると自転車がパンクしていて、やむを得ず歩いているのかもしれません。チャリ屋さんはそんなに近くにはないはずです。

山上農場の沢川付近

ピンク矢印の建物群が気になります。ストビューではとくに案内看板がありませんので、宿泊施設ではないようです。ここがトマムリゾートの従業員宿舎だとすれば、私が抱いている謎はクリアに氷解します。第一村人発見地点からピンク矢印の建物群まで500mほどです。

従業員宿舎なら派手な看板は必要ありません。そして、チャリやバイクの移動手段がなくても不思議ではありません。仮に共用チャリがあっても先着順でしょう。そもそも下トマム集落に行ったところでスーパーもなければパチンコ店もないのです。

出退勤は送迎バスが出るでしょうが、休日の従業員用にわざわざ宿舎から駅までのバスを出すとも思えません。あるのかもしれませんが、すべての時間で対応できることではありません。

昔は胆振国、今は上川管内

ところで、タイトルを「道央の一本道…」としましたが、占冠村は上川振興局管内です。一般に上川は道北ですが、占冠は上川の最南端です。昔は胆振国でした。郵便局の名前が「胆振苫鵡簡易郵便局」なのはそういう事情です。占冠を道央と呼んでも不都合はないと思われます。

占冠村
占冠村周辺(地理院タイルを加工)

南富良野町との関係が深いことから、上川に属することになったようです。

旧国名振興局
胆振国占冠村上川
石狩国南富良野町上川
十勝国新得町十勝
日高国日高町日高
日高国平取町日高
胆振国むかわ町胆振
石狩国夕張市空知
▲周辺自治体の所属先

この立地だからこそ、日高アイヌの若者と十勝アイヌの娘というロミジュリの組み合わせが成立するわけです。

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