本州のくびれで積雪の世界記録
標高1377mの伊吹山は本州のくびれ、琵琶湖の東にあります。伊吹山山頂の観測所では1927年(昭和2年)2月14日に1182センチの積雪を観測しており、これは日本のみならず公的観測としての世界記録とされています。
今の積雪計はレーザーや超音波を利用したものです。12m近い積雪を計測するには、積雪計の発光部を12m以上の高さに設置する必要があります。琵琶湖湖畔の彦根地方気象台にはレーザーの積雪計が設置されています。
防犯カメラのように下向きに取り付けられているのが積雪計です。1927年当時、このような積雪計が伊吹山山頂に高さ12m以上で設置されていたとはとても思えません。
【外部リンク】
■京都新聞>雪の深さ11メートル超の世界記録、実は滋賀県に「清水の舞台」匹敵の高さ、日本海の気流が影響(2021/02/15)
山頂測候所の勤務は1週間交代だったようです。82~83年でも雪尺が使用されていたそうですので、「世界記録」もアナログの雪尺で視認により計測されたもののようです。最初から15mぐらいの国旗掲揚ポールを立てておけばよかったのかもしれません。
伊吹山の月最深積雪全記録
気象庁Webサイトの「伊吹山・月ごとの値」から、月最深積雪を拾ってみました。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
1921年 | 7 | 197 | ||||||
1922年 | 767 | 851 | ||||||
1923年 | 991 | 945 | 902 | 735 | 350 | |||
1925年 | 806 | 803 | 712 | 336 | ||||
1926年 | 361 | 26 | 667 | |||||
1927年 | 1121 | 1182 | 1161 | 942 | ||||
1930年 | 106 | |||||||
1932年 | 58 | |||||||
1937年 | 500 | |||||||
1940年 | 740 | |||||||
1944年 | 550 | |||||||
1945年 | 850 | 800 | 700 | 560 | ||||
1947年 | 565 | 340 | 61 | |||||
1949年 | 355 | 10 | ||||||
1951年 | 103 | |||||||
1953年 | 810 | 700 | 555 | |||||
1956年 | 680 | |||||||
1957年 | 5 | |||||||
1958年 | 5 | |||||||
1961年 | 430 | 520 | 480 | 355 | — | — | 15 | 85 |
1962年 | 600 | 610 | 550 | 472 | 160 | 0 | 10 | 30 |
1963年 | 635 | 176 | 620 | 405 | 105 | — | 3 | 40 |
1964年 | 43 | 400 | 425 | 330 | — | — | 5 | 60 |
1965年 | 455 | 580 | 540 | 496 | 270 | — | 35 | 138 |
1966年 | 605 | 625 | 465 | 335 | 40 | — | 20 | 82 |
1967年 | 570 | 522 | 485 | 390 | — | — | 3 | 67 |
1968年 | 460 | 550 | 485 | 358 | 92 | — | 5 | 45 |
1969年 | 480 | 295 | 400 | 264 | 0 | — | 50 | 43 |
1970年 | 550 | 493 | 570 | 498 | 180 | 1 | 70 | 530 |
1971年 | 535 | 645 | 590 | 470 | 180 | 0 | 40 | 57 |
1972年 | 15 | 50 | 80 | 30 | — | — | 18 | 40 |
1973年 | 35 | 135 | 310 | 165 | — | — | 40 | 470 |
1974年 | 485 | 560 | 480 | 425 | 80 | — | 13 | 65 |
1975年 | 775 | 600 | 570 | 525 | 170 | — | 6 | 36 |
1976年 | 500 | 422 | 280 | 195 | — | 1 | 37 | 133 |
1977年 | 565 | 645 | 585 | 405 | 83 | — | 4 | 40 |
1978年 | 342 | 570 | 485 | 412 | 150 | — | 30 | 27 |
1979年 | 40 | 40 | 130 | 15 | 0 | — | 10 | 5 |
1980年 | 480 | 560 | 471 | 360 | 63 | 1 | 6 | 470 |
1981年 | 820 | 667 | 585 | 453 | — | 0 | 20 | 75 |
1982年 | 465 | 480 | 384 | 150 | — | 3 | 33 | 25 |
1983年 | 212 | 460 | 410 | 235 | — | — | 35 | 360 |
1984年 | 630 | 680 | 600 | 565 | 160 | 1 | 1 | 415 |
1985年 | 570 | 505 | 445 | 250 | — | — | 56 | 210 |
1986年 | 625 | 605 | 610 | 440 | — | 0 | 5 | 20 |
1987年 | 46 | 340 | 580 | 135 | — | — | 0 | 60 |
1988年 | 100 | 520 | 520 | 325 | — | 6 | 15 | 100 |
1989年 | 70 | 50 | 10 | × | × | × | × | × |
1960年以前の観測値はスカスカの虫食いで、10センチあるいは5センチ単位で処理されているケースがほとんどです。10m以上の積雪が観測されたのは1927年だけですが、8m以上の積雪も何度か観測されています。
1981年1月の豪雪時には測候所職員が登山できず、測候所における「籠城」が3週間に及んだため交替要員がヘリで運ばれたということもあったそうです。
最大風速も歴代5位
伊吹山の観測所はもともとは滋賀県の施設です。1929年に測候所となりましたが現在は更地です。
1919年01月 滋賀県立彦根測候所付属伊吹山観測所として開設
1929年05月 国に移管(中央気象台付属伊吹山測候所)
1959年08月 彦根地方気象台との合同運営に
1959年11月 庁舎新築
1989年06月 無人化
2001年03月 閉鎖
2010年10月 解体撤去
伊吹山で「世界記録」が樹立された1927年、水平距離で20キロ以上離れた標高87mの彦根地方気象台では同年1月に80センチの積雪が観測されています。1918年1月は彦根の最大積雪深93センチです。
もし、伊吹山の観測所があと1年早く開設されていたら、最深積雪の「世界記録」はもっと大きな数値だった可能性があります。逆に、1918年1月の豪雪から山頂観測の必要性を感じたということかもしれません。
伊吹山では最大風速も気象庁観測の歴代5位です。1961年台風18号(第二室戸台風)のときです。本州への再上陸地点は尼崎と西宮の間とされていますので、伊吹山は危険半円に入ったことになります。
1 | 富士山 | 72.5m/s | 西南西 | 1942/04/05 |
2 | 室戸岬 | 69.8m/s | 西南西 | 1965/09/10 |
3 | 宮古島 | 60.8m/s | 北東 | 1966/09/05 |
4 | 雲仙岳 | 60.0m/s | 東南東 | 1942/08/27 |
5 | 伊吹山 | 56.7m/s | 南南東 | 1961/09/16 |
最大風速とは10分間の平均値の最大値、最大瞬間風速は3秒間の平均値の最大値です。伊吹山で最大瞬間風速の観測が始まったのは1975年です。
伊吹山ドライブウェイ
夏なら伊吹山は比較的容易に登れる山です。1965年にドライブウェイが全線開通しており、9合目にスカイテラスと呼ばれる500台収容の駐車場があります。
最短コースなら20分で山頂です。階段状に整備されていますので軽装のスニーカーでも登れます。20分なら香川・金刀比羅宮の石段を登るより短いわけです。測候所は地図上の「伊吹山」の文字の北側にあったようです。
スカイテラス駐車場付近の標高は1240m台です。この標高で温泉旅館があれば夏はかなり魅力的です。なにしろ伊吹山では30℃台が1回も観測されていません。1994年8月8日の29.2℃がレコードです。この日はアメダスかつらぎで史上6地点目となる40℃台が観測されています。
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