そのタイミングで
2~3年に1度、忘れた頃に思い出しては見たくなるのが2003年K-1のミルコ・クロコップvsボブ・サップ戦です。
谷川「この間合いはミルコですね」
三宅「サップも、一茂さん、いろいろ気にしながら出てますよね」
長島「突進力はやっぱりサップのほうがありますね。今のとこ(ミルコは)何もできない状態ですよ」
長谷川「あぁ」
三宅「左ストレートぉ、左ストレート~」
三宅アナに話を振られた長嶋一茂が「今のとこ」と言ったとき、ミルコが左のミドルキックを出します。これでガードが甘くなったサップの顔面に左ストレートを放つのは、一茂が「状態」を発した時間帯でした。
眼窩骨折したサップはパンチを受けてすぐにダウンしたのではありません。長嶋一茂が「(ミルコは)何もできない状態ですよ」と言い終わったときには、サップは顔をしかめながらまだ立っていました。別に素っ頓狂な発言をしたわけではありません。
言い始める段階ではそのとおりだったのです。ただ、言い終わったときには状況が一変していました。この動画のあと、2001年のレイ・セフォーvsマーク・ハント戦、2002年のレイ・セフォーvsマイク・ベルナルド戦を探すのが私の定番コースです。
レイ・セフォーは「南海の黒豹」と呼ばれていました。あくまでも興行側が命名したものだったはずです。Wikiには次のように記述されています。セフォーは4代目だったようです。
南海の黒豹(なんかいのくろひょう)は、スポーツ選手の愛称。主に下記の4人を指す。
Wikipedia>南海の黒豹(2023/03/03閲覧)
・琴ヶ濱貞雄 – 香川県三豊郡出身の元大相撲力士。最高位は大関。
・リッキー・スティムボート – アメリカ合衆国・フロリダ州タンパ出身の元プロレスラー。
・若嶋津六夫 – 鹿児島県種子島出身の元大相撲力士。最高位は大関。現17代荒磯。
・レイ・セフォー – ニュージーランド出身の元キックボクサー、K-1ファイター
セフォーはハントと同じサモア系ニュージーランド人です。肌の色は遜色ありません。もちろんミルコより黒いわけですが、黒さで言うならサップのほうが黒いわけです。ただ、体型的にサップやハントには「南海の黒豹」は似合わないと思われます。
精悍か俊敏か
「南海の黒豹」の3要素は次のとおりです。
(1)南→南方の出身(というギミック)
(2)黒→色黒あるいは赤銅色
(3)豹→?
豹をどうイメージするのか、話はそこに尽きると言っていいのかもしれません。私の中では「(相対的に細身で)俊敏」です。初代「南海の黒豹」の大関・琴ヶ浜は1961年に引退しています。出身は香川県三豊郡で、今の観音寺市ということです。技能賞5回で内掛けの名手だったようです。
昔の五畿七道では和歌山、淡路、四国が南海道です。愛媛のTV局が南海放送なのは南海電鉄の資本が入っているからではありません。瀬戸内側の「南海」はピンと来ないものですが、歴史的には正当性を有しています。
鍛え上げた赤銅色の体躯と精悍な面構えで「南海の黒豹」とあだ名された
Wikipedia>琴ヶ濱貞雄(2023/03/03閲覧)
「精悍な面構え」というきわめて主観的な視点が「豹」に当てはまるようです。「鍛え上げた」も含まれるのかもしれません。やはりアンコ型の力士ではありません。
ヒョウは日本には生息していません。かつて生息していたという痕跡もありません。私はヒョウを動物園でしか見たことがない平均的日本人です。今回初めて知りましたが、トラもライオンもヒョウと同じヒョウ属のようです。
ネコ科の大型肉食獣
アジアにいるネコ科の大型肉食獣はヒョウとトラだけです。豹柄の動物が描かれている日本の浮世絵は実在しますが、その動物は虎と呼ばれていたりします。虎のメスが豹という誤解が一部にはあったようです。「女豹(めひょう)」があっても、「おひょう」とは言わないのは、そういう背景もあるものと思われます。
ヒョウ | ヒョウ属 | 斑紋(梅の花) | 黒 | アジア | アフリカ | |
ジャガー | ヒョウ属 | 斑紋(花柄斑点) | 黒 | 中南米 | ||
チーター | チーター属 | 斑紋(黒水玉) | ※ | アフリカ | ||
ピューマ | ピューマ属 | 斑紋なし | 米大陸 | |||
トラ | ヒョウ属 | 縞模様 | 白 | アジア | ||
ライオン | ヒョウ属 | たてがみ | 白 | ※ | アフリカ |
ヒョウとジャガーとチーターを区別できる一般人はそう多くはないはずです。ヒョウから何をイメージするか、です。肉食獣ですから「獰猛」かもしれません。
この6種ではスマートさも足の速さも、1位・チーターで2位・ヒョウでしょうが、チーターは足が早いだけで獲物を横取りされてしまうことがあります。格闘家向けのキャッチフレーズにはなりません。ヒョウは自分より重い獲物を樹上に持ち上げる力強さを備えています。
2代目の「南海の黒豹」はプロレスラーです。リッキー・スティムボートは実際はNY州生まれで、ギミック上はハワイ出身ということになっていたようです。ドリー、テリー、ハンセン、ブロディより黒いものの、鶴田や大仁田よりやや黒い程度で、ムタのほうがむしろ黒いように私には思われます。
私はまったく覚えていませんでしたが、動きは軽快です。ヤングブラッドと組んでブロディ&ハンセン組と対戦した1982年の世界最強タッグ決定リーグ戦は見ごたえのあるものでした。
端正な顔立ちと鍛え上げられた肉体を持つアイドル系のベビーフェイス
Wikipedia>リッキー・スティムボート(2023/03/03閲覧)
やはりブッチャーは体型的に黒豹にはなれないようです。また、黒豹には「端正な顔立ち」が必要なのかもしれません。
豹変するもの
3代目「南海の黒豹」の若嶋津の取組も動画を見てみました。北の湖、千代の富士、北尾、朝潮、北天佑、若花田、貴花田より黒いものの、さすがに小錦ほどは黒くありません。種子島の小学校を卒業して、家族とともに鹿児島市内の中学・高校に通っています。
南国出身の精悍な顔立ちで、「南海の黒豹(クロヒョウ)」の異名で呼ばれ
Wikipedia>若嶋津六夫(2023/03/03閲覧)
またしても「精悍な顔立ち」です。大相撲では重要な要素なのかもしれませんが、太らない体質だったことは有名です。
セフォーに関しては「精悍」とも「端正」とも顔立ちに関する記述はありません。
笑顔を見せながら得意技のブーメランフックを武器にノーガードで打ち合うなど、観客を沸かせる戦い方を重視したファイター。
Wikipedia>レイ・セフォー(2023/03/03閲覧)
ガンバ大阪のパトリック・エムボマは「浪速の黒豹」でした。エムボマは生まれがカメルーンで、フランスとの二重国籍です。カメルーンは沿岸国ですが、少なくとも日本から見て「南海」ではありません。
とりあえずわかったことは、(1)「南海」は適度に南であればよい、(2)「黒」いこともあまり重要な要素ではない、(3)「豹」は日常的に接する動物でないことからあくまでもイメージの世界ということです。「褐色の弾丸」よりかなりファジーです。
ちなみに、換毛期のヒョウがその前後で鮮やかに変わることから「豹変」という言葉ができたとする説があります。換毛で変化するのはヒョウに限った話ではありません。あいにくビフォー・アフターの画像は見つけられませんでした。
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