国道305号線の越前町・玉川トンネル崩落事故

つい最近までまったく知らなかったのが、福井県越前町で1989年7月16日に発生した玉川岩盤崩落事故です。死者15人の事故なら記憶の断片ぐらいあってもよさそうなものですが、まったく覚えていません。

場所を調べてみると、私はこの付近の国道305号線を通ったことがあるはずです。1回目は事故前ですが、2回目は10～15年ほど前です。事故のことを少しでも覚えていたら、「ここが例の…」ということになりそうですが、そんな記憶さえありません。

崩落事故から半月後の8月1日、川崎市高津区蟹ヶ谷で起きた死者6名の土砂崩れ事故は覚えています。世間的にはこっちの事故はすっかり忘れられているものと思われます。

私の中でトンネル事故と言えば、1996年2月10日の積丹半島・豊浜トンネル事故です。豊浜トンネルの場合、岩盤がトンネルに突き刺さるように崩落し、これを除去しないと救助が行えないという制約がありました。

トンネル内に閉じ込められた20人の安否を確認できないまま、トンネルにのしかかった岩盤を爆破することになりましたが、岩盤がもろく除去するまで4回の爆破を要しました。20人の犠牲者のうち1人目が発見されたのは2月16日、バスの乗客乗員19名の遺体が収容されたのは17日です。

長引いたことで情報量は多かったはずです。豊浜トンネルに滑り落ちた岩盤は高さ70m✕幅50m✕厚さ15ｍだそうです。

豊浜トンネル事故では通勤通学時間帯の路線バスが巻き込まれましたが、越前海岸の崩落事故に遭遇したのは慰安旅行で石川に行き滋賀に帰る途中のマイクロバス（白バス）です。車内ではカラオケの最中だったようです。

豊浜の岩盤は滑り落ちて直立したような状態でトンネルに突き刺さりましたが、玉川の岩盤は海に向かって倒れ込みロックシェッド（覆道）ごとバスを押しつぶしました。その構造上、ロックシェッドは多少の落石には有効です。

倒れた岩盤は高さ25ｍ✕幅40ｍ✕厚さ5ｍということです。先端部分がロックシェッドを直撃しています。岩盤自体は落ちた衝撃で粉砕され、大半は擁壁との隙間に落ちました。道路部分に落ちたのは岩盤全体からすれば一部ですが、天井ごとバスをつぶすには十分な大きさだったようです。

マイクロバスを追尾するかように地元局がハンディカムを回していたということです。1989年当時のハンディカムなら浅野温子のCMです。（当時の）パスポートサイズです。撮影された映像はFNN系で何度も流されたということですが、私は初めて見ました。

事故後、新たに玉川トンネルが掘られて、海岸沿いの観光ルートは廃止されています。

京都大学防災研究所の論文に次のような記述がありました。

崖を見通す位置にある玉川ビューホテルからの通報は15時24分である
京都大学＞1989年越前海岸落石災害における岩盤崩壊家庭の考察　8ページ

この玉川ビューホテルを探しましたが見つかりません。崩落現場は海からは見えますが、陸上では角度的に難しそうです。

唯一気になるのが温泉マークです。どうやらここが玉川ビューホテルのようです。最新2023年3月のストビューではほぼ更地になっています。この敷地自体も裏は崖です。

2012年7月撮影の過去ストビューではホテルの建物は健在です。

さて、豊浜も玉川も凍結融解が崩落の要因の1つであろうと思われます。水が凍ると体積が9％増加します。岩の割れ目に溜まった雨水や地下水が冬に凍結して、これが繰り返されることでやがて限界に達して崩落に至るというメカニズムには納得感があります。

豊浜の事故は2月です。最寄りのアメダス観測所は余市です。1996年2月の余市の日最高気温と日最低気温は次のとおりです。溶けては再凍結が繰り返されていました。

▲余市の日最高＆日最低気温

越前海岸・玉川の最寄りアメダスは越廼（こしの）です。前夜から雨が降り出し、7時までの1時間雨量は28ミリで注意報クラスです。11時以降の降水は観測されておらず、崩落は15時半前に起きています。雨が直接に引き金を引いたわけではなさそうです。