「越生」と「生越」
「越生」または「越生」で地理院地図を検索してみました。
群馬 | 昭和村生越 | おごせ |
埼玉 | 越生町 | おごせ-まち |
岐阜 | 岐阜市田生越町 | たしょうごえ-ちょう |
大分 | 豊後大野市緒方町越生 | こしお |
東武越生線があり、JR八高線の越生駅があることから、埼玉県越生町の「越生」は、難読ではあっても認知度は高いものと思われます。越生町Webサイトには由来について次のように記載されています。
語源については諸説がありますが、平野と山地の接点にあたる越生からは、秩父に向かうにも、上州に向かうにも尾根や峠を越えなければなりません。それに由来した『尾根越し(おねごし)』の『尾越し(おごし)』という言葉から変化したという説が有力視されています。
越生町>越生町とは? 町名の由来
越生から秩父方面は明らかに峠越えになりますが、越生は必ずしも東京から群馬に向かうメインルート上にあるわけではありません。
越生から群馬はそれほどの峠越えにはならないはずです。
八高線の標高
八高線の最大標高地点は金子駅の少し南側で150m台ということです。拝島駅から北藤岡駅までの標高を調べてみました(数値はアバウトです。駅の基準標高ではありません)。
越生駅はこの区間ではもっとも標高が低いことがわかります。たいした勾配ではないにせよ、北に行こうが南に行こうが上り勾配になるわけです。市のサイトでは秩父と上州の2方向が例示されているだけですが、実際には西と南北の3方向が尾根超えになると言えなくもありません。
問題の核心は、「おごせ」に「生越」ではなく「越生」の文字を当てたことです。「生」は川崎市麻生区(あさお-く)のように「お」と読む場合があります。「生越」を「おごし」あるいは「おごせ」と読むのは私の中では納得できる範囲内です。
1文字目の「生」を「お」と読むケースは実在します。
秋田 | 田沢湖町生保内 | おぼない |
山形 | 酒田市生石 | おいし |
岡山 | 笠岡市生江浜 | おえはま |
「生越」は「おごせ」と読めなくはありませんが、「越生」で「おごせ」と読ませるのは無理があります。ちょっと物足りないのです。
たしかに「越」を「お」と読むことがあります。千葉市緑区と大分県津久見市には越智小学校があります。「越智」の地名は松山市と奈良県高取町にもあります。
「生」は「せ」とも読みます。あいにく「早生」の地名は見当たりませんが、岡山・兵庫県境に「日生(ひなせ)駅」があります。もともと「せい」の音読みは常用漢字表にあるわけで、二重母音が短母音に短縮化されたと考えればいいだけのことです。
「ご」はどこから?
「お」と「せ」に関しては問題はありませんが、「ご」はどこから湧いたのでしょうか? いくらなんでも「生」を「ごせ」とは読まないでしょうから、「ご」は「越」管轄のはずです。「越」を「こえ」あるいは「こし」系統で訓読みする事例は豊富にあります。
埼玉 | 越谷市 | こしがや-し |
埼玉 | 川越市 | かわごえ-し |
新潟 | 上越市 | じょうえつ-し |
福井 | 越前市 | えちぜん-し |
秋田 | 由利郡北打越村 由利郡南打越村 | ~UTETU-むら | →由利本荘市 |
宮城 | 登米郡石越町 | いしこし-ちょう | →登米市 |
宮城 | 刈田郡越河町 | こすごう-ちょう | →白石市 |
福島 | 田村郡大越町 | おおごえ-まち | →田村市 |
神奈川 | 鎌倉郡腰越町 | こしごえ-まち | →鎌倉市 |
新潟 | 西蒲原郡打越村 | うちこし-むら | →新潟市 |
石川 | 石川郡鳥越村 | とりごえ-むら | →白山市 |
兵庫 | 赤穂郡坂越町 | さこし-ちょう | →赤穂市 |
「ご」はどう考えても「越」の所管だと思われます。鎌倉時代から「越生郷」の地名はあったそうです。最初から「越生」で「おごせ」だったのでなく、たとえば「尾越生」の「尾」が何かの機会に脱落して、「越生」で定着したのではないかと思ったりもします。
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