北緯19度の海南島
米軍機によって撃墜された中国のスパイ気球について、14日付「ワシントンポスト」が海南島から打ち上げられたものだと報道しています。海南島は南シナ海に浮かぶ島です。トンキン湾の向かい側は(西側)はベトナムになります。一般的には中国領土の最南端と理解していいはずです。
面積が約3.3万km2ということですので、約3.7万km2の九州島よりやや小ぶりです。台湾を除けば中国最大の島でもあります。空軍なり海軍なりの基地はあって当然ですが、北緯19度台というのが私には引っ掛かります。素直に受け取っていいのか迷うところです。

なぜなら、赤道を挟んだ緯度30度以内は、貿易風と呼ばれる偏東風が吹いているはずの地域だからです。日本列島が属する30~60度の中緯度地方は偏西風です。太平洋戦争末期の風船爆弾をアメリカ大陸まで運んだジェット気流は北緯30~40度とされています。
このため、私は今回の放球地点は上海(北緯31度台)以北だろうと思っていました。浙江省の可能性は排除していませんでしたが、福建省以南は完全に「容疑対象」外と考えていたのです。
今回の報道で、改めて貿易風について調べてみました。15度説があります。
貿易風は北緯15度近辺と南緯15度近辺の上空を東から西へ吹く風
一般社団法人日本埋立浚渫協会>海の基本講座 海流
Wikiは30度説のようです。
低緯度帯における大気は、赤道付近の熱帯収束帯で温められた空気が上昇し、その後、上空で極地に向かうと南北の両緯度30度付近にあたる亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)で下降する。
Wiikipedia>貿易風
どっちなんだい?
もちろん、一律に30度や15度と決まっているわけではないはずです。地形的な特性はあるのでしょうし、飛行機のフライト高度と海面上では逆になるかもしれませn。埒が明かないので、JALさんにお伺いを立てることにしました。
東南アジア各路線の時刻表から飛行時間を算出してみようという作戦です。オーストラリアの往路・復路がほぼイーブンなのは知っていますが、オーストラリアは赤道をまたぐのですからイーブンでいいわけです。
航空機の時刻表は現地時間表記のはずです。明記されていませんでしたので不安はありますが、その理解で不都合はありませんでした。往路に時差をプラスして、復路ではマイナスすれば実飛行時間が算出できるはずです。ベトナムとは時差2時間で、マニラやシンガポールや台湾は時差1時間です。
JL077 | 羽田→マニラ | 01:30→05:30 | 4:00 | 往5:00 |
JL078 | マニラ→羽田 | 23:45→04:50 | 5:05 | 復4:05 |
JL741 | 成田→マニラ | 09:30→13:35 | 4:05 | 往5:05 |
JL742 | マニラ→成田 | 14:50→20:05 | 5:15 | 復4:15 |
JL035 | 羽田→シンガポール | 00:05→06:50 | 6:45 | 往7:45 |
JL036 | シンガポール→羽田 | 22:25→05:55 | 7:30 | 復6:30 |
JL037 | 羽田→シンガポール | 10:50→17:30 | 6:40 | 往7:40 |
JL038 | シンガポール→羽田 | 22:25→05:55 | 7:30 | 復6:30 |
JL751 | 成田→ハノイ | 18:00→22:25 | 4:25 | 往6:25 |
JL752 | ハノイ→成田 | 23:55→06:40 | 6:45 | 復4:45 |
JL079 | 羽田→ホーチミン | 01:30→05:50 | 4:20 | 往6:20 |
JL070 | ホーチミン→羽田 | 23:45→06:05 | 7:05 | 復5:05 |
JL097 | 羽田→台北 | 08:55→11:30 | 2:35 | 往3:35 |
JL096 | 台北→羽田 | 09:10→13:20 | 4:10 | 復3:10 |
例外なく復路のほうが所要時間は短いようです。しかも、ほぼ赤道直下のシンガポールでも復路が短くなっています。ということは、インドシナ半島方面から日本に戻るときの復路は追い風になると考えてよさそうです。

海南島の海軍基地と空軍基地
それなら、海南島から偵察気球を飛ばしたとき、特別な推進力を備えていなくても日本方面に流れて来るのは自然なことという結論になります。高度調整については自在にコントロールできるのかもしれません。それにしても、教科書的な貿易風はどこに行ったのでしょう?
さて、私は領空侵犯した気球をいちいち撃墜する必要はないと考えています。もし、侵入→撃墜が常態化するようなら、私なら喜んで毎日でもニセ偵察気球を飛ばし続けることでしょう。気球とミサイルとどっちが高価なのかという問題です。
その意味では「過剰反応」だという中国側の言い分は的を射ているわけです。ただ、大半は海に落ちるのでしょうから、そのうち船のスクリューやクジラに絡んだりすることになるのでしょう。和紙とコンニャク糊による日本軍の風船爆弾は地球にやさしかったと言えそうです。
【外部リンク】
【1】■産経新聞>中国気球は海南島発 米追跡続ける 撃墜3物体は「無害」 2023/2/15
【2】■CNN>中国潜水艦が地下基地を使用する場面か、衛星写真が波紋 2020.08.22
気球を放球したのは空軍ということですが(上記リンク【1】)、海南島の海軍基地(上記リンク【2】)は地下施設になっているそうです。

海南島には中国軍の空軍基地が複数あります。報道の情報だけでは偵察気球の発射基地を特定できません。

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