クローラー(キャタピラー)式のユンボ
奈良県御所市(ごせ-し)の建設業者に86歳の近隣老人が駆け込んできたのは、3年前の10月だったそうです。田んぼで稲刈り機のクローラーが切れて走行不能になったので引き上げてほしいという依頼でした。
懇願された建設業者さんはこの依頼に応じて、ユンボで田んぼからコンバインを引き上げました。田んぼとの往復では公道を走行しています。このユンボはタイヤ式ではなくクローラー式です。
4輪タイヤ式のユンボならナンバープレートの取得など一定条件を満たせば公道を走ることができます。クローラー式のユンボを合法的に公道走行させるのは至難の業かと思われます。自賠責に入れず車検もないはずですので事実上不可能です。
この建設業者さんは運転免許としては大型を取得していましたが、大型特殊免許は持ち合わせていません。6トンのユンボだったため、警察は大型特殊免許が必要と判断しました(そもそも法律では道路走行できない重機ですので、免許の有無に関わらずアウトはアウトです)。
どうやら検察は不起訴にしたようです(外部リンクC)が、公安委員会は2年間の免許取り消しを決めました。刑法上は罰金さえない「無罪放免」であり、行政罰としては「免許外運転」として2年の免許取り消しというグレーな決着です。
道路走行できないクローラー式
赤線はMBSニュースで報じられたユンボの走行ルートです。
稲刈り途中の田んぼは画像中央下に見える茂みの右下だったようです。次のストビューではたぶん右の2つ目です。
建設業者さんは反時計回りに左から田んぼに行き、右を通って保管場所に戻ったようです。車の免許が取り消されたため、本来の仕事ができない2年間を過ごすことになりました。
引き上げただけ
田んぼは車両走行に向かない軟弱な凸凹路面ですから、農耕機の故障はよくあることです。普通は販売店なり専門業者なりにヘルプを求めるものだろうと思われます。なぜ86歳の老人は近隣の建設業者さんに助けを求めたのでしょう。
もし86歳老人がスペアのクローラーを持っていて、建設業者さんがそれを取り付けたのなら「人助け」だと言えるのでしょうが、彼はただ動かなくなったコンバインを引き上げただけです。
水分量の多いレンコン畑なら放置すると自重でより沈み込んでしまうかもしれませんが、稲刈り時期の田んぼならコンバインを1晩放置したところで深刻なことにはならないものと思われます。コンバインも大型ではなく2条刈りかせいぜい3条刈りと推測されます。
引き上げただけでは、クローラーのゴムが切れてしまったコンバインは相変わらず動きません。結局、業者が来て修理したはずなのです。
クローラー交換程度の作業なら田んぼの中で対応できないわけではありません。引き上げが必要だったとしても、修理業者の修理代には引き上げの手間賃が含まれるはずです。それなら、「人助け」というほどのことはなかろうとも思えてしまいます。
元動画です。ここで触れられていないのは、この裁判はあくまでも免許取り消しという行政処分の取り消しを求める裁判だということです。無免許運転の刑事裁判ではありません。
時速2キロで計1.5キロを走行したのなら、それだけで45分です。
【外部リンク】
A■奈良県>予算審査特別委員会記録(15~16ページ) 2021/10/04
B■川口正志オフィシャルサイト>お知らせ2022年8月
C■川口正志オフィシャルサイト>田舎の共助!9カ月に及ぶユンボ裁判結審される!
D■川口正志オフィシャルサイト>奈良県だけの法律なのか?法の解釈があらぬ方向へ!奈良地裁は訴えを棄却!
E■読売新聞>公道走れぬ重機 免許必要か 2022/11/10 05:00
F■YAHOO!ニュース>人助けで重機走行→運転免許取り消し 男性訴えるも「緊急性あったと言えない」と棄却 4/21(金)MBSニュース
G■dメニュー ニュース>【速報】「困っている人助けたのに…」重機で公道走行し免許取り消し 男性の控訴棄却 MBSニュース4/21(金)
私の推理
86歳老人に建設業者を陥れるつもりがなかったのなら、次のようなストーリーに乗ってもらえたかもしれません(実際には当日のうちに警察に公道走行を認めているようです)。
(1)クローラーのゴムが切れて、コンバインが窪みにはまり横転した
(2)稲刈りについてきた愛犬が横転したコンバインの下敷きになった
(2)この犬を助けるためにショベルカーに来てもらった
野良犬でいいのです。どうせ犬は証言できません。想像上のペットですから、つくり話の展開上死んでもらったところで良心は痛みません。これで完璧に口裏を合わせたとしても、ユンボを出すほどではないという判決になりそうです。ショベルカーでなくてもショベルで済むよね、と。
で、私の推理です。86歳老人は建設業者に「ユンボでコンバインを引き上げてほしい」と直接的に依頼したのではないのかもしれません。建設業歴30年ということですから、建設業者はコンバインを操作した経験はないはずです。ただ、地域性からしてまったく未知の農耕機というわけでもないでしょう。
切れたクローラーを交換しないとコンバインが動かないこと、自分が行っても引き上げることしかできず問題の解決にならないことがわかっていたら、わざわざユンボを出さないのではないかと私には思われるのです。
つまり、86歳老人との最初のやりとりで建設業者に伝わったのは、次の2点だけだったのかもしれません。
(1)老人が困っていること
(2)ユンボで田んぼまで来てくれるように強く望んでいること
状況がよく飲み込めないままとりあえずユンボを出動させてみたら、実は役に立てることはあまりなかったというのが真相かもしれません。そのように考えたときには「人助け」が理解できます。無念を隠さない建設業者の心情が理解できるのです。
公道でのフォークリフト荷役はNG
さて、次のストビューは御所とはまったく関係ありません。駐車禁止の標識があることから道路交通法が適用される道路(たぶん公道)です。奥のトラックは道路上に停まっています。その隣ではダンボール箱がパレットの上に乗っています。
このストビューのフォークリフトに(この画角で見える範囲では)ナンバープレートは付いていません。手前のパレットは道路にはみ出す形で重ねられています。フォークの公道走行については次のような制限があります。
走行・運行については以下のような制限があります。
トヨタL&F東京株式会社>よくあるご質問
1.公道では荷を積載しての走行はできません。
2.公道では荷役作業はできません。※1
3.公道ではけん引走行はできません。
4.作業灯を点灯したままでの公道走行はできません。
※1 フォークリフトは道路交通法上、所轄警察署長の道路使用許可を受けている場合以外は公道での荷役作業はできません。
道路使用許可を受けているかどうかは外見ではわかりません。正式に許可を取っている可能性がないわけではありませんが、黙認という名の半永久的許可のように思えます。このようなケースとのアンバランスが指摘されることにはなりそうです。
御所がアウトなら、ナンバープレートのないトラクターによる除雪動画などもアウトになってしまいます。近隣住民としてはトラクターで生活道路を除雪してもらえるのなら大助かりです。警察がいきなり2年間の免許取り消しだと騒ぎ立てたらギスギスするだけです。
やはり「今回は不問、次回は許可を取ってくれ」が大岡裁きというものではないかと思われます。検察はそういう柔軟な対応だったのでしょう。
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