災害時の道路啓開計画を促されていた北陸地整

啓開とは

「Microsoft IME」で「けいかい」を変換しようとすると、熟語としては「警戒」と「軽快」にしか変換できません。「Google 日本語入力」では、ほかに「啓会」「慶会」「敬会」「荊芥」「計会」「経界」「啓開」「景戒」に変換可能ですが、私は使ったことがありません。

国交省の地方整備局は東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州の8つです。北海道は北海道開発局が、沖縄は沖縄総合事務局がその機能を担っています。北陸地方整備局は新潟、富山、石川の3県と長野県の一部を管轄します。福井県は近畿地方整備局に、三重県は中部地方整備局に属しています。

「啓開」とは、船の進路を確保するために機雷の除去や沈没船の引き上げなどを行うことを指すミリタリー用語だそうです。震災関連用語としては、救命目的の緊急車両の通行を確保するために発災直後に基幹道路の段差を解消したり瓦礫を取り除いたりすることを言うようです。

成功例とされる東日本大震災時の「くしの歯作戦」は大畠章宏・国土交通相から全権を任された徳山日出男・東北地方整備局長が発災後に立案したものです。基幹道路から順に緊急車両が通れるような最低限の道を確保するというものでした。

ただ、特定の業者に対して各道路管理者からの発注が重なってしまうこともあったようです。そうした反省から2013年に道路法が改正され、自治体等の関係機関との協議会を設置できるようになりました。協議会では道路啓開計画を策定しています。

国交省Webサイトの「道路啓開計画」のページには、全国の啓開計画が公開されています。

北海道北海道道路啓開計画
東北くしの歯作戦
北陸
関東首都直下地震道路啓開計画
中部中部版くしの歯作戦
近畿大阪府域道路啓開計画、
兵庫県阪神淡路地域道路啓開計画、
和歌山県道路啓開計画
中国
四国四国扇作戦
九州九州東進作戦
沖縄沖縄における道路啓開計画
▲道路啓開計画

北陸と中国が空白です。概して日本海側の進捗が遅れているようです(新潟は県独自に策定)。

空白地帯の北陸

総務省では2023年4月に「国土交通省は、協議会等の場を活用して情報提供等を行うことにより、道路管理者が、協定締結先民間事業者等における災害発生時に対応可能な人員・資機材を把握し 、不足分の対応の検討を含めた人員・資機材の確保を行うよう、取組を促すこと」との勧告を行っています。

「災害時の道路啓開に関する実態調査」の結果に基づく勧告
総務省>「災害時の道路啓開に関する実態調査」の結果に基づく勧告

中国地方は比較的大きな地震が少ないながらも、M7クラスの地震としては1872年の浜田地震、1905年の芸予地震、1943年の鳥取地震などがあります。

なお、総務省は国交省に道路法第28条の2に基づく協議会を設置して啓開計画を策定するよう求めています。協議会がないからといって石川県に災害時の協定がないというわけではないはずです。この協議会とはどのようなものなのか、和歌山のケースを調べてみました。

和歌山の計画は南海トラフ地震に伴う津波浸水を想定したものです。近畿地方整備局が和歌山県、市町村、NEXCO西日本、自衛隊、和歌山県警、各建設関係団体、関西電力、NTT西日本とともに策定しています。

今ならリモートでしょうが、協議会設置当時はリアルな顔合わせだったはずです。策定した道路啓開計画に基づいて緊急仮設橋の組立訓練をしたり、分散した倉庫に鋼材、管渠、砕石などの資機材を備蓄したりしているようです。

いくら計画を策定して協定を結んでも、発災時は業者の一定数も被災しているはずです。作業人員だけでなくユンボやレッカー車の重機も計画どおりに出せるとは限りません。

県庁内の啓開作業一元化窓口から固定電話や携帯電話で業界団体に連絡を取ることになっていますが、通信が遮断されれば連絡は末端まで行き届かないことになります。ただ、それが見えるだけも計画策定や啓開訓練の意味はあります。

補正予算は組まない?

半島の特殊性があるのだとしても、今回の能登半島地震では復旧のペースが遅いように思われます。過疎地で空家が多く、管理されていない家屋の倒壊率は高かったはずです。発災は16時10分で、当日の日の入り時刻は輪島で16時45分です。

津波もありましたから、当日中に被害状況を把握するのが困難だったのだろうとは思われます。東日本大震災では、17時39分が仙台の日の入り時刻です。名取川を遡上する津波の映像はリアルタイムで流れていました。何が起こるかの想像はある程度つきます。

報道によると、七尾市内の建設会社は発災後いつでも出動できる状態だったが、いつまで経っても県から発注がこず、勝手に道路を直すわけにもいかないと困惑していた。また、東海地方のある建設会社の関係者から聞いた話では、これまで東日本大震災、熊本地震では発生直後に出動要請がきたため、今回も1月2日から出動できる態勢を整えていたが、今日に至るまで要請がないという。

YAHOO!NEWS>「半島という立地」「険しい地形」だけが原因じゃない…能登半島地震で“道路復旧”が遅れる“意外な要因”(文春オンライン) 1/23

確認できませんでしたが、同じような報道がほかにもあったはずです(関西の業者でした)。需要と供給はアンバランスです。スタンバイしているのに発注がないのは、協議会未設置がそうさせた可能性もあります。

地元の業者で充足できるという判断かもしれませんし、予算を考慮して遠隔地の業者への依頼をためらっているのかもしれません。今のところ、岸田内閣は予備費で対応して補正予算を組まない方向のようです。

発災日1次補正予算額成立日
阪神淡路大震災1月17日1兆223億円2月28日
東日本大震災3月11日4兆153億円5月2日
熊本地震4月14日7780億円5月17日
▲補正予算

まだその段階ではないとしても、検証は必要なのでしょう。どうせ偽装にしかならない派閥解消にうつつを抜かすのは優先順位が違うように思われます。

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