コンコルド墜落地点はド・ゴール空港から9.5キロではない

音速は時速何キロなのか?

私は音速を「時速1190キロ」と覚えていました。Wikiには空気中の音速として次の計算式が掲げられています。

331.5-0.061t(tは摂氏温度)

Wikipedia>音速(2022/01/19閲覧)

この計算式をExcelに投げ込んでみました。

気温秒速時速
0℃331.5 m/s1193.4 km/h
5℃334.5 m/s1204.2 km/h
10℃337.5 m/s1215.0 km/h
15℃340.5 m/s1225.8 km/h
20℃343.5 m/s1236.6 km/h
25℃346.5 m/s1247.4 km/h
30℃349.5 m/s1258.2 km/h
35℃352.5 m/s1269.0 km/h
▲空気中の音速

私が覚えていた「時速1190キロ」とは0℃のときの音速だったのでした。音速は一般的には15℃のときの1225km/sが使われているようです。物理の試験問題では「音速は340m/sとする」と添えられるのが一般的だそうです。

「トンガの噴火がもたらした感動的な気圧変化(空振)」のページには「1190キロ」を記載しましたが、間違っているわけでもありませんので今はまだ訂正せず当面は放置します。文系の私は理科の選択科目は生物と化学でした。音速の数値を97%で覚えても日常生活を送るのに不自由はありません。

いつ頃「時速1190キロ」を身に着けたのか定かではありません。コンコルド就航は1975年ということですので、おおかたその前後だろうと推測されます。救急の番号に関連付けて覚えていたわけです。

コンコルド墜落事故

コンコルドの墜落事故は2000年7月です。Wikiには次のような記載があります。

機長は緊急着陸のため5km先にあるル・ブルジェ空港に向かおうと高度を上げようとしたが、エンジン推力低下やエレボンのコントロール消失により、高度が低下し、やや左にそれて飛行した。やがて機首を上にした状態で失速し、離陸から2分後の16時45分にシャルル・ドゴール空港から南西約9,500m離れたヴァル=ドワーズ県ゴネスにあったホテル「オテルイッシモ」の別館レストランの敷地の北側に現地時間午後4時44分に後部から墜落し

Wikipedia>コンコルド墜落事故(2022/01/19閲覧)

「16時45分」と「午後4時44分」の相違については華麗にスルーします。もし真実が「16時44分44秒」なら、都合よくどちらの顔も立ちます。この1分の相違は時速1190キロと同じようなものです。

問題は出発地であるド・ゴール空港と、機長が緊急避難先として選んだル・ブルジェ空港、それに墜落地点の位置関係です。「5km」「9,500m」なら、墜落地点のほうが遠くにあります。コンコルドは緊急避難先の空港を通り越して墜落したことになります(あるいは方向違い)。

Google Mapで墜落地点を探してみると「コンコルド墜落記念碑」がヒットします。翻訳の問題だとしても「墜落記念碑」はなかろうと思いますので、私は「慰霊塔」と呼ぶことにします。

墜落事故の慰霊塔

墜落地点から9.5キロは空港敷地の外

戦艦大和のケースもありますので必ずしも慰霊塔=墜落現場とは限りませんが、消火作業などの映像でもこの付近であることは間違いありません。コンコルドは北から317号線を越えて、902号線の手前で墜落しています。厳密には慰霊塔より少し西側が消火活動の中心です。

コンコルド墜落地点

コンコルドはド・ゴール空港の4200m滑走路(ピンク)を東から西に離陸しました。5分前に離陸した飛行機が落とした長さ43センチ幅2.5センチの金属部品が原因で離陸滑走中にタイヤがパンクし、重量4.5キロのタイヤ片が主翼を直撃します。

この衝撃で燃料タンクの栓が抜けてこぼれた燃料がエンジンに降り注ぎ、左翼が炎に包まれます。管制塔から出火の連絡を受けても機長はなすすべもありません。すでに十分に加速していて、いまさら離陸を中止できません。着陸には3キロ必要だそうですが、滑走路は残り2キロです。

ル・ブルジェ空港の3000m滑走路()はほぼ延長線上です。機体をうまくコントロールできれば、着陸できるかもしれません。状況を把握できない機長はその可能性に賭けたことになりますが、離陸するにも出力不足だったようです。

いずれにせよ、Wikiの「南西約9,500m」は明らかに誤りです。慰霊塔から北東9.5キロ地点()は空港敷地外の畑です。

2011年6月の編集前は6キロ

Wikiの編集履歴を調べてみました。2011年6月17日9:25の編集で「約6km」「約9,500m」に書き換えられています。空港は点ではなく面です。ド・ゴール空港の敷地は東西に6キロ以上、南北も4キロあります。

慰霊塔から6キロ()地点はちょうど空港の円形ターミナルの中心部分です。イミグレもここにありますので、空港を点で捕らえるならもっとも適切妥当です。「約6km」はそういう数値です。

もう1つの「5km先にあるル・ブルジェ空港」とは、どういう測り方になるのでしょうか。これは両空港の敷地端と敷地端の最短距離であろうと思われます。近さを強調しようとするとこうなるのでしょうが、起点が異なるというトラップが隠されています。

結局、墜落したのはル・ブルジェ空港の手前なのですが、よくわからないのは「約9,500m」がどこから湧いたのかということです。悪意のある編集ではないはずです。

結果的に、コンコルドは緊急着陸を目指したル・ブルジェ空港の格納庫に収められます。事故調査のために機体の残骸が運び込まれたわけですが…。

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