1003山を集約
上州かるた「裾野は長し赤城山」の読み札では、赤城山を「あかぎやま」と読みます。「紅葉に映える妙義山」は「みょうぎさん」です。国土地理院の「1003山」では赤城山に対して「あかぎさん」の読みが採用されおり、備考欄で「あかぎやま」の読みが付されています。
左右対称で津軽富士と称される岩木山は、山岳名称としては「いわきさん」で定着しているようですが、山頂にあるのは岩木山(やま)神社の奥宮です。松村和子は「帰ってこいよ」で「お岩木山」を「おいわきやま」と歌っており、2015年リリースの三上ひろし「お岩木山」も「おいわきやま」です。
このように必ずしも固まっていないケースもあるわけですが、ウダウダ言っても始まりませんので、国土地理院の読みに従って集約してみました。
全国 | 北海道 | 東北 | 関東 | 中部 | 近畿 | 中国 | 四国 | 九州 | |
だけ、たけ | 368 | 67 | 45 | 9 | 181 | 26 | 4 | 0 | 45 |
やま | 342 | 32 | 36 | 47 | 119 | 42 | 31 | 23 | 30 |
さん、ざん | 224 | 14 | 37 | 36 | 51 | 29 | 23 | 22 | 19 |
みね | 16 | 0 | 1 | 1 | 6 | 4 | 2 | 2 | 0 |
せん、ぜん | 15 | 0 | 1 | 0 | 1 | 2 | 12 | 0 | 0 |
もり | 15 | 0 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 10 | 0 |
ぷり | 6 | 6 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
その他 | 17 | 3 | 2 | 0 | 6 | 0 | 1 | 4 | 1 |
計 | 1003 | 122 | 127 | 93 | 364 | 103 | 73 | 61 | 95 |
身近な「やま」、遠く険しい「だけ」
私の語感としては、昼を過ぎても登ってみようと気軽に思えるのが「やま」、早朝出発必須の1日遠足コースが「さん」、山小屋なりキャンプなりの宿泊を求められるのが「だけ」です。身近であるかどうかに着目して次のような序列になります。
「やま」>「さん」>「だけ」
この距離感は「ちゃん」と「さん」と「様」に対応するかもしれません。「1003山」にピックアップされた標高3000m以上の山は23あります。このうち20が「だけ」です。富士山と御嶽山と立山が例外になります。
300m未満の山は17あります。そのうち11が「やま」です。「だけ」は与那国島の宇良部岳とトカラ列島・宝島のイマキラ岳、「さん」グループは静岡市の久能山(くのうさん)と徳島市の眉山(びざん)の2つ、ほかに松島の絶景スポット・大高森と種子島の天女ヶ倉(あまめがくら)です。
おさびし山もカチカチ山もゲンコツ山も、対象年齢の想像力がついていける範囲の近しい世界でなければ物語が始まりません。「やま」でなければならないのです。そういう意味で、人口が多く平地が広がる関東で「やま」比率が高いのは納得です。
紀伊山地を中央に抱える近畿は関東より「だけ」比率が高くなりますが、「やま」比率が多いのは香久山(かぐやま、香具山とも)・畝傍山(うねびやま)・耳成山(みみなしやま)の大和三山で想像がつきます。三山ともに標高100m台とはいえ、古代から人口が多ければ区別のための名前はつくわけです。
東北は「やま」より「さん」が多い
四国最高峰・石槌山の山頂は天狗岳ですが、四国には「だけ」がありません。標高1647mの愛媛・二ッ岳(ふたつだけ)は「1003山」に採用されていません。四国百名山ではほかに標高245mの徳島・千羽ヶ岳(せんばがだけ)があるだけです。
四国は盆地も少なく、Wiki「日本の盆地」カテゴリーの76ページには大洲盆地と宇和盆地しか入っていません。三好市中心部の阿波池田駅付近も盆地と呼べるボリューム感には欠けます。だからと言って、森林限界を超える山はありません。そこで「もり」が登場したものと思われます。
九州は「だけ」比率が5割近くです。四国と異なり、すぐに思いつく盆地として日田や人吉や都城があります。凹凸の激しさが「だけ」を増やしたのかもしれません。離島の「だけ」も貢献しています。
北海道は九州以上の「だけ」比率です。面積にくらべて人口は少ないわけですから、山との距離はあります。なお、支障はないことから「ぷり」で集約しましたが、山はアイヌ語で「ヌプリ」です。川を意味する「ナイ」や「ベツ」は北東北まで分布していますが、さすがに「ぷり」は北海道オンリーです。東北百名山にも「ぷり」は見つかりません。
東北は唯一「さん」が「やま」を上回っています。次の埋め込み動画は0:50から始まります。10/13放映のウェザーニュースLiVEだそうです。山口気象予報士と内田キャスターの説は大筋で正しかったようです。ちなみに、山口氏のTwitterアカウント名は「やまたけ…」さんです。
中部は「だけ」「さん」「やま」の比率が北海道とほぼ似通っています。登るには本格的な装備を必要とする山が長野や岐阜に多いわけです。
信仰対象「さん」説
山岳信仰の対象が「さん」だとする説があります。それなりに受け入れられているようです。残念ながら、立山、浅間山、戸隠山、吉野山、三輪山、霧島山、神奈川の大山(国道246号・大山街道の大山)など、山岳信仰の対象となっている「◯◯やま」は即座に思いつきます。
この俗説になんとなく納得してしまうのは、寺院の山号の関係かと思われます。法隆寺は「斑鳩山学問法隆寺」が正式名称です。浅草観音は「金龍山浅草寺」、川崎大師は「金剛山平間寺」で、赤穂四十七士の墓があるのは「萬松山泉岳寺」です。
「成田山新勝寺」は寺院名より山号のほうが有名です。中国由来の山号が音読みの「さん」または「ざん」になるのは当然のことです。もともとは地名から「◯◯山」と称していますので、この場合の「◯◯さん」は信仰との親和性が強いわけです。
山岳信仰の対象が「さん」だとする説は、フワっとしたもので検証されたものではありません。反証のしようもないのが実情です。小笠原諸島・父島の最高峰は中央山(ちゅうおうさん)という安易なネーミングです。おそらく山岳信仰との関係はないはずですが、確認できません。
島内にある神社2か所と浄土宗寺院は山頂とは距離があります。山の入口にあると言えば、そうも言えなくもありません。2020年「宗教年鑑」によれば、国内の神道系施設は87,322、仏教系が84,329施設です。それなりの規模の山なら、濃淡の差はあっても何かしらの宗教施設を抱えているものです。
大和三山でもっとも有名な香久山は「天の香久山」です。山頂には「國常立(くにとこたち)神社」があります。いわゆる山岳信仰ではありませんが、信仰と無縁ではない山です。
【外部リンク】
■NHK放送文化研究所>ことばウラ・オモテ ヤマかサンか 2008.04.01
■文化庁宗務課>宗教年鑑2020年版
■国土地理院>日本の主な山岳一覧(1003山)
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