クルーズ船は台風を回避、タンカーはコース上に待機

大阪をキャンセルしたクルーズ船

2023年8月15日午前5時前、台風7号は潮岬付近に上陸し大阪湾に抜けて明石市付近に再上陸、主に鳥取で豪雨災害をもたらしました。去年、日本に「上陸」した唯一の台風です。

2023年台風7号
2023年台風7号(地理院タイルを加工)

12日に横浜港を出港したバハマ船籍のクルーズ船「スペクトラム・オブ・ザ・シーズ」は、13日と14日は大阪停泊の旅程でした。台風7号は12日時点の予想進路では近畿か東海への上陸が見込まれていました。

同船は大阪をキャンセルして、15日朝7時半ごろ熊本の八代港に入港しています。クルーズ船では悪天候を避けて寄港地を変更したり抜港したりするのはありがちなことです。お盆の時期の急な入港にもかかわらず、乗客4300人をくまモンと県知事が出迎えたそうです。

長崎の予定が室蘭に変わったり、ロシアが韓国に変わったりしたこともあるようで、クルーズ船の立ち寄り先は臨機応変と心得ておくのが無難です。嵐の中で揺れるより、晴天下でプールを楽しめるならそのほうがいいに決まっています。

2023年台風7号は上陸時には勢力がかなり衰えていました。雨はともかく風に関してはやり過ごせる範囲内の台風でした。

上陸時の気圧上陸時の風速最大瞬間風速(実測)
2023年台風7号980hPa30m/s37.9m/s(尾鷲)
2018年台風21号950hPa45m/s58.1m/s(関空島)
▲2023年台風7号と2018年台風21号

2018年台風21号

さて、このサイトには2021年9月4日付で公開した「宝運丸の関空連絡橋衝突-2018年台風21号(第2稿)」と題するページがあります。2019年1月15日付「宝運丸の関空連絡橋衝突」のページを書き改めたものです。

この衝突事故は2018年9月4日に徳島県南部に上陸した台風21号に起因しています。空港自体も浸水で停電する中、衝突事故により連絡橋の交通手段が絶たれたため、数千人が関空で孤立することになりました。鉄道の運転再開は9月18日、上下各3車線が全面復旧するのは翌2019年4月8日です。

衝突した船の名前は「宝運丸」、日之出海運所有で鶴見サンマリンが運行する燃料運搬船です。宝運丸は泉州港南西側で前日から単錨泊していました。台風接近とともに走錨し、下り線の橋桁に衝突したものです。衝突は13時40分とされています。幸いにも乗組員11人は無事でした。

宝運丸の走錨
宝運丸の走錨(地理院タイルを加工)

事故報告書による鶴見サンマリンに対する勧告は次のとおりです(要約)。

(1)錨泊方法は双錨泊を基本とせよ
(2)継続的に主機を使用せよ
(3)風下に重要施設が存在しない錨地を選定せよ
(4)正確な予測を行え
(5)必要に応じて運航計画を変更するなど安全支援体制を構築せよ

ごく単純な疑問が生じます。台風が来るのになぜコース上で錨泊していたのか、という大きな疑問です。クルーズ船は980hPaの台風を回避しましたが、宝運丸は950hPaの台風を迎えようとしたのです。

不起訴と言うけれど…

乗組員の安全を最優先するなら、瀬戸内海を西に向かうという選択肢があり得ます。実際にそうした船はあったそうです。宝運丸がとどまったのは次の積み込みが泉北・高石港で予定されていたからだろうと思われます。往復の燃料代は人命より重いものかもしれません。

船長は台風が錨地の東側を通過すると思っていたそうです。私は2日朝6時からの予報を調べてみましたが、予想進路の中心が紀伊半島を通る予報を確認することはできませんでした。2日前からの進路予想の中心は一貫して淡路島ないしは関空島です。

大阪湾には瀬戸内海がある
瀬戸内海があるのに(地理院タイルを加工)

船長には錨地を選ぶ権限がなかったのではないかと想像したくなります。東京湾の奥に向かってくる台風は回避しようがなく、備えたうえで湾内で祈るしかありません。大阪湾は回避できる地形です。

ところで、本日(1/7)は池田佳隆衆議院議員と政策秘書が政治資金規正法違反で逮捕され、自民党を除名されています。一連の裏金事件では60~70人の議員に容疑がありますが、起訴される議員は池田氏を含めて数名と思われます。大半の議員は起訴されないはずです。

私はもともと、この衝突事故に関しては司法取引で個人の刑事責任を免責して真実を語らせてほしいというスタンスです。船長が懲役刑をくらったところで世間的には何の足しにもなりません。連絡橋の修復費用は50億円と言われています。

以上、従前のページに「不適切」だの「曲解」だのというコメントを頂戴しましたので、改めて私の意見を申し述べた次第です。

コメント

  1. 梅太郎 より:

    宝運丸は運航会社が燃料代を負担しスケジュールを指示します。そして船舶所有会社雇用の船長がそれに従います。フェリーはこれらを同一資本ので一括して行うと思われます。従い、運営上、船長の権限も大きくスケジュール変更も比較的、容易だと推察します。加えて場所も時間も違う台風を比較対象として宝運丸に非があったか様な論調は不適切だと思います。因みに当該事故では空港3マイル以内に10数隻錨泊し大阪湾では60%以上が単錨泊で70数%が走錨し、知る限り4隻が事故に至っています。
    「人命より燃料代を優先する」るという理論は貴方にしか考えつかない愚考であって海事関係者はじめ一般的に同様の思考を持つ方は皆無だと思います。燃料代より人命を優先すべきです。
    船長は経験上、台風が東にそれるとは思ったようですが錨地の東までそれるとは思ってないようで、これらは運輸安全委員会の曲解だと推察します。
    裏金云々の卑劣な者と飛行機燃料を運びエネルギーの安定供給に従事し、自然災害に遭遇した乗組員を不起訴という言葉を持って同等に論じるのは曲解もはなはだしいと言わざるを得ない。

    • 沌惑村 より:

      ●私は船長の有罪を望んでいるわけではありません。そんなものは誰の得にもなりません。不起訴には「嫌疑なし」と「嫌疑不十分」と「起訴猶予」があります。本件では「嫌疑不十分」と報じられたはずですが、これは誤りなのでしょうか?
      ●「クルーズ船は衰えた台風でも回避した、タンカーは”非常に強い”勢力の台風を迎えた」という話ですので、異なる台風で比較しても何らアンフェアではありません。

  2. 梅太郎 より:

    嫌疑不十分だと思います。

    • 沌惑村 より:

      検察が不起訴処分とするのは次のような場合です。
      (1)被疑者が死亡した場合
      (2)親告罪で告訴が取り下げられた場合
      (3)心神喪失時の犯罪だった場合
      (4)真犯人が見つかったなど嫌疑が晴れた場合
      (5)裁判で認定される証拠が十分に揃わなかった場合
      (6)被疑者の情状などを考慮して起訴を猶予する場合
      嫌疑不十分とは、過失が否定されたのではなく、過失が裁判上認められるだけの証拠が足りなかっただけです。
      (5)のケースでは「不起訴=無実」の方程式は成立しません。(4)はシロです。(6)は被疑者が罪を認めていて「反省しているなら今回はそれでよし」です。

      • 梅太郎 より:

        保安部が何度も取り調べを行いましたが証拠を見つけることが出来ませんでした。そもそも過失がないのでその証拠も無かったのでしょう。

        • 沌惑村 より:

          ●「嫌疑不十分 嫌疑なし 違い」で検索してください。
          貴殿のような解釈で説明しているページなどありません。
          南極でワニを探すより難しいかもしれません。

          • 梅太郎 より:

            全てのパターンについてweb上に掲載されているわけではありませんよ。結局、過失とする罪が認められなかった事に変わりはありませんね。

  3. 梅太郎 より:

    タンカーは当初の予定では4日に大阪の製油所で飛行機用燃料を積む予定でしたが、台風のため翌日5日に繰延となり、遅れを取り戻す為 翌日6日は関空に供給し、同日再び大阪の製油所で積む、更にその翌日7日にまた関空に届ける。とタイトなスケジュールを運航会社から指示されてたようです。このようなコミュニケーションを取っていたので状況的に水島避難の雰囲気ではなく、その勧めもなかったようです。仮に水島避難をすると乗組員の労働時間も法律を破る事になり、何より現実的にこの過密労働環境だと更なる大事故を惹起する可能性もあった事から船長としては大阪湾にとどまる決断に至ったのではないでしょうか。推察するにフェリー船長はこの様なしがらみが無く、労働環境に相違があるので、ただ単に風が強い弱いの問題ではなく、背景を考慮すると比較対象にならないと思います。フェリー船長の避難判断は賞賛に値すると思います。
    ところで船長の罪を望んではないと言われますが、それでは何を求めての投稿でしょうか?

    • 沌惑村 より:

      ●そのスケジュールを調整するのが運行会社の責任です。どうせ台風で飛行機は欠航するのですから、そのタイトなスケジュールが必要だったとは思えません。飛行機の欠航回避のためなら、乗組員の安全は軽視してもいいという話にはなりません。ピストン輸送しなければならないほど空港のストックが少ないのなら、空港側の責任でしょう。
      ●船を動かすだけで全乗組員を総動員しなければならないのでしょうか。とってつけたような理屈です。どこに労働時間の話が出ているのかソースを示して頂けませんか?
      ●減災です。

      • 梅太郎 より:

        船を動かすのに全乗組員を総動員しますよ。

        • 沌惑村 より:

          そうですか。なら、そうかもしれませんね。
          ただ、宝運丸は「加害者」です。現実に事故を起こして、空港内に数千人を閉じ込めたのですから、本来は彼ら1人1人に詫びて回るべき立場だと私は理解しています。
          「自然災害だ、不可抗力だった」と開き直るのは被害者感情としては許容されるものではありません。「賞賛」などとんでもない話です。事故を起こした本人たちはさっさと救助されたのです。
          不安な夜を過ごし、翌日の晩まで脱出できなかった利用客の前で「事故を起こした船長は賞賛されるべき」と言えますか? そこは考え直してください。

          • 梅太郎 より:

            空港に閉じ込められた方々は多大なご苦労を強いられ、大変な思いをされたと思います。
            宝運丸は解体され、結果的に所有会社が国内事業から撤退しました。乗組員も死ぬ思いをし、ネットで散々誹謗中傷を受けた挙句、職場を追われる結果となりました。台風による自然災害の前ではある意味、宝運丸も被害者だったと思います。
            勘違いされているようですが私が賞賛しているのは宝運丸ではなく比較対象とされているフェリーの船長の避難判断です。

  4. 沌惑村 より:

    ●失礼しました、そっちでしたか。私はフェリーを取り上げていないはずですが、クルーズ船が悪天候を回避するのはありふれた日常です。自身は平気でも飛来物で損傷するおそれもあります。とくに賞賛されるような判断ではないはずです。まあ、日常になっていない世界があるのだということは貴殿の投稿から理解しました。
    ●2018年の事故当時(あるいはそれ以降)、私がネット上でこの件に関して発言したのはこのサイト以外にございません。また、どのような誹謗中傷があったのかも存じ上げておりません。このページで誹謗中傷しているとでも?
    ●「水島は進路予想の範囲内だから帰らなかった」なら私は理解できますが、船長独自の予想コースは東だったわけです。
    ●すみませんが、重複を避けるために以後は1問1答でお願いします。
    https://set333.net/2024/01/ume/

タイトルとURLをコピーしました