津波に耐えたアメダス釜石の風速計と日照計

太平洋側の最北40℃候補

8月5日に福島県のアメダス梁川で40℃が観測されたことで、太平洋側最北の40℃地点が群馬から宮城県境の福島県伊達市に移動しました。日本海側では山形県3地点で40℃が観測されていますが、秋田県のアメダス能代では39℃台の実績があります。

酒田北緯38度54.5分梁川北緯37度51.1分
鼠ケ関北緯38度34.0分桐生北緯36度24.6分
山形北緯38度15.3分前橋北緯36度03.6分
▲日本海側と太平洋側の40℃到達観測所

太平洋側の次の北上地点としては帯広近郊が有力視されますが、可能性があるとすれば釜石のようです。岩手県内の全アメダス観測所の最高気温を調べてみました。過去に38℃台をマークしているのは、釜石、岩泉、一関の3地点だけです。

区分標高観測所最高気温起年月日統計期間
久慈70種市35.4℃2015/08/051976/11~
久慈13久慈36.4℃2023/08/031976/11~
久慈8普代37.7℃1978/08/031976/11~
久慈290山形36.4℃2018/08/231977/10~
二戸148軽米36.2℃2018/08/231976/11~
二戸87二戸35.8℃1994/08/101976/11~
二戸430奥中山33.5℃2018/08/231977/10~
盛岡290荒屋35.0℃2018/08/231976/11~
盛岡418葛巻34.7℃2007/08/121976/12~
盛岡275岩手松尾35.7℃2023/08/051976/12~
盛岡205好摩36.0℃1999/07/271976/12~
盛岡680薮川31.8℃2018/08/231976/11~旧・藪川
盛岡155盛岡37.2℃1924/07/121923/09~気象台
盛岡195雫石35.8℃1978/08/021976/11~
盛岡125紫波36.3℃2007/08/141976/11~
宮古105岩泉38.5℃1994/08/121976/11~
宮古3小本36.9℃2023/07/311977/10~
宮古43宮古37.3℃1933/07/231883/03~旧測候所
宮古24山田37.5℃2015/07/141976/11~
宮古192川井37.5℃2007/08/131977/12~
宮古620門馬32.1℃1985/08/15~1993/10(廃止)
宮古734区界31.6℃2018/08/231993/10~
花北407沢内34.1℃2018/08/232017/07~
花北90花巻36.6℃2015/07/222003/01~花巻空港
花北150大迫36.4℃2018/08/231976/11~
花北61北上37.0℃2019/08/081976/12~
花北250湯田34.9℃2018/08/231976/02~
釜石4新町37.5℃2015/07/14~2021/12旧・小槌(廃止)
釜石5釜石38.8℃1994/08/141976/11~
遠野275遠野36.5℃2007/08/141976/11~
奥州97若柳36.9℃2015/08/051976/11~
奥州42江差37.3℃2021/07/191976/11~
大船渡80住田36.7℃2020/08/111977/10~
大船渡37大船渡37.0℃2023/07/301963/08~旧測候所
大船渡61陸前高田36.8℃2015/07/14~2021/12(廃止)
一関120千厩36.4℃2019/08/061976/11~
一関32一関38.2℃1994/08/091976/02~
▲岩手県内のアメダス観測所の最高気温

岩手の「南部」はわかりにくい

岩手県の気象区分は沿岸北部、沿岸南部、内陸の3区分になっているようです。沿岸北部が久慈市や宮古市など8市町村、沿岸南部が釜石市や陸前高田市や大船渡市など5市町村です。それ以外はすべて内陸というくくりです。

岩手県最南端の一関市役所から内陸最北端の二戸市役所までルート検索すると2時間10分です。これは新東名の秦野-新城間に相当します。岩手県内をノンストップで縦走踏破することはあまりお薦めされない行為です。

紛らわしいのが「沿岸南部」の呼称です。一般的には「南部」と言えば方角的に南というだけの単純な話です。地図はおおむね北が上ですから、地図上の下部が南部です。ところが、この地域にはかつて南部藩(盛岡藩)がありました。

この地域における「南部」は、
(1)「北部」と対で使われているのか、
(2)「伊達」とセットで使われているのか、
で話が大きく異なります。

気象庁区分の「沿岸北部」はすべて旧・南部藩です。「沿岸南部」のうち、釜石から南は旧・伊達藩(仙台藩)になります。「沿岸南部」で旧・南部藩に該当するのは、釜石市の北部と大槌町です。

アメダス釜石は釜石市のほぼ中心部にあり、旧・南部藩の藩域になります。アメダス釜石は二重の意味で「南部」となる希少な地域です。

アメダス釜石
アメダス釜石(地理院タイルを加工)

アメダス釜石は、もともとは釜石中央IC付近に設置されていたようです。釜石港から3.5キロほどの距離でした。1994年の最高気温38.8℃は、内陸に設置されていたこの時代に観測されたものです。

1995年に現在地に移転しています。海から600~700m、甲子川(かつし-がわ)から110mです。標高は5m、風速計の高さは6.5mということです。2011年3月の東日本大震災で釜石港を襲った津波高は8.4mだそうです(大船渡市白浜漁港で16.7m、宮古市藤原閉伊川河口で9.3m)。

アメダス釜石

観測露場の実際の標高は5mに若干欠けるようですが、一般的に雨量計はせいぜい50センチ程度で設置されています。気温計は原則1.5mです。雨量計には津波が流れ込んだはずです。温度計も水に浸かったものと思われます。

被災直後のアメダス釜石

震災当日の観測値は、15時20分の(10分)降水量0.0ミリ、気温4.8℃を最後に15時30分以降は途切れています。興味深いことに、風向風速と日照は3月14日の18時過ぎまで稼働していたようです。

日照計は風速計の柱の上部に取付けられることが多く、風速計のプロペラ部分も日照計のセンサー部分も浸水せずに済んだのでしょう。釜石も停電に巻き込まれたはずですので、一定程度の蓄電機能は備えているもののようです。

途絶えた観測が再開されるのは、4月28日の12時からです。釜石駅付近に設置された仮設的な施設だったものと思われます。翌2012年3月から元の場所に戻り、風速計の高さは標準の10mになりました。

復活したアメダス釜石

北上山地からの西風

現況はアスファルト駐車場内です。

アスファルト駐車場内

海岸から400~500mほどの石川県・アメダス志賀でも40℃の実績がありますので、海風が入って来ない条件が整えば40℃がないとも言い切れません。

アメダス釜石の年平均気温です。このペースで上がっていけば、いずれ40℃も射程内に入るものと思われます。

アメダス釜石の年平均気温の推移
気象庁>釜石(岩手県) 年ごとの値 主な要素

あと10年くらいは40℃の心配はしなくてもよさそうですが、もし先に釜石が40℃に届けば、日本海側を含めて最北になります。とはいえ、やはり順番的には秋田が先と考えるのが妥当なようです。過去4回の38℃台は次のとおりです。北上山地からの西風は必須です。

移転前38.1℃1986/7/29西南西
移転前38.8℃1994/8/14西南西
現在地38.4℃2015/7/14西南西
現在地38.6℃2015/8/05西北西
▲アメダス釜石の38℃台

2020~2022年の観測値

アメダス釜石の2020~2022年の観測値は次のとおりです。マイナス10℃台は1991年が最後です。

年降水量1869.5ミリ612位/1293地点
年平均気温12.9℃532位/922地点
年最高気温37.9℃131位/922地点
年最低気温-6.1℃456位/922地点
年較差44.0℃368位/922地点
年平均風速1.8m/s581位/921地点
年日照時間1656.7時間518位/841地点
▲釜石の2020年観測値
年降水量1865.0ミリ629位/1293地点
年平均気温13.0℃518位/921地点
年最高気温34.8℃547位/921地点
年最低気温-9.2℃525位/921地点
年較差44.0℃419位/921地点
年平均風速1.9m/s567位/920地点
▲釜石の2021年観測値
年降水量1522.5ミリ644位/1285地点
年平均気温12.9℃517位/916地点
年最高気温35.6℃390位/916地点
年最低気温-4.9℃341位/916地点
年較差40.5℃615位/916地点
年平均風速1.9m/s538位/915地点
年日照時間1927.4時間376位/842地点
▲釜石の2022年観測値

2022年の年較差40.5℃は県内最小でした。

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