対馬の観測所は3か所
東シナ海を北上して朝鮮半島に抜けた2019年台風18号の影響で、10月2日の最大瞬間風速1位は対馬の鰐浦(わにうら)、翌10月3日の最大瞬間風速1位は厳原(いづはら)でした。対馬の北端にあるのが鰐浦で、厳原は対馬の南部です。対馬にはアメダスの観測地点が3か所あります。空港の観測点はその所在地名の美津島(みつしま)で呼ばれています。

日本気象協会「tenki.jp」など複数のWebサイトではアメダス観測点の地図が掲載されていますが、おそらくは気象庁発表の緯度経度で座標入力しているものと思われます。実際の観測ポイントとは100~200mほどの差異が生じています。
厳原の場合は「北緯34度11.8分、東経129度17.5分」です。地理院地図では「北緯○度○分○秒」の形式に置き換えなければ座標検索できませんので、「北緯34度11分48秒、東経129度17分30秒」に変換して検索してみました。すると…。

海上にマーカーが示されてしまいます。もちろん海上観測しているわけではありません。ズバリ示されないということは、探す楽しみが残っているということでもあります。
運河2本で分断されている対馬
日本の島の面積ランキングは、本州、北海道、九州、四国、択捉島、国後島、沖縄本島、佐渡島、奄美大島、対馬の順です。国土地理院は対馬の面積を695.74km2としていますが、対馬は厳密には陸続きではありません。
対馬には東西の海を繋ぐ2つの運河があります。江戸時代に造られた大船越瀬戸(おおふなこしせと)と、1900年に海軍によって開削された万関瀬戸(まんぜきせと)です。ともに国道382号線が通り、大船越橋と万関橋が架けられています。

瀬戸の名が付いた2つの運河は空港の近くです。一般的にはこの運河付近が上対馬と下対馬の境となるようです。北部が上対馬で、南部が下対馬です。2018年5月撮影のストビューを埋め込みました。万関橋から見た万関瀬戸です。
上対馬と下対馬は、もともとは上県郡と下県郡に由来する区分と思われます。地名に「上」なり「下」なりが付されるときは、上目黒と下目黒、上賀茂神社と下鴨神社のように川の上流と下流の関係にあるケースが多いはずです。
対馬の最高峰は南部の矢立山ですが、そもそも南北に流れる川自体が対馬には存在しません。また、京都に近いのは南の下対馬です。何を基準にして対馬の「上下関係」が成立したのか気になります。
北部・上対馬の鰐浦
対馬のほぼ最北端に設置されているのがアメダス鰐浦です。ストリートビューでは確認できませんが、衛星写真では豊砲台跡付近の山中にそれらしい矩形の区画があります。

標高は63m、風速計の高さは8mとされています。2020年の観測値は次のとおりです。ほぼ山頂付近にあるせいか、風速はかなり強めです。2020年9月の台風10号では観測史上1位の最大瞬間風速48.9m/sを観測しています。
年降水量 | 1842.5ミリ | 639位 | /1293地点 |
年平均気温 | 16.1℃ | 253位 | /922地点 |
年最高気温 | 32.8℃ | 776位 | /922地点 |
年最低気温 | -4.1℃ | 332位 | /922地点 |
年較差 | 36.9℃ | 815位 | /922地点 |
年平均風速 | 4.8m/s | 47位 | /921地点 |
年日照時間 | 2122.5時間 | 102位 | /841地点 |
神戸とほぼ同緯度ですが、気温は神戸よりかなり低めです。1995年観測開始で35℃以上は過去3回しか観測されていません。
対馬やまねこ空港の美津島
「みつじま」ではなく清音の「みつしま」です。Google日本語入力でもMS-IMEでも「みつじま」では美津島に変換できません。対馬空港は2008年2月に「対馬やまねこ空港」の愛称を付けています。ツシマヤマネコは1971年に天然記念物に指定されています(イリオモテヤマネコは特別天然記念物)。
2020年の観測値は次のとおりです。鰐浦より降水量が多めです。2003年観測開始で35℃台は2回観測されているだけです。
年降水量 | 2162.5ミリ | 426位 | /1293地点 |
年平均気温 | 16.0℃ | 261位 | /922地点 |
年最高気温 | 32.8℃ | 776位 | /922地点 |
年最低気温 | -3.0℃ | 249位 | /922地点 |
年較差 | 35.8℃ | 841位 | /922地点 |
年平均風速 | 3.5m/s | 135位 | /921地点 |
標高63mで風速計の高さは10.1mとされています。2020年9月の台風10号ではやはり観測史上1位の最大瞬間風速44.2m/sを観測しました。正式名称としては「対馬航空気象観測所」です。
南部・下対馬の厳原は旧測候所
アメダス厳原は厳原港ターミナルビルと接続する合同庁舎が観測地点です。2009年に無人化された旧・測候所になります。歴史は古く1886年の観測開始です。

2020年の観測値は次のとおりでした。鰐浦や美津島とくらべて降水量が多いのが特徴的です。風速計は庁舎の屋上に設置されており地上からの高さは36.1mです。福江島で教会が倒壊した1987年8月の台風12号で最大瞬間風速52.2m/sを観測していますが、そのときも屋上の風速計だったかどうかはわかりません。
年降水量 | 2937.0ミリ | 148位 | /1293地点 |
年平均気温 | 16.4℃ | 219位 | /922地点 |
年最高気温 | 34.3℃ | 649位 | /922地点 |
年最低気温 | -2.3℃ | 197位 | /922地点 |
年較差 | 36.6℃ | 823位 | /922地点 |
年平均風速 | 3.2m/s | 168位 | /921地点 |
年日照時間 | 1932.9時間 | 265位 | /841地点 |
厳原で36℃台の気温が観測されたのは過去6回あります。
1966/08/07 | 36.0℃ |
2013/08/11 | 36.0℃ |
2013/08/19 | 36.2℃ |
2013/08/20 | 36.6℃ |
2016/08/13 | 36.8℃ |
2018/07/26 | 36.9℃ |
10年単位の平均気温をグラフ化してみました。ただし、厳原における気温の観測値については、1895年10月と1991年8月末に赤線が入っています。何らかの観測条件がこの前後に変わっているようです。

離島の厳原ですが、1910年代の平均気温は14.6℃、2010年代の平均気温は16.1℃ですから、100年で1.5℃上昇しています。また、最高気温が35℃以上に達した「猛暑日」は、1901年から2000年までの100年間つまり20世紀には11回でしたが、21世紀の21年間ではすでに18回を数えています。
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